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大雨で経営するアパートが床上浸水に…「水害」に強い火災保険の活用法【FPが解説】

近年、豪雨や台風などによって被害を受けたというニュースを耳にする日が増えました。経営するアパートがこうした被害を受けた際に、火災保険の活用により損失がカバーできることをご存じでしょうか。本記事では、アパートオーナーが活用できる水害時の火災保険について、長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。

大雨の発生回数は40年前と比較し、2倍に

近年、大雨の発生回数が増えています。気象庁の観測データによると、1時間降水量80mm以上、3時間降水量150mm以上、日降水量300mm以上などの強い雨は、1980年ごろと比較して、おおむね2倍程度に頻度が増加しています。

1時間降水量80mm以上とは、降った雨がそのままだった場合、水深80mm以上になるという意味です。

この状態は天気予報では「猛烈な雨」と表現されるルールになっています。「息苦しくなるような圧迫感がある。恐怖を感ずる」「傘はまったく役に立たなくなる」「車の運転は危険」という状況と解説されています。

この猛烈な雨の発生回数が1980年ごろから2倍になったのは深刻な事態です。災害が急増していることは実感として持っている方も多いでしょう。

原因は諸説ありますが、自然そのものが本来持つ「気候のゆらぎ」を、地球温暖化が強めているという見方が現実的のようです(地球温暖化が異常気象を生んでいるというわけではない)。今後もしばらくのあいだは豪雨をはじめ、異常な気温上昇など災害に見舞われることになりそうです。

アパートオーナーにとってこの気候変動は他人事ではありません。災害によって物件に事故が起これば、利回りの低下、資産価値の毀損など、経営上のリスクに直結します。

豪雨で床上浸水したらアパートはどうなる?

国土交通省では地盤面から50cm未満の浸水を「床下浸水」、50cm以上の浸水を「床上浸水」と定義しています。

一階部分の床上まで水が浸入すると、大量の泥や災害ごみが流れ込み、フローリングや畳、壁ボードが濡れ、壁クロスは汚れ剥離することになります。それに伴いテレビやパソコンなど家電製品は壊れ、ソファなど家具も使い物にならなくなります。水が引いたあとの悪臭は想像を絶するものがあります。

これが床上まで浸水せず床下で留まったとしても、床下の泥によって悪臭が発生します。泥のかき出し、清掃、消毒が必要です。浸水したまま放置すると基礎部分が腐朽し建物の寿命を縮めてしまいます。

床上、床下関係なく、浸水すると修理や清掃をするまでそこで生活するのはほぼ不可能ですから、入居者は避難することになります。

こうなるとアパートオーナーとしてすべきことは次の2つです。

・建物の修理、清掃
・家賃の減額/免除

民法第606条により、アパートオーナーは修繕する義務を負っています。また、民法611条では、「入居者は生活できる状態になるまで家賃を払わなくていい」とも定められています。

この費用はいずれにしても莫大なものになるため、オーナーとしては大損害を被ります。損害額によって利回りは絶望的に低下します。修理が遅れるほど入居者は退去を考えるようになり、経営は負のループを辿るかもしれません。

オーナーがすべき2つのことを迅速に行うためには、火災保険が非常に役立ちます。

火災保険の「水災」補償とは?

火災保険の補償の項目のなかに「水災」というものがあります。これは水害により損害が生じた場合に備えるための補償です。保険の対象である建物が浸水した場合、修理費用をまかなうことができます。

また水災の補償と同時に、「家賃収入特約」(保険会社によって名称が異なります)をつけておくと、修理期間に入居者に請求できない家賃が補償されます。

この2つの補償で速やかに原状回復をし、入居者に戻ってもらうことができれば、経営上のリスクは最低限抑えられます。

気候変動が顕著な時期になっているため、積極的な検討をすべきです。

水災の保険金が支払われない場合に注意

ただし、水災の保険金が支払われるためには主に2つの条件があります。

・床上浸水していること(居住部分の床以上の浸水)、もしくは地盤面から45cmを超える浸水
・浸水による損害割合が再調達価格の30%以上の場合

このいずれかに該当していなければなりません。

地盤面から45cmという規定は、基礎構造が「布基礎」である場合、建築基準法で床の高さを45cm以上にしなければならないという規定があるためです。現在主流であるベタ基礎の場合は、基礎の立ち上がりを30cm以上にするという規定ですが、多くは40cm以上で作られています。さらにそこから床材まで高くなるため地盤面から45cmを超えることが多くなっています。

そうなると45cmを超えたとしても床上まで浸水しないということになります。床下浸水だけでは保険価額(建物の保険金額)の30%以上の損害額になることは多くないでしょう。結果的に火災保険の支払いの対象外となってしまいます。

しかし、一部の保険会社では45cm以下の浸水、30%以下の損害額であっても、一定範囲の設備に対して補償する「特定設備水災補償特約」(保険会社によって名称が異なります)が用意されています。

これは浸水の影響を受けやすい、冷暖房設備、蓄電池や発電設備、キュービクル、ホームエレベーターなどの損害を補償してくれます。設備が充実したアパートを経営するオーナーにとっては検討の余地があるかもしれません。

床下浸水の場合に補償される火災保険、火災共済は現在見当たりません。アパートオーナーとしては、浸水させない建物の工夫も必要です。下水道の側溝や雨水ますの清掃、止水板の設置、基礎を密封する工法などを検討してもいいかもしれません。

水災補償は掛け金が高い

水災リスクの部分は掛け金が高いため、水災補償部分に加入していない人も少なくありません。水災を外すだけで掛け金が大幅に下がるためです。

「ハザードマップ上でリスクが少ない」「河川が近くにない」という理由で加入しない判断をしているようです。しかし、昨今目立つ猛烈な雨では、河川が近くになくとも地形によっては排水能力を超えて浸水することもありえます。

百年に一度などと表現されるような大規模な災害が続く昨今、被害額と比べたら火災保険の掛け金は非常に小さく感じます。長期の一括払いにすれば掛け金は少額ですが、節約できます。

水災補償も検討してみてはいかがでしょうか。

※本記事は火災保険の個別の商品内容について言及するものではありません。あくまでも一般論としての見解です。詳しい商品内容については保険担当者にお問い合わせください。

長岡 理知氏(長岡FP事務所 代表)

長岡 理知氏(長岡FP事務所 代表)

2005年プルデンシャル生命保険に入社。2009年より大手住宅メーカー専属FPとして家計相談業務をスタート。住宅購入時の相談は累計3500世帯を超える。2020年に保険会社を退職し、住宅専門の独立系FP事務所を設立。

住宅を購入する時の予算決めと家計分析、リスク対策を専門業務とする。建物の構造・仕様・施工品質による維持費の違いや寿命に着目し、安易な建物価格での比較に警鐘を鳴らしている。


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