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貸していた部屋が無断で「民泊」に…身勝手な借主に下された判決【弁護士が解説】

「突然見知らぬ外国人が間違えて部屋に入ってきた」と驚きの苦情が入ったアパートオーナー。該当する部屋の住民に問いただすと、民泊使用されていたことがわかりました。この借主との契約を解除することはできるのでしょうか。賃貸・不動産問題の知識と実務経験を備えた弁護士の北村亮典氏が、実際にあった裁判例をもとに解説します。

貸した部屋を無断で民泊に使用していた借主…契約解除できる?

【アパートオーナーからの相談】

私は、父から相続したアパートを所有しています。

しかし最近、アパートの賃借人から「突然見知らぬ外国人が間違えて部屋に入ってきた」という苦情や、保健所から「住民のゴミ出しのルールが守られておらず、民泊営業されている疑いがある」という指導がありました。

そこで、私から問題となっている貸室の賃借人に追及したところ、最初ははぐらかしていたものの、最終的に貸室を民泊に使用していたということを認めました。

その賃借人との賃貸借契約時には、民泊で利用するということは一切聞いていませんでしたし、契約書の使用目的の項には、「借主が居住する目的で使用する」と記載されています。

住居用の賃借物件を民泊で使用しているということは、契約違反に該当し、借主との賃貸借契約を解除することはできるでしょうか。

賃貸マンションやアパートなどの居住用の賃貸物件の賃貸借契約書においては、物件の使用目的として「賃借人の居住する目的」と定められることが通常です。

このように、賃貸借契約において、物件の使用目的を居住用と定めているにも拘らず、賃借人がそこに居住せずに民泊に利用していたことが発覚した場合に、賃貸人は契約違反を主張して、契約を解除することができるのでしょうか。

このようなケースで、賃貸人が賃借人との賃貸借契約を解除できるかどうかという問題は、

1.賃借人が居住目的の賃貸物件を民泊に利用していたことが「契約違反」に該当するか

2.契約違反に該当するとして、賃借人が民泊に使用していたことによって賃貸人との間の信頼関係が破壊されたといえるか

という2つの観点から検討する必要があります。

まず、賃貸物件を住居として使用する場合と、1泊単位で不特定の者が入れ替わり使用することが想定されている民泊での使用は、その使用態様が明確に異なるものということができます。したがって、「契約違反(具体的には用法順守義務違反)」に該当するものと考えられます。

また、そもそも民泊は賃借人以外の第三者に転貸(いわゆる又貸し)をするに等しいものですので、無断転貸に該当し、やはり契約違反に該当するといえます。

しかし、たとえば賃貸借契約書において「居住目的」での使用が規定されているものの、これに加えてサブリースなどを想定して「賃貸物件を第三者に転貸することをあらかじめ承諾する」という条項が設定されているケースがあります。

このような「転貸を可」とする条項が設定されているような場合にも、民泊として利用することはやはり契約違反に該当するのでしょうか。

この論点が問題となったのが、東京地方裁判所平成31年4月25日判決の事例です。

裁判所の判決…特約があっても「民泊使用は認めない」

この裁判の事例では、アパートの賃貸借契約において、

  • 「賃借人の住居として使用する」という目的
  • 賃借人が第三者に転貸することを賃貸人は予め承諾する

という条項が設定されていたところ、賃借人は、借りていた部屋を民泊として使用していたため、これが契約違反に該当するかどうかということが問題となりました。

賃借人側は、「第三者への転貸が可能」ということなのだから、民泊で第三者に使用させることも認められている」と争いましたが、裁判所は、契約書において「住居としての使用」に限られているという点を重視し、転貸が可能という特約があったとしても、民泊での使用までは認める趣旨ではないと判断しました。

その理由として裁判所は、

転貸が可能と定められている場合であっても「賃貸借契約の文言上はあくまでも住居として本件建物を使用することが基本的に想定されていた」こと、および「特定の者がある程度まとまった期間にわたり使用する住居使用の場合と、1泊単位で不特定の者が入れ替わり使用する宿泊使用の場合とでは、使用者の意識等の面からみても、おのずからその使用の態様に差異が生ずることは避け難い」

という点を挙げています。

以上の通り、契約書で「居住目的」と定められている賃貸物件を民泊で使用することは、民泊の使用が特約などで明示的に定められていない限りは、基本的に契約違反に該当するということになると考えられます。

とはいえ、このように民泊での利用が契約違反になるとしても、賃貸借契約における契約の解除は「信頼関係破壊の法理」が適用されます。(契約解除が認められるためには、契約違反の事実に加え、その事実によって貸主と借主間で信頼関係が破壊されたといえることが必要です。)

したがって、賃貸人が契約を解除できるかどうかは、「賃借人が賃貸物件を民泊に使用していたことによって賃貸人との信頼関係が破壊されたといえるか」という点が次に問題となります。

この点は、民泊での利用が直ちに信頼関係を破壊するとまでは一概にはいえず、ケースバイケースの判断になるところです。たとえば、民泊で使用していた期間や頻度がごく短期間またはわずかな回数だったという場合には、信頼関係は破壊されていないと判断される可能性があります。

他方で、その逆の場合(民泊として使用していた期間が長く、頻繁に使用されていた場合)や、民泊利用によって近隣住民とトラブルが発生していたような場合には、信頼関係が破壊されたと判断される可能性が高いといえます。

さきほど紹介した東京地方裁判所平成31年4月25日判決においては、民泊使用によって信頼関係が破壊されたか否かという点について「現に、アパートの他の住民からは苦情の声が上がっており,ゴミ出しの方法を巡ってトラブルが生ずるなどしていた」と述べて、周辺住民とのトラブルがあったことを信頼関係破壊のいち事情と認定していますので、この点は参考になるところです。

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監修:北村 亮典氏(こすぎ法律事務所 弁護士)

監修:北村 亮典氏(こすぎ法律事務所 弁護士)

慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。神奈川県弁護士会に弁護士登録後、主に不動産・建築業の顧問業務を中心とする弁護士法人に所属し、2010年4月1日、川崎市武蔵小杉駅にこすぎ法律事務所を開設。


現在は、不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理等に注力している。


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