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工事費は5年で20%上昇。1棟アパート経営の「大規模修繕」新常識とは?“先回り”で資産を守る計画立案術【一級建築士が解説】

「12年周期で大規模修繕」という従来の常識が、近年の急激なインフレと深刻な人手不足により通用しなくなりつつあります。修繕積立金が想定外の工事費高騰で枯渇するリスクは、堅実な経営を目指す投資家にとって看過できません。本記事では、こうしたリスクに対する、よりプロアクティブな修繕計画の考え方を一級建築士の三澤智史氏が解説します。

あなたの修繕計画は古くないか?インフレがもたらすリスク

近年、日本の建築工事費は急激に上昇しています。たとえば建設物価調査会の指数をみると、2015年を100とした場合、集合住宅(RC造)では2025年8月に約139.2まで上昇。特に2021年以降は木材や鉄鋼の価格高騰も加わってさらに急騰しています。

こうした資材高騰に加え、建設現場の深刻な人手不足による人件費上昇も大きな要因です。建設費の上昇に歯止めがかからず、従来の12年周期の修繕計画では想定外の費用増に対応しきれない危険性が高まっています。もし修繕積立金が枯渇すれば、不動産経営に大きな影響がおよびかねません。

「時期」ではなく「状態」で判断する、新しい修繕計画の考え方

従来の「12年周期」という考え方は、建物の「状態」を十分に考慮しておらず、大きなリスクを抱えることになりかねません。資材価格の高騰や人手不足による人件費の上昇が続くなかで、周期の到来まで修繕先延ばしにすると、建物の劣化が進行し、大きな費用がかかる事態になるためです。

そこで重要となるのが、建物の状態で判断する修繕計画という考え方です。これは、定期的な点検や診断を短い周期で行い、外壁のヒビ割れや屋上防水の劣化、給排水管の劣化、設備の不具合といった劣化の兆候を早期に発見し、対処する方法を指します。

たとえば、国土交通省によると、目安となる点検時期はそれぞれ以下のとおり。

〇外壁タイル

6ヵ月~3年に一度の調査

〇屋上防水層

1年ごとの目視点検と3年ごとの詳細点検

〇飲料用の排水管

1年ごとの点検

〇汚水層・雑排水層

1ヵ月ごとの点検

建物の劣化は、入居者の安全性や快適性にも悪影響をおよぼす問題です。入居者が常に安心して生活できる環境を維持することは、空室対策となり、長期的な家賃収入や資産価値の維持にもつながります。

コストを抑え、資産価値を高める“先回り”修繕の具体策

先回りで、短い周期で修繕を行うこと。これが、これからのアパート経営のカギとなります。建物の劣化が小規模なうちに対応すれば、従来の大規模改修よりも低予算で済ませることが可能です。

これまでの、劣化が進行したあとに修繕することを「事後保全」、先回りして手当てすることを「予防保全」といいます。修繕の回数は増えますが、その都度かかる費用は少額で済むため、トータルコストは、12年サイクルよりも抑えられると期待できるのです。国土交通省の推計では、10~20年後に30%、30年後には50%ほどの修繕費用を削減できるというデータもあります。

また、修繕工事に従事する企業にとっても、メリットがあります。大規模な修繕工事が断続的かつ突発的に発生するよりも、小規模な修繕工事を継続的に実施するほうが、労働者の手配がしやすく、結果的に賃貸不動産の経営状態を安定させることができます。

修繕の具体策はそれぞれ以下のとおりです。

〇外壁・躯体

タイル・モルタルの剥離やヒビ割れを打診調査で早期発見し、部分補修やシーリング打替えで進行を防止。鉄筋の錆には早めの注入材補修を検討する。

〇屋上防水

防水層は築10年前後で劣化が進むため、定期的に調査を行い、小規模な部分補修や塗膜補修で防水性を維持する。

〇給排水・配管

水漏れや水垢の発生は老朽化が原因。漏水検査を頻繁に行い、配管の更新を実施する。

〇設備機器

エアコンや給湯器などは寿命を迎える前に更新計画を立てる。低コストで省エネ性能の高い最新機種に交換すれば、光熱費削減に繋がり、物件の付加価値も向上する。

「予防保全」と並行する資金計画…予備基金・ローン・保険の3本柱

予防保全を行っていても、想定外の大規模修繕が必要になる可能性はあります。そのための資金準備も不可欠です。

まず、通常の修繕積立とは別に「予備基金」を設け、収支のよい時期に積み増ししておくか、家賃設定時に一定率を上乗せして修繕積立金に充当する方法が考えられます。

また、金融機関から資金の借入ができるか確認しておくのも有効な手段です。取引金融機関への確認や、ほかの金融機関で建物修繕に使えるローンがないか、あらかじめ調べておきましょう。

自然災害などに備える補償としては、地震保険や建物総合保険などの加入も検討しましょう。積立金、融資、保険金を組み合わせておくことで、修繕コストが急増しても資金繰りの悪化を最小限に抑えられます。

近年のコスト上昇リスクに対するプロアクティブ(先を見越した)な修繕計画が、1棟アパート経営では不可欠です。インフレの影響を踏まえて修繕のタイミングや優先順位を再検討し、先回り修繕で資産価値を守りながら、万が一に備えた資金計画も並行して立てること。それが、堅実な経営の新常識といえるでしょう。

<参考>

一般財団法人 建設物価調査会 建設物価 建築費指数

https://www.kensetu-bukka.or.jp/business/so-ken/shisu/shisu_kentiku/

国土交通省 定期報告制度における外壁のタイル等の調査について

https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/jutakukentiku_house_tk_000161.html

国土交通省 建築保全業務共通仕様書

https://www.mlit.go.jp/gobuild/content/001707660.pdf

建築保全業務共通仕様書  令和5年版

https://www.mlit.go.jp/gobuild/content/001707660.pdf

国土交通省所管分野における社会資本の将来の維持管理・更新費の推計

https://www.mlit.go.jp/common/001271515.pdf

監修:三澤 智史氏(一級建築士/一級建築施工管理技士/2級ファイナンシャル・プランニング技能士)

監修:三澤 智史氏(一級建築士/一級建築施工管理技士/2級ファイナンシャル・プランニング技能士)

大手ゼネコン在籍中は、一級建築士としてマンションや事務所ビルなど数多くの建築施工に従事。現在は不動産会社にて、新築・リフォームの現場管理と並行して、土地の仕入れから収益物件の設計まで行っている。


投資経験は都内に3つの物件を所有し、不動産クラウドファンディングにも出資。これらの経験を活かして、不動産系の記事を手掛けている。


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