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家賃滞納、深夜の奇声、孤独死…高齢入居者が「認知症」に。中古アパートオーナーがとるべき「法的対策」を弁護士が解説

少子高齢化が急速に進む日本において、賃貸経営を取り巻く環境は大きく変化しています。特に中古アパート経営では、高齢入居者の増加は避けられない流れであり、それに伴う新たな課題も顕在化してきました。入居者が認知症と診断された場合、家賃滞納、近隣トラブル、物件の汚損破損、そして万が一の孤独死のリスクまで、その影響は多岐にわたります。本記事では、中古アパート経営において高齢入居者の認知症が発覚した場合に生じる具体的な問題点と、オーナーが取るべき対策について、不動産を専門に取り扱う山村暢彦弁護士が解説します。

家賃の支払い忘れが増えた、高齢入居者の“異変”

ある中古アパートのオーナーが直面したのは、長年問題なく暮らしていた高齢入居者の異変でした。毎月きちんと支払われていた家賃が、あるときから頻繁に滞るようになったのです。

当初は「銀行に行き忘れただけだろう」「手続きの不具合かもしれない」と考えていたものの、次第に支払い遅延が常態化し、催促しても話が噛み合わない場面が増えていきます。近隣住民からも「夜中に大声を出している」「ゴミ出しができていない」といった苦情が寄せられるようになり、オーナーはようやく入居者の認知症を疑うに至りました。

認知症の進行によって日常生活の判断能力が低下すると、家賃滞納だけでなく、契約内容の理解や近隣との円滑な関係維持にも支障をきたします。オーナーにとっては「支払い遅延」という小さなサインが、実はより深刻な問題の前触れであることを示す、典型的なケースといえるでしょう。

最も重要な「早期発見」と「情報収集」

高齢入居者の認知症リスクに対応するうえで、最も大切なのは「早期発見」と「適切な情報収集」です。認知症は一度進行すると元に戻ることは難しく、日常生活に支障がではじめてからでは対応が後手に回ってしまいます。

家賃滞納や生活習慣の変化はその初期サインであることが少なくありません。オーナーや管理会社が、小さな違和感を見逃さないことが重要になります。また、入居時に緊急連絡先や親族の情報をきちんと確認・更新しておくことも不可欠です。異変を察知した際に、迅速に家族へ連絡できれば、被害拡大を防ぐことも可能でしょう。さらに、地域包括支援センターや福祉機関と連携することで、入居者の生活を支えつつオーナーの負担を軽減できるケースもあります。

認知症によるトラブルを「想定外」とせず、早期に兆候をつかみ、正確な情報に基づいて対応する姿勢こそが、安定した賃貸経営を守る第一歩です。

認知症が招く「4大賃貸経営リスク」

入居者が認知症を発症すると、賃貸経営に直結するさまざまなトラブルが現実化します。

1.家賃滞納

支払い期日を忘れたり、手続きを誤ったりすることで延滞が慢性化し、オーナーのキャッシュフローに影響します。

2.近隣トラブル

ゴミ出し違反や騒音、誤って隣室に入ってしまうといった行為は、ほかの入居者の退去やクレームに発展する恐れがあります。

3.事故リスク

火の不始末や水道の閉め忘れといった事故は、物件の損傷や重大な災害につながりかねません。

4.孤独死リスク

発見が遅れれば事故物件となり、資産価値に大きな打撃を与えることになります。

これらのトラブルは単発で終わらず、複合的に発生して経営リスクを増幅させる点が特徴です。オーナーは「認知症=医療や介護の問題」と片付けず、不動産経営に直結するリスクとして具体的に想定しておく必要があります。

いますぐできる事前対策

高齢入居者の認知症リスクに備えるには、契約段階からの工夫と日常の管理体制が不可欠です。

まず、入居時には緊急連絡先や身元保証人を明確にし、できれば複数の連絡先を確保しておくことが望まれます。また、近年は見守りサービスや生活センサーを導入する大家も増えており、異常を早期に察知する仕組みを備えることでトラブルを未然に防げます。さらに、家族がいない場合や保証人の対応が難しい場合には、任意後見契約や成年後見制度の利用を検討することも選択肢の一つです。

契約書には「ゴミ出しや騒音などの生活ルール違反が続く場合は契約解除の対象になる」といった条項を盛り込んでおくことで、万一の際に法的対応を取りやすくなります。

オーナー自身が単独で抱え込むのではなく、管理会社や弁護士と連携し、問題が発生したときに迅速に動ける体制を作っておくことが、長期的に安定した賃貸経営を守る最大の予防策となります。

単純な賃貸保証だけでは不十分な時代へ

今回ご紹介したのも、実際にあったご相談がベースになっています。その案件は、認知症で賃料不払いとなり、行政に応援を求めるも対応してくれず、賃料滞納に基づく訴訟と強制執行によって立退きを求めるようなご相談でした。もっとも、入居者がご高齢ということもあり、委任契約を締結して業務開始という段階で亡くなってしまいました。相続人も不明でしたが、行政のサポートで、死後の手続きはなんとかなったようです。

このように、高齢入居者の認知症という問題は、今後ますます増加していくと考えられます。単純な賃貸保証会社だけではなく、身元保証会社等の利用も考えねばならない時代になってきたのかもしれません。

監修:山村 暢彦氏(山村法律事務所 代表弁護士)

監修:山村 暢彦氏(山村法律事務所 代表弁護士)

専門は不動産法務、相続分野。実家の不動産トラブルをきっかけに弁護士を志し、現在も不動産法務に注力する。日々業務に励む中で「法律トラブルは、悪くなっても気づかない」という想いが強くなり、昨今では、FMラジオ出演、セミナー講師等にも力を入れ、不動産トラブルを減らすため、情報発信も積極的に行っている。


クライアントからは「相談しやすい」「いい意味で、弁護士らしくない」とのコメントが多い。不動産・相続のトラブルについて、自分ごとのように解決策を提案できることが何よりの喜び。


さらに不動産・相続法務に特化した業務に注力するため、2020年4月1日、不動産・相続専門事務所として山村法律事務所を開設。


山村法律事務所ウェブサイト https://fudousan-lawyer.jp/


不動産大家トラブル解決ドットコム https://fudousan-ooya.com/


著者登壇セミナー https://kamehameha.jp/speakerslist?speakersid=1098


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