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「え!うちが民泊に!?」借主が勝手に賃貸の一室を旅行者へ貸していた…貸主による適切な対応法【弁護士が解説】

インバウンド市場の拡大により訪日外国人とのトラブルも増えており、訪日観光客の宿泊先はトラブルの原因のひとつとなっています。宿泊先トラブルのなかには、借主が借りている賃貸物件の一室を無断で民泊やレンタルルームとして使用する事業を行うといった身勝手なケースも……。このような問題に、貸主はどのような対応ができるでしょうか? 本記事では、こうしたトラブルへの対応法について、法律事務所Zの溝口矢弁護士が解説します。

「民泊」とは?

民泊(住宅宿泊事業)とは旅館業を営む者(旅館業法第3条の2第1項)以外の者が、宿泊料を受けて住宅に人を宿泊させる事業で、人を宿泊させる日数が年間180日を超えないもののことです(住宅宿泊事業法第2条第3項)。

民泊の営業をする旨の届出をすると、旅館業法に基づく許可を得なくても、年間180日を超えない範囲内で住宅に人を宿泊させる事業を行うことができます(住宅宿泊事業法第3条第1項)。

民泊は、Airbnbをはじめとするポータルサイトの利用の増加による宿泊形態の多様化、都市部の宿泊施設不足・地方の空き家問題の解消等に対応するものとしてメリットがあります。しかしその一方で、行政の監督が行き届かないことによる感染症蔓延や近隣住民の生活環境悪化等の問題を招きかねないというデメリットがあることから、住宅宿泊事業法によってルールの整備が行われました。

え!うちが民泊に!? …経営する賃貸物件で勝手に民泊営業された事例

①借主に対する明渡請求

借主が無断で賃貸物件を第三者に利用させていた場合、下記のような理由による賃貸借契約の解除に基づき賃貸物件の明渡請求をすることが考えられます。

  • 用法遵守義務違反
  • 無断転貸借
  • マンション管理規約違反
  • そのほか信頼関係を破壊する行為の存在(騒音等)

※賃貸借契約で「転貸可能」としている場合等には、民泊営業等により転貸をしていること自体をもって、解除が認められないこととなります(この場合でも、民泊営業等により信頼関係を破壊する程度に至っていれば、ほかの理由で解除が認められることはあります。下記裁判例参照)。

②明渡請求が「できるケース」と「できないケース」の決定的な違い

ここで注意すべきは、一般的に、賃貸借契約を解除するハードルが高いという点です。

無断での民泊営業・レンタルルーム事業を理由とした賃貸借契約の解除は容易に認められるものではなく、清掃業者の出入りがあること等のみでは民泊営業を行っているとまでは認定できないとして貸主による賃貸物件の明渡請求が棄却された裁判例もあります(東京地方裁判所平成29年10月13日判決(平成29年(ワ)第2315号))。

他方で、賃貸借契約上、転貸を可能とするような特約を設けていても、民泊営業によって近隣住民からの苦情があがる、ゴミ出し方法についいてのトラブルが生じるなどしていたことが認定され、貸主による賃貸物件の明渡請求が認容された裁判例もあります(東京地方裁判所平成31年4月25日判決(平成29年(ワ)第28356号))。

このように結論がわかれるポイントは、主張した事実の内容とその裏付けとなる「証拠」の有無です。主張する事実の選定や証拠の収集については、専門家のサポートを受けながら行うと安心です。

なお、無断で民泊営業等が行われていたと認定される場合には、明渡しがなされるまでの物件使用料相当額の損害賠償請求も認められる可能性が高いです(平成30年7月12日判決(平成29年(ワ)第24910号))。

もし宿泊利用者に居座られたら…

悪質なケースでは、民泊営業等をしていた借主に対する賃貸物件の明渡請求が認められたとしても、宿泊者等の利用者が賃貸物件を明け渡さずに居座る場合があります。

このような場合には、上記①のような理由で利用者を追い出すことはできません。上記①は、賃貸借契約の当事者に対する請求であるからです。

このような利用者は、法律上、不法占有者となります。そこで、賃貸物件の所有権に基づき明渡請求をしていくことが考えられます。この際、不法占有者たる利用者が転々と変わると訴訟の相手方がいつまでたっても定まらず、問題解決ができないことにもなりかねません。そこで、明渡請求に先立って、占有移転禁止の仮処分の申立てをすることも検討する必要があります。

民泊トラブルを未然に防ぐ方法/起きてしまったときの対処法

事前の対応

まず、民泊営業を事前に防止するために、賃貸借契約等において民泊を禁止する旨の特約を設ける、賃貸物件の利用目的を明記することが考えられます。そして、このような賃貸借契約書等の書面上の記載のみならず、賃貸借契約締結時の説明等においても、民泊を禁止していることをはっきりと伝えることも重要です(できればメール等のテキストで残しておくことが望ましいです)。

また、賃貸物件の現地訪問を定期的に行う、同じ建物内の別の部屋の借主からアンケートをとる、相談窓口を設けておくなどすることで、無断の民泊営業に対する牽制をすることができるとともに、問題の早期発見の可能性を高めることができます。

事後の対応

賃貸後に賃貸物件を民泊営業に使用されてしまった場合には、民泊営業が実際に行われていることを裏付ける資料(ウェブページをURL付きでプリントアウトしたもの等)や宿泊者が出入りしている様子を抑えた映像等の証拠を収集したうえで、警告書を送るなどして民泊営業を中止するように注意することが考えられます。

それでも、借主が民泊営業を中止しない場合には、無断転貸・用法遵守義務違反を理由に賃貸借契約を解除して賃貸物件の明渡しを求めるなどといった対応を行うことになるでしょう。

賃貸借契約書や証拠の内容には要注意

いずれの対応についても、法律の内容や判例・裁判例の傾向を踏まえた対応が必要となります。賃貸借契約書等の内容や証拠の内容次第では、結論が左右されてしまう場合もありますので、適宜のタイミングで専門家に相談されることをお勧めします。

溝口 矢氏(法律事務所Z アソシエイト・東京オフィス 弁護士)

溝口 矢氏(法律事務所Z アソシエイト・東京オフィス 弁護士)

2016年慶應義塾大学法科大学院卒業後、ベンチャー企業でのマーケティング等に関与。 弁護士登録と同時に入所した弁護士法人Martial Artsでは、不動産分野、債権回収を中心に多数の一般民事事件や中小企業法務を取り扱った。不動産会社内で企業内法務にも携わる。 知的財産分野に関心があり、エンターテインメント関係の相談対応も手掛けている。


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