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常に満室経営の「アパートオーナー」…「税務署」から突然狙われたワケ【税理士が解説】

税務調査の対象となるのは、基本的には事業を行うすべての人ですが、なかでも狙われやすい人がいるといいます。一体どのような人が狙われやすいのでしょうか? 本記事では、税理士の小川明雄氏が副業オーナーのAさんの事例とともに、アパート経営の税務調査の実態について解説します。

「長い目で見れば安上がりかも…」リフォームを決断

Aさんは、会社員として勤務する傍らアパート経営を行う副業オーナーで、縁あって約10年前に中古アパート一棟(10室)を取得しました。取得時から入居者の入れ替わりは度々ありましたが、特段問題なく次の入居者が決まり、満室が続いている状況です。Aさんは順調に運営できてほっとしていました。

そんななか、とある入居者の退去が決まり、1室空きが出ることになりました。退去に伴う手続と次の入居者の募集について不動産業者と相談していたところ、「アパートも築20年を超えているので、そろそろ台所やお風呂等の水回りの修繕工事を行ったらどうか」とのアドバイスを受けます。

内装工事業者に相談すると「それなら、機能がよくなり見た目もきれいになるから、思い切ってシステムキッチンとユニットバスに取り換えるのはどうか」と提案されました。Aさんはしばらく悩みましたが、「きれいになれば家賃を上げられるし、水回りのトラブルが減って、長い目で見れば安上がりかもしれない」と考え、取替工事を決断しました。

工事の結果、キッチンとお風呂が新品となり、思った以上に見栄えがよくなったため、Aさんは大満足です。さらに嬉しいことに、キッチンとお風呂の工事代金回収のためにも強気の家賃を掲示しましたが、次の入居者もすぐに決まりました。

「税金が安くなった」と喜んでいたAさんだったが…

年が明け、例年どおり自分で確定申告作業を行っていたところ、今回の申告に修繕工事の費用を計上しないといけないことに気か付きました。Aさんは青色申告決算書をしばし眺め、「修繕工事だから、青色申告決算書の『修繕費』に計上すればよい」と判断し、工事費用の全額を修繕費に計上して計算を進めました。

その結果、例年に比べて所得税の納付額がかなり少なくなりました。Aさんは「修繕費を経費に入れたことで税金が安くなった」と喜び、確定申告書の提出と納付を終えて、スッキリした気持ちで作業を終えました。

確定申告のこともすっかり忘れたある日、Aさんのプライベートの携帯電話宛に見慣れぬ番号から着信がありました。仕事中でしたが、そこまで忙しくなかったため、こっそり電話に出てみると「○○税務署△△部門の××と申しますが、Aさんでしょうか」との声が。

話を聞いてみると、『税務調査の事前通知』とのことで、過去3年分の所得税について資料を準備して税務署に来てほしいと告げられました。Aさんは、調査官の話す内容をメモしながら、手に汗をかいているのがわかりました。

なぜAさんは税務署から狙われたのか?

一般的に、多額のお金が動いたときや所得の変動が激しいときには、「お尋ね」文書の送付や税務調査の通知が来ることが多いようです。

個人のアパートオーナーの場合、家賃収入から必要経費を控除した儲けに該当する不動産所得を確定申告しますが、たいていの場合、収入が安定的であれば不動産所得も安定的に発生することになります。

特に、物件の満室が続いている、あるいは、家賃相場が上昇しているなどの理由により、家賃収入が安定して高い状況の場合、不動産所得も高い水準を維持することになります。そんななか、ある年の確定申告書で、家賃収入が下がっていないのにも関わらず不動産所得が急に小さくなったとしたら、「節税対策」のために「例年にない多額の必要経費が計上されたのではないか」と税務署に注目される可能性があるわけです。

今回の事例では、「大規模修繕」の全額が修繕費として必要経費に計上されていたことから、不動産所得が著しく変動しました。そして、一般的に修繕費とよばれる支出は、必ずしもすべてが税務上の必要経費として認められるわけではありません。

資産に対して行われた工事等に係る支出のうち、資産価値を高める部分や使用可能期間を延長させる部分の支出は「資本的支出」と呼ばれ、「修繕費」と区別して取り扱われます。

資本的支出は、支出した金額を取得価額とする固定資産を新たに取得したものとして扱われるため、通常は支出した年に全額を経費計上することができません。そのため、資本的支出が該当する固定資産の種別に応じた耐用年数にわたり、減価償却を通じて必要経費に計上することになります。

なお、今回の事例は架空のケースですが、不動産貸付業を営む個人が、賃貸用マンションの設備をシステムキッチンとユニットバスに取り換えた工事費用を修繕費に計上して申告したところ、当該工事費用は修繕費ではなく資本的支出に該当し、「建物」として計上すべきとされた事例があります(国税不服審判所平成26年4月21日裁決)。

「修繕費」と認められるかは工事の内容次第

工事の支出が「修繕費」または「資本的支出」のいずれに該当するかについては、実務ではたびたび議論になります。

不動産はそれぞれ異なりますし、修繕工事の内容や修繕に至る事情もさまざまです。ある程度の判断の指標となるものは所得税基本通達に示されていますが、さまざまなケースに対応するためにそこまで具体的な要件は示されていません。したがって、どのようなものが資産価値を高めるものか、もしくは使用可能期間を延長させるものか、これらについては、慎重に判断する必要があります。

国税庁ホームページに、修繕費と資本的支出の判断の参考となる情報が掲載されています。

No.1379 修繕費とならないものの判定

資本的支出に該当するものや修繕費に該当するものについて、いくつか例示されているほか、判断のためのフローチャートがありますのでご確認ください。

今回の事例のように、物件に対する工事などで多額の支出が予定されている場合には、それが資本的支出に該当する可能性がありますので、ご注意ください。資本的支出に該当するかどうか判断できない場合については、管轄の税務署か顧問税理士にご相談ください。

小川 明雄(小川堀田会計事務所 税理士・公認会計士)

小川 明雄(小川堀田会計事務所 税理士・公認会計士)

M&A・事業承継・国際税務のアドバイザリーを得意とし、事業再編の取引手法の検討、ファンド組成手法の検討、デュー・ディリジェンス業務に従事している。


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