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借主と「契約更新料」で揉めないために…アパートオーナーがとるべき対策【弁護士が解説】

入退去シーズンのこの時期に頻発するアパートの契約更新時トラブル。契約更新料を借主に請求し、「納得いかないので払わない」といわれないためにも、アパートオーナーは事前にトラブル対策をしておく必要があります。具体的にはどのような対策でしょうか? 清水将博弁護士が詳しく解説します。

「更新料を払いません」…訴訟に発展、裁判所の判断は?

更新料については、判例(最判平成23年7月15日)において、更新料の支払を約する条項が、消費者契約上有効かどうかが争われたことがあります。この事案の概要は、次のとおりです。

賃貸人が、賃借人に対し、賃貸アパートの1室(以下「本物件」といいます)を賃貸する際、賃貸人及および賃借人は、賃貸借契約書を作成しましたが、その契約書には、更新料について、次のように規定されていました。

第●条(契約の更新)

1 (省略)

2 賃借人は、契約期間の満了する60日前までに申し出れば、契約更新をすることができる。ただし、賃借人に家賃滞納等の契約違反がみられるとき、賃貸人は契約更新を拒めるものとし、賃借人は契約の更新を主張できないものとする。

3 賃借人は、契約を更新するときは、契約期間満了までに更新書類(中略)提出とともに、頭書(2)の更新料の支払を済ませなければならない。又、法定更新された場合も同様(賃借人は更新料を賃貸人に支払わなければならない)とする。尚、契約更新後の入居期間にかかわらず更新料の返還(月割り清算等の返還措置)は一切応じない。(「頭書(2)の更新料」とは、賃料の2か月分相当額を指す。)

4 賃借人は、賃貸人に対し、法定更新・合意更新を問わず、契約開始日から1年経過するごとに更新料を支払わなければならない。

賃借人はこの規定に基づき、3回更新を行い、更新料として賃料の2ヵ月分相当額を支払っていました。なお、この更新は合意更新です。

その後、法定更新がなされた際に、更新料の支払いがなかったことから、当事者のあいだで更新料の支払義務についてトラブルに発展。賃借人が支払った更新料の返還を求める訴訟を提起し、それに呼応して、賃貸人が未払いである法定更新における更新料の支払いを求めました。

そして、最高裁判所は、賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法第10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」にはあたらず、有効であると判断しました。

つまり、最高裁判所は更新料に関する規定について、

①賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載されていること

②更新料の額が不相当に高額ではないこと

を満たす場合には、有効である(消費者契約法第10条には抵触しない)との判断を示しています。

更新時のトラブルを未然に防ぐには?

1.賃貸借契約書に一義的かつ具体的に更新料に関する規定を記載する

まず、トラブルを未然に防ぐためには、上記の判決も述べているように、賃貸借契約書において、一義的かつ具体的に更新料についての規定を設けることが重要です。具体的には、

①いつ更新料が発生するのか

②更新料がいくらであるのか

③更新料をいつまでに支払う必要があるのか

という点について、賃貸借契約書に規定することが重要です。そのうえで、重要事項説明書にも記載し、事前に説明を行うようにしましょう。

2.更新の類型ごとに、更新料が発生するかどうかを明確に規定する

更新には、①合意更新、②自動更新、③法定更新の3つの類型があります。

①合意更新は、期間満了毎に、当事者間の合意によって賃貸借契約を更新するものをいいます。

②自動更新は、期間満了の際、反対の意思表示がなければ自動的に賃貸借契約が更新される内容で合意するものをいいます。

多くの賃貸借契約は、①合意更新または②自動更新のいずれかの規定が設けられていると思いますが、これらの場合において、更新料が発生するということを明確に規定するようにしましょう。

また、③法定更新の場合についても、更新料が発生するかどうかを明確にすることが望ましいです。

たとえば、合意更新に関する規定が設けられていた場合に、期限までに合意がまとまらなかったときには、借地借家法第26条第1項の規定に基づき「法定更新」の効果が生じます。このときに、更新料が発生するのかどうかがトラブルになりやすいですので、法定更新の場合でも更新料が発生することを明確に規定するようにしましょう。

条文例は次のとおりです。

本契約が借地借家法第26条第1項の規定に基づき法定更新された場合であっても、賃借人は、賃貸人に対し、法定更新された日から1月以内に、更新料として、新賃料の●ヵ月分に相当する金員を支払うものとする。

3.賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額にならないように更新料を設定する

上記の判決も述べているように、「更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情」があった場合には、更新料に関する規定が無効であると評価されるおそれがあります。

一義的にどのような場合が高額であるのかを具体的に示すことはできませんが、この判例においては、①更新料が賃料の2ヵ月分であること、②賃貸借期間が1年であることという事案において、特段の事情は認められないと評価されていることは参考になるところです。

4.更新料の支払がない場合には、賃貸借契約の解除も視野にいれる

更新料の支払義務があることを賃貸借契約において明確に規定していたにもかかわらず、賃借人が更新料の支払を行わない場合には、賃借人による債務不履行を理由として、賃貸借契約を解除することも考えられるところです。

ただし、賃貸借契約の解除が認められるためには、賃貸人と賃借人との間の信頼関係が破壊していると評価されることが必要であるところ、東京地判平成27年11月19日では、2回分の更新料の不履行だけでは解除を認めませんでした。

そのため、更新料の不払いを理由に賃貸借契約の解除を検討する場合には、更新料の支払以外にも、賃借人に約定違反がないかなどを検証したうえで、解除をするかどうか判断するとよいでしょう。

まとめ

以上のとおり、更新料についてのトラブルを回避するためには、

①賃貸借契約書において、一義的かつ具体的に更新料についての規定を設けること

②賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額にならないように更新料を設定すること

が重要です。

このような観点から、自己物件について、更新料が無効と評価されるリスクがないかどうかを検討し、必要に応じて賃貸借契約書や重要事項説明書の記載の修正、更新料の金額の見直しなどを行うとよいでしょう。

監修:清水 将博氏(MSみなと総合法律事務所 代表弁護士)

監修:清水 将博氏(MSみなと総合法律事務所 代表弁護士)

専門は不動産法務、M&A法務、ベンチャー法務。


不動産に関する資金調達スキーム(不動産の証券化、信託スキーム、不動産特定共同事業法が適用されるスキーム等各種プロジェクト・ファイナンス、現物不動産の取引)において、さまざまなプレーヤーのカウンセルとして関与するなかで、不動産をめぐる各種訴訟等(テナントの退去に関する交渉、明渡訴訟、仲介会社や管理会社とのトラブル等)も数多く対応する。


一般社団法人不動産ビジネス専門家協会に所属し、セミナーへの登壇、執筆活動にも力を入れる。


「法務でビジネスを加速させる」をモットーに、バランス感覚を大切に、スピーディーにかつリーズナブルに案件の対応に取り組んでいる。


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