アパート経営…「個人事業主」と「法人化」どっちがお得?【税理士が解説】
アパート経営を行うメリットのひとつに「節税効果」があります。「個人事業主」と「法人化」では税金にどのような違いがでてくるのか……多賀谷会計事務所の宮路幸人税理士が解説します。
「個人事業主」としてアパート経営を行うメリット・デメリット
アパートなどの賃貸物件を経営している人は、その目的や規模を含めさまざまです。会社員の副業として取り組む人もいれば、専業の人もいます。では、「個人事業主」としてアパート経営を行う場合、どのようなメリットがあるでしょうか。
主なメリットとしては、法人に比べて「申告が簡易である」という点でしょう。
一方デメリットとしては、不動産所得が多額になる場合、法人に比べて税率が高くなり、税負担が大きくなる点があげられます。
個人事業としてアパートを経営する場合、多くは、税務署に青色申告承認の申請をし、青色申告により申告を行う必要があります。
青色申告にすると、事業的規模で行っている等の要件(※)を満たす場合、65万円の青色申告控除を受けることができますし、事業的規模でない場合でも、10万円の控除を受けることができます。また、損失が出た場合、その損失を3年間繰り越せるというメリットもあります。
※貸間、アパート等の場合の判断基準(貸与することのできる独立した室数がおおむね10室以上であること)、独立家屋の貸付けの場合の判断基準(収益物件がおおむね5棟以上であること)のいずれかに該当する場合、不動産所得が「事業的規模」であると認められます。
賃貸経営にかかる所得税以外の税金としては、所有不動産に係る固定資産税が大きいでしょう。加えて、不動産所得に連動して住民税と国民健康保険料の税額にも影響するほか、事業的規模でやっている場合は事業税もかかってきます。 所得が少ないうちは個人事業主として申告するほうが有利ですが、ある程度の事業規模になったら法人化を検討するとよいでしょう。
「法人化」してアパート経営を行うメリット・デメリット
個人事業として賃貸経営を続けるなかで、業績が順調に推移して不動産所得が高額となってくると、所得税等の税負担が大きく感じてくると思います。そのような場合、法人化を検討するのがよいでしょう。
「法人化」最大のメリットは、税率の軽減です。所得税は累進課税であるため、所得が高くなるにつれて税率も上がります。一方、法人税は基本的に固定税率となるため、一定の所得を超えた場合、所得税よりも法人税のほうが低い税率となるのです。
個人事業である場合、所得税と住民税の最高合計税率は55%ですが、法人税の場合、中小企業の実効税率はおおむね33%といわれていることから、不動産所得が高くなってきた場合、法人を設立したほうが税率は低くなり有利であるといえるでしょう。
一方、主なデメリットは、会社設立の際に費用がかかることがあげられます。会社の資本金を準備する必要があるほか、会社設立費用が発生します。 また、個人の所得税の申告は自分でできる人もいますが、法人となると決算報告書の作成など会計税務面での整備も必要となるため、税理士報酬の支払いなど、月々のランニングコストが発生します。
どのような場合に「法人化」すべきか
では、どのくらいの所得であれば法人化すべきなのでしょうか。
一般的にいわれているのは、課税所得が1,000万円超であれば、上記ランニングコストを考慮しても法人化のメリットがでてくるといわれています。
たとえば、個人では課税所得が900万円を超える場合、住民税と所得税の合計税率が43%となるため、上記中小法人の実効税率よりも10%ほど有利です。このためランニングコストを考慮しても法人化すべきといえるでしょう。
法人化するにあたって、個人から物件を賃貸し、サブリースとして転貸する方法もありますが、その場合のサブリース料は80%から90%が相場となるため、あまり法人に差益が生じずメリットはさほどありません。 法人化する場合、一般的には個人所有の不動産を法人が買い取る方法や、法人でアパ-トを建築したり、購入した中古物件を自社物件として賃貸したりする方法が有利であるといえます。
アパート経営で「節税効果」を最大限享受するためには
前述したように、アパート経営における法人化のメリットは、以下のとおりです。
① 個人の最高税率と法人の税率差により、支払う税金を抑えることができる。
② 法人の業績により役員報酬を決められるため、個人所得の調整が可能となる。また、役員報酬として家族にも報酬を支払うことができる。
③ 給与所得とすることにより、給与所得控除の適用を受けることができる(最大195万円)。
④ 法人は営利目的で設立されるため、個人事業と比べて経費の範囲が広くなる。
⑤ 個人で所有する不動産を法人に移し、個人の所有財産を「不動産」から「株式」に変更することにより、相続財産の評価額を減らすことができる。
⑥ 法人の場合、損失を10年間繰り越すことができる(個人の場合は3年)。
⑦ 設立1、2期目は原則として消費税の免税事業者となる。
一方、法人化がデメリットとなる場合は以下のとおりです。
① 会社を設立する際に資本金を準備する必要があるほか、会社設立等の費用もかかる。
② 運営費用(税理士報酬等・法人住民税均等割)が毎年かかる。
③ 法人である場合、社会保険の加入が必要となり、コスト増となる。
④ 個人名義の不動産を法人が購入する場合、不動産取得税や登録免許税がかかる。
⑤ 個人と比べて、税務調査の対象となる可能性が高まる。
⑥ 年金を受給している人の場合、給与所得金額により年金が支給停止になる場合がある。
⑦ 個人事業に戻る場合、会社解散・清算する場合にも費用がかかる。
このように不動産投資を進めるうえで、「個人事業主」と「法人」、それぞれのメリットとデメリットを紹介してきました。
一概にどちらがよいとはいえませんが、「おおむね不動産所得が1,000万円を超える場合は法人化を検討してみるのがよい」でしょう。 しかしながら、各人の状況(たとえば、相続税の節税目的など)により、設立したほうが有利かどうかは異なるため、気になる人は税理士などの専門家に相談のうえ、検討することをおすすめします。
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