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騒音、勝手に同居…「賃貸経営」頻出トラブルへの対処法【弁護士が解説】

数ある賃貸トラブルのなかでも特に多いのが、騒音や無許可での同居です。大家としては、こうした厄介な入居者には退去してもらいたいところですが、実は、これらの賃貸トラブルがあったとしても、必ずしも賃貸借契約を解除できるわけはありません。では、こうしたトラブルに巻き込まれた場合、どのように対処すべきでしょうか。自身も不動産投資家としての顔を持つ、山村暢彦弁護士が解説します。

よくある「騒音」「無許可同居人」トラブル

今回のテーマである「騒音」や「無許可同居人」トラブルは、相談数は多いのですが、法的解決が困難なことが多く、大家さんにとっては厄介な問題です。先にポイントからお話しすると、いずれも「契約違反の証拠化」が難しいのに加えて、「軽微な契約違反」では、賃貸借契約解除+立退請求を認めてくれないからです。

まず、騒音トラブルで多いのは、深夜になっても大音量を流している、友人などを呼んで隣人の迷惑を考えずに騒ぐ、深夜に奇声を発して隣人が恐怖を感じるなどのトラブルです。

大家さんや管理会社としては、隣地の方からクレームがきて、注意・警告を入れることになるのですが、ここで問題なのが、「騒音」の証拠が残っていないことが多いことです。

臭い、音、振動、日当たりなど、人の感じ方によって程度が変わるものは、裁判所の判断が厳しいことが多いです。そのため、「騒音の証拠」を残すことは困難です。具体的にいうと、騒音計などでどの程度のうるささだったのかが、事後的にわからなければ、そもそも「騒音問題」があったかどうかが判断できないのです。

特に近年では、むしろ騒音といえるほどのことがなかったにもかかわらず、振動などを病的に気にしており、クレームを入れている側のほうが社会常識よりおかしいということもありえます。騒音問題は、スタート地点にたつだけでも、「騒音計を購入して、毎度、記録化する」など、ハードルが高いことがわかっていただけたのではないかと思います。

次に、無許可の同居人の問題も、「証拠」の発見が難しいです。たとえば、どう考えても契約時の賃借人と異なる方が居住していて、周りに迷惑行為をしているとなれば、問題の証拠も集まりやすいかと思います。もっとも、ここまで極端なケースは少なく、友人を勝手に泊めているとか、男女が同棲したり等、契約時の賃借人以外の人が住んでいるということが多いです。

大家さん側からすれば、万が一他人が住み着いていると、居住者が死亡した際の権利整理なども複雑になりますし、そもそも契約上賃借人と認めた人以外には住まないでほしいとは思うのですが、法的に咎めることは難しいのが現状です。

ひとつ目の理由は証拠が残りづらいからです。家のなかの実際上の利用状態は大家さんや管理会社とて把握できません。

もうひとつの理由は、この程度の契約違反ですと、実害が大きくなければ賃貸借契約を解除するための信頼関係を破壊するに足りるほどの事由にはならない、と判断される可能性が高いからです。部屋を借りた側の「居住権」を守ろうとの考えから、賃借人の軽微な契約違反では立退は請求できず、重大な契約違反でないと立退請求は認められない、との裁判所の考え方です。

なかなか、「騒音」も「無許可の同居問題」も、法的な解決がしづらく、管理会社も大家さんも対処が難しい問題といえるでしょう。

過去、実際に起きた裁判の事例

なかなか難しい問題ですが、相当酷いときには騒音問題などに対処できた裁判例もあるので、ご紹介します。

区分所有マンションの事例ですが、管理組合がある特定の部屋に住む入居者に対して、夜間午後10時~午前6時のあいだに、60dB(※)を超える騒音を起こさないようにと差し止め請求を認めた裁判例があります(東京地判、平26.11.5、ウエストロ・ージャパン)。
※60dB…走行中の自動車内、普通の声での会話、デパートの店内レベル

管理組合が、騒音を何度も記録していたことが証拠として示されており、判決内容でも、環境庁が告示した「騒音に係る環境基準」を参考に、夜間(午後10時~午前6時)に60dBを超える音量は「騒音」にあたると認定されています。

この裁判例を参考にすれば、(1)騒音計で騒音を測定、記録し(2)環境基準と比べて騒音と呼べるものであることを立証するというのが大事です。ただ、いうほど簡単ではなく、なかなか難しいです。

他方、無許可同居だけで立退請求まで認められるような裁判例は、私が調べた限りでは、見当たりませんでした。

また、騒音とも絡むものですが、この手に関連する話で立退請求が認められている事例としては、騒音を含めた迷惑行為の程度が非常に酷く、「迷惑行為による立退請求」が認められている裁判例なら多数散見されます(東京地判平10・5・12判事1664―75他)。

ただ、こちらの裁判例や前述の騒音の裁判例も含め、立退を認めているものは、警察を呼ぶレベルで迷惑行為の程度が酷いものが多く、現実の多少の迷惑行為や騒音クレームなどに対処できるような裁判例はなかなかないのが現状です。

現実的なトラブルの予防法およびトラブルが起きたときの対処法

現実的な「騒音」「無許可同居」などの対処は、ご紹介したように裁判沙汰にすれば、なんとかなると期待してはいけません。軽微な契約違反は賃借人を追い出すところまで認定されず、現実には、管理会社や大家さんからたびたび警告を出すなど粘り強い対応が必要です。

ただ、この2つのトラブルについては、「証拠がなくスタート地点」に立てないというのが類似する問題点です。このため、抜本的な解決策ではなくとも、(1)騒音については、騒音計を購入して、記録付けするような対応を取る、(2)無許可同居については、防犯目的として監視カメラを設置し入居者、利用者の確認を副次的に行う、などが現実にできる対処法かと思います。

監視カメラについては、あくまで廊下や入口などの共用部に設置するのが重要であり、いうまでもなく室内に勝手に監視カメラを設置すると住居不法侵入罪など、逆につかまりかねません。現実にトラブルが生じたら、お近くの専門家にも確認を取って進めていくのがよいでしょう。

監修:山村 暢彦氏(山村法律事務所 代表弁護士)

監修:山村 暢彦氏(山村法律事務所 代表弁護士)

専門は不動産法務、相続分野。実家の不動産トラブルをきっかけに弁護士を志し、現在も不動産法務に注力する。日々業務に励む中で「法律トラブルは、悪くなっても気づかない」という想いが強くなり、昨今では、FMラジオ出演、セミナー講師等にも力を入れ、不動産トラブルを減らすため、情報発信も積極的に行っている。


クライアントからは「相談しやすい」「いい意味で、弁護士らしくない」とのコメントが多い。不動産・相続のトラブルについて、自分ごとのように解決策を提案できることが何よりの喜び。


さらに不動産・相続法務に特化した業務に注力するため、2020年4月1日、不動産・相続専門事務所として山村法律事務所を開設。


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