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冷蔵庫の重みでフローリングにへこみが…入居者が退去するとき、修理費はオーナー負担?【弁護士の回答】

入居者の所有する冷蔵庫の重みでフローリングがへこんだ場合、貸主が費用負担する必要があるのでしょうか? 本記事では、実際に起きた退去時のトラブル事例とともに、退去シーズンに頻発する賃貸の「原状回復」に関するトラブルを予防するための方法について、柿沼彰法律事務所の柿沼彰弁護士が解説します。

借主の退去時、部屋を確認…フローリングのへこみを発見

新築アパートの一室を貸し出していたのですが、10年以上入居していた借主が退去することになりました。借主の引っ越しが終わり、退去時に部屋を確認したところ、冷蔵庫が置いてあった場所のフローリングにへこみがみつかりました。賃貸借契約の開始時には新築物件であったため、へこみの原因は冷蔵庫の重みによることは明らかです。

そこで貸主は、借主から預かっていた敷金から、へこみを直すための修繕工事の費用を差し引いて、残額を返還しました。

ところが、借主の代理人弁護士から、修繕費用は貸主負担であり敷金から差し引くことは認められないため、敷金を全額返還するように求める内容証明郵便が届きました。貸主は、慌てて弁護士に相談しましたが、通常はアパートには設置されない業務用の大型冷蔵庫が設置されていた場合や、冷蔵庫を床に落とすように乱暴に設置した衝撃で床がへこんでしまった場合等、借主の使用方法に問題がある場合でない限り、原状回復費用は貸主の負担になるという説明を受けました。

また、修繕を依頼した工事業者によると、へこみは強い衝撃によるものではなく、通常の重さの冷蔵庫を設置した場合にも同様のへこみはできるということです。結局、貸主は、借主からの要求に応じて、へこみの修繕費用も貸主が負担することとして、敷金の全額を返還することにしました。

過去にもあった類似事例・判例

1.東京地判(平成28年8月19日)は、室内の使用状況を示す写真をもとに、原状回復費用のうちどこまでが借主負担となるかを詳細に認定しました。その結果、借主が部屋を通常使用していた場合よりも、クッションフロアの痛み方がひどいと認定して、クッションフロアの修繕費用の一部を借主負担としました。

2.東京地判(令和3年8月24日)は、ガスストーブの熱でフローリングが変色したり剥がれたりしたケースについて、借主が通常の使用をしていれば、修繕工事をせずに次の借主に部屋を貸すことができたと認定して、その修繕費用の全額を借主負担としました。

「建物の賃貸借においては、賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化または価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は、通常、減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料のなかに含ませてその支払を受けることにより行われている。」(最小二判平成17年12月16日)と考えられています。この考え方は、平成29年に改正された民法621条本文に明記され、借主が部屋を通常使用している限り、その原状回復は貸主が負担することになります。

しかし、賃借人が社会通念上通常の使用をしていない場合には、この限りではありません。家庭用の冷蔵庫を設置することは通常の使用の範囲内といえますが、通常の家庭には設置しないような重量のある業務用冷蔵庫を設置することは、通常の使用の範囲とはいえないでしょう。

また、よく問題となるのは、ペットを室内で飼育し、フローリングに引っかき傷や剥がれが生じた場合です。ペットの飼育が許可されている場合であっても、ペットに部屋を傷つけさせることまでは許可されていないと考えることが通常なので、この場合、原状回復は借主の負担となります。

オーナーができる「原状回復」トラブルの予防法

原状回復の全部または一部が借主負担となる裁判例を2つ紹介しましたが、これらは、借主が通常の使用をしていなかったという例外的なケースです。原則的には、原状回復は貸主の負担となります。そのため、貸主としては、原状回復の負担に備えておく必要があります。

貸主ができる備えとしては、想定される原状回復費用を織り込んで、賃料の設定をしたり、頻繁に借主が入れ替わることがないように、一定期間までの途中解約には違約金が発生するようにしたりすることが考えられます。

また、契約上、原状回復義務の一部を借主に負担させる特約を締結することも備えとなります。もっとも、このような特約は、消費者契約法等に違反しないように、慎重に条件を設定することが求められます。賃貸借契約はアパートという大切な資産に関わり、長期間に渡って金銭が動く、重大な契約です。信頼できる専門家の関与のもと、きちんと契約書を作成することが求められます。

このほか、部屋を貸し出す際には、必ず事前に写真を撮影して、貸し出す前の部屋の状態を示す証拠を残すことが求められます。また、賃貸借契約が終了した際には、可能な限り中立的な第三者を立ち会わせて、賃貸借契約期間中に生じた損耗の程度を明確にすることも必要です。賃貸借契約の開始前と終了後の状態をはっきりさせておかなければ、原状回復の範囲について、借主とのあいだでトラブルになってしまう可能性が高まります。

監修:柿沼 彰氏(柿沼彰法律事務所 弁護士)

監修:柿沼 彰氏(柿沼彰法律事務所 弁護士)

2010年弁護士登録。法律事務所、上場企業経営企画室での勤務を経て、2015年柿沼彰法律事務所設立(東京弁護士会所属)。主な取扱分野は中小企業法務、不動産、相続。経済学修士(東京大学)。


【主な著書】

『裁判例の要点からつかむ解雇事件の訴訟実務』(第一法規・共編著)

『裁判例からつかむ従業員不祥事事件の相談実務』(第一法規・共編著)

『依頼者の争続を防ぐためのケーススタディ遺言・相続の法律実務』(ぎょうせい・共編著)


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アパート経営オンライン編集部

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