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アパートの一室で入居者が「火災」を起こしてしまった!修繕費がオーナー負担にならないための「最善の準備」【弁護士が解説】

アパートの一室で火災が発生! 賃借人(入居者)の火の不始末が原因とわかるも、賃借人が逃げてしまい、損害賠償を求めることが困難なケースが実際に起きています。多額の原状回復費用の負担についてアパートオーナーは一体どのように対処すればよいのでしょうか。法律事務所Zの溝口矢弁護士が解説します。

賃借人に火災の責任を追及できるケース

賃借人は、賃貸借契約上、善良なる管理者の注意をもって賃借している物件を使用等する義務を負っています。

賃借人が入居している物件内で火災が発生した場合には、賃借人がこの義務を怠ったことが推定されます。そして、賃借人が自らの責任で火災が発生したことを証明しない限り、賃貸人(オーナー)に対し、火災によって発生した原状回復費用等の損害を賠償しなければなりません。

実際の判例、東京高等裁判所平成16年 2月26日判決(平成15年(ネ)第2332号)をみていきます。このケースでは、鑑定を行うなどした結果、具体的な出火原因を認定することはできませんでした。しかし、賃借人が入居している物件内、すなわち、賃借人の支配領域内で発生した火災であることを理由に賃借人が「上記義務に違反した」と判断。賃貸人の賃借人に対する損害賠償請求を認容しています。

火災の原因を特定することは容易ではないため、このような裁判例の傾向は、賃貸人の立証の負担を軽減するものといえ、賃貸人にとって比較的有利なものといえます。

以上は、賃貸借契約による契約関係によって生じた賃貸人と賃借人間での話であるため、仮に同じアパートの別の部屋にまで火災の影響がおよんだ場合に、その部屋の賃借人が火災を発生させた賃借人に損害賠償請求をすることを認める理屈として用いることはできません。

この場合には、契約違反の問題ではなく、不法行為という形での権利侵害の問題として対応することになります(この際には、失火責任法にも注意する必要があります)。本記事はアパートオーナー向けのものとなりますため、ここまでの指摘に留めます。

法的義務があるとしても…火災を起こした賃借人に逃げられてしまったら?

賃借人に損害賠償責任があるとしても、賃借人に資力がない場合や、賃借人が逃げてしまい行方不明となってしまった場合には、どうすればよいのでしょうか?

このようなご相談はしばしばあるものの、残念ながらこうした賃借人からお金を回収することは現実的には難しいといわざるを得ません。資力がない場合は「ない袖は振れない」状況ですので、いくら法律上の責任があっても支払いをしてもらうことが難しいです。逃げてしまうような賃借人の場合は、住民票すら移さないこともあるため、所在を追うことが現実的に困難となってしまうためです。

このようなことから、火災が起きる前の事前の対策を行っておくことが必要不可欠です。一般的ではあるものの最善策といっても差し支えない対策が「保険の加入」です。

1.賃借人の保険

アパートの賃借人には十分な資力がない場合が比較的多いことが予想されます。また、資力がある場合でも、火災という不測の事態が発生した場合に高額の損害賠償金を任意ですぐに支払ってもらえないこともあります。

そこで、賃借人の賃貸人に対する損害賠償金を補填する保険(借家人賠償責任保険)にあらかじめ加入をしてもらうことが考えられます。賃貸借契約で加入義務を定め、賃貸借契約締結にあたり保険に加入したことをきちんと確認するところまで行うようにしましょう(賃貸借契約で加入義務を定めるのみで、保険の加入を確認していなかったために、対策が「絵に描いた餅」になってしまったケースもあるようです)。

賃借人の家財のみを対象とする保険もありますが、物件自体まで対象とする保険に加入してもらう必要があることには注意すべきです。

2.賃貸人の保険

賃貸人が加入する保険では、物件自体を対象とするものであることが通常であるため、この点については問題ないかと存じます。

加えて、次のような特約を付けるか(あるいは、もとから付いているか)についても保険会社と相談して決めるようにしましょう。

・家賃補償特約
一部焼損による家賃下落分や修繕期間中の家賃分をカバーするものです。

・施設賠償責任特約
第三者(火災を発生させた賃借人以外の賃借人等)に対する損害をカバーするものです。

保険加入の際は契約内容をよく確認!請求時は「証拠」も重要

「保険に加入すれば安心」とは限りません。実際に火災が発生した場合に、保険がきちんとおりるかどうかは、保険の契約内容によって定められています。

きちんと保険の契約内容を確認していないと、保険金を請求したときに、要件を満たしていないことを理由に保険金の支払いを拒絶されてしまったり、実際の損害よりも低い金額しか支払ってもらえなかったりするケースもあります。保険会社や担当者ごとで対応はさまざまですので、保険に加入する際には、慎重に検討するようにしましょう。

また、保険請求時に、消防署の協力を得るなどしながら火災の状況についての証拠をきちんと保全しておくことも重要です。保険会社側も高額の保険金の支払いには慎重になるので、証拠の内容次第ではシビアな判断がなされてしまう可能性もあります。

賃貸人側で収集できる証拠の例として、以下のようなものがあげられます(消防等でも同じような証拠を残してもらえることがありますが、提供してもらうまでに時間を要することもあるため、賃貸人側でもおさえておくことが重要です)。

・当事者や他の入居者への火災当時の状況のヒアリングの録音・レポート

・火災直後の物件の状況の動画/写真

・火災当日の天気予報や火災に関する報道がなされた新聞の切り抜き

・修繕工事の見積書

賃貸人側で証拠を集めることは決して簡単ではありませんし、煩雑な面もあるかと思います。しかし、争いになった後に火災当時の事実関係を裏付ける証拠を収集することは困難です。火災直後にできる限りのことをしておくことをおすすめします。

せっかく保険に入ってカバーしてもらえると思っていたにもかかわらず、保険会社から思ったような支払いがなされず、保険会社と争わなければならなくなってしまうという展開は賃貸人の皆様が望むものではないでしょう。以上の点にも、十分にご注意ください。

溝口 矢氏(法律事務所Z アソシエイト・東京オフィス 弁護士)

溝口 矢氏(法律事務所Z アソシエイト・東京オフィス 弁護士)

2016年慶應義塾大学法科大学院卒業後、ベンチャー企業でのマーケティング等に関与。 弁護士登録と同時に入所した弁護士法人Martial Artsでは、不動産分野、債権回収を中心に多数の一般民事事件や中小企業法務を取り扱った。不動産会社内で企業内法務にも携わる。 知的財産分野に関心があり、エンターテインメント関係の相談対応も手掛けている。


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