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「長期間賃料保証」のはずが…たった数年で減額を要求された!アパート経営の「サブリース」の注意点【弁護士が解説】

効果的な利用ができれば、アパート経営において空室リスクを減らせるサブリース。一方で、サブリース利用によってトラブルに発展するケースもあります。特に多いのは「賃料減額トラブル」です。本記事では、法律事務所Zの溝口矢弁護士がサブリースの注意点について、賃料減額トラブルを中心に解説いたします。

サブリースとは?

下記を「サブリース事業」といいます。

マンションやアパート、ビル等の建物について、

  • 賃貸人(オーナー、不動産投資家、建物所有者)が、サブリース業者(不動産会社)に複数の部屋をまとめて貸す建物賃貸借契約を締結
  • サブリース業者から入居者・エンドテナント(転借人)にこれらの部屋をさらに貸す建物転貸借契約を締結するという関係を利用して、賃貸人とサブリース業者の双方の収益を獲得する目的をもって行われる事業のこと

①の契約は、マスターリース契約、(広義の)サブリース契約、一括賃貸借契約、②の契約は、(狭義の)サブリース契約、入居者・エンドテナントとの賃貸借契約・転貸借契約とさまざまな呼ばれ方をします(取引時はどの契約を指すか注意しましょう)。

今回は、①の契約をマスターリース契約、②の契約をサブリース契約と表記するかたちで統一します。

[図表]サブリース事業の仕組み

サブリース業者・賃貸人のそれぞれのメリット

サブリース業者は、賃貸人に賃料収入を約束して(賃料保証・家賃保証という言葉がよく用いられます)建物をまとめて借り上げたうえ、借上賃料よりも高額の転貸料を設定して入居者・エンドテナントに建物を転貸し、差額分を収益として得ています。

賃貸人としては、サブリース業者を活用することによる賃貸管理の負担軽減、賃料保証・家賃保証による空き室・賃料下落リスクの軽減をしながら、賃料収入を得ることができるという点で、サブリース業者としては、資金調達や不動産の取得コストをかけることなく、収益を獲得することができる点で、サブリース事業に携わるメリットがあるといわれています。

サブリース事業に関心を寄せる不動産投資初心者

少子高齢化や単身世帯の増加等の社会情勢の変化により、生活基盤としての賃貸住宅の重要性・需要は増加傾向にあります。このようななかで、相続等をきっかけに賃貸事業を始める不動産事業の経験が少ない建物所有者がサブリース事業に関心を寄せているようです。

近年、サブリース業者が賃貸人(になろうとする者)に対して、賃料の減額やマスターリース契約解除の条件など、サブリース事業の賃貸経営に関するリスクやデメリットを説明せず、契約内容を誤認させたままマスターリース契約を締結に至らせ、後にトラブルが発生するという事例が増加しています。

このような賃貸人とサブリース業者とのあいだのトラブル発生を防止するため、令和3年6月15日、「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」(賃貸住宅管理業法)が施行されました。

サブリース事業の形式で賃貸人になろうとされる方は、以下の点にご注意ください。

①契約期間中・更新時に賃料が減額されてしまう可能性があること

②契約期間中であっても契約が解約されてしまう可能性があること

③賃料収入だけではなく建物の修繕費等の負担(支出)もあること

④融資審査はサブリース業者に任せず賃貸人が行うべきであること

特に、最後の注意点は、近年、サブリース業者が賃貸人の通帳の残高を改ざんする、金融機関が融資の条件として不必要な保険商品の購入やカードローンの契約をさせるなどといった事例があり、大きな問題となりました。不動産投資全般にいえることではありますが、賃貸人は、自らの頭でよく考えて取り組むことがとても重要です。

以下では、①の注意点について説明します。

サブリース事業における「賃料減額請求」には要注意!

マスターリース契約は、賃貸人がサブリース業者に建物を使用収益※1させ、サブリース業者が賃貸人に対してその対価として賃料を支払うものであり、この点でほかの建物賃貸借契約と変わることはありません。

※私法上の概念で、ものを直接に利活用して利益・利便を得ることをいう

そのため、借地借家法が適用され、賃料増減額の請求の根拠となる借地借家法第32条第1項の規定も適用されることとなります。

マスターリース契約の締結前にサブリース業者が長期間の賃料保証をうたっていた場合でも、賃貸人はサブリース業者から同条に基づき賃料減額請求をされる可能性があります。

しかしながら、サブリース業者から賃料減額請求があった場合でも、根拠がない場合には賃料減額に応じる必要はありません。

賃料減額請求があった2つの判例

裁判例では、空き家が生じたためにサブリース業者から賃料減額請求があった事例で、安易に空き家のリスクを賃貸人に転嫁できないとして、賃料減額請求を否定したものがあります※2

※2 千葉地方裁判所平成20年5月26日判決(平成17年(ワ)第1967号)

また、サブリース業者が賃貸人に対し支払う賃料が、サブリース業者が転借人らから受け取る転貸料を上回っている状態(逆ざや状態)が生じるなどしたために、サブリース業者から賃料減額請求があった事例もあります。

逆ざや状態等の「諸事情が賃料減額請求の当否を検討する際の一要素となるとしても、これらの事情によって」「約束された」賃貸人の「収益確保が過度に脅かされるものであってはならないと考えられる」との指摘がされています※3

※3 東京高等裁判所平成23年3月16日判決(平成22年(ネ)第6377号)

賃料減額請求があった場合には、このような裁判例があることも踏まえ、どのように対応していくかを、法律、判例・裁判例の傾向、サブリース業者との関係性、キャッシュフロー等のさまざまな側面から検討していく必要があります。

十分にサブリース利用のリスクを考慮する

以上のとおり、サブリース業者が長期間の賃料保証がうたっている場合でも、実際には契約期間中や契約更新時に賃料減額請求をされてしまう可能性があります。マスターリース契約を締結する場合には、その可能性を十分に考慮したうえで、慎重に検討するようにしましょう。

また、サブリース業者から賃料減額請求があった場合、必ずしも当該請求を受け入れなければならないということではありません。サブリース業者からの賃料減額請求に根拠があるかを冷静に確認したうえで、諸事情を総合的に検討し、適切な対応をとれるよう努めることが大切です。

これらの対応は、法律等の専門的知識が必要となる場合も少なくありません。マスターリース契約の契約書のリーガルチェックや賃料減額請求に対する対応については弁護士、適正賃料価格に関する鑑定については不動産鑑定士にご相談するなど、必要に応じて専門家の活用も検討されることをおすすめします。

溝口 矢氏(法律事務所Z アソシエイト・東京オフィス 弁護士)

溝口 矢氏(法律事務所Z アソシエイト・東京オフィス 弁護士)

2016年慶應義塾大学法科大学院卒業後、ベンチャー企業でのマーケティング等に関与。 弁護士登録と同時に入所した弁護士法人Martial Artsでは、不動産分野、債権回収を中心に多数の一般民事事件や中小企業法務を取り扱った。不動産会社内で企業内法務にも携わる。 知的財産分野に関心があり、エンターテインメント関係の相談対応も手掛けている。


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