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経営するアパートの一室が「汚部屋」状態に…強制退去させるには?【弁護士が解説】

アパート ゴミ

アパートの一室を「汚部屋・ゴミ屋敷状態」にされてしまうと、被害は甚大です。悪臭や害虫の発生、近隣住民からクレームだけでなく、火災リスクが高まる可能性も。経営するアパート内で常識の範囲を超えて部屋を汚してしまう入居者を退去させるには、どうすればよいのでしょうか? 弁護士の柿沼彰氏が対処法を解説します。

アパートの入居者に部屋をゴミだらけにされると…

アパートの入居者に、部屋を汚部屋・ゴミ屋敷状態にされてしまうと、美観は損なわれ、悪臭が発生します。ハエやゴキブリといった虫や、ネズミが発生し、部屋のなかで発生した大腸菌やサルモネラ菌などの病原菌が拡散されて、周囲への健康被害を招く場合すらあります。

汚部屋・ゴミ屋敷を放置していると、耐えられなくなったほかの入居者に退去されたり、アパート経営者が賃貸人としての部屋を使用収益させる義務(民法第601条)を果たしていないと損害賠償請求を受けたりするリスクがあります。

新しい入居者を募集しようにも、汚部屋・ゴミ屋敷状態の部屋があるアパートに新たに入居してくれる人は少ないでしょう。

汚部屋・ゴミ屋敷の問題はそれだけではありません。ゴミの重量や、ゴミから出た水分による床の腐敗によって床が抜けて建物が崩落したり、タバコの吸い殻やコンセントにたまった埃から出た火がゴミの山に燃え移って火災を招いたり、重大な事故に発展する危険性もあります。

建物の崩落や火災によって、ほかの入居者や近隣住民に被害を与えてしまえば、汚部屋・ゴミ屋敷状態の部屋を放置していたアパート経営者も責任を負うことに。

アパート経営者にとって、入居者に部屋を汚部屋・ゴミ屋敷状態にされてしまうことは、一入居者の問題という範囲に収まらない、アパート経営における死活問題だといえるでしょう。

部屋状態にした入居者を退去させるまでの経緯

アパート経営者が、部屋を汚部屋・ゴミ屋敷状態とした入居者を退去させた裁判例としては、東京地方裁判所平成10年6月26日判決があります。この事案では、平成7年春に行われた火災報知器検査の際に、室内に相当量のゴミが積み上がっていることが発覚しています。

平成7年10月の契約更新の際に、ゴミの撤去等を更新の条件とし、「賃借人は、貸室内において、危険、不潔、その他近隣の迷惑となるべき行為をしてはならない」という契約解除の条件を設けました。ところが、更新後もゴミの不整理の状態は悪化していき、消防署からも室内のゴミが火災発生の原因になるという注意も受けました。

そこで、平成9年10月3日の契約更新の際には、入居者はゴミを11月7日までに撤去すること等を更新の条件とし、これを遵守しないときは、賃貸借契約は当然に解除されて賃貸借契約が終了し、一週間以内に入居者の費用で立ち退くという合意が成立しました。

ところがゴミが撤去されなかったため、平成10年2月12日、賃貸借契約を解除する旨の意思表示がなされ、裁判では、解除の有効性が争われました。

裁判所は、

信頼関係を基礎とする継続的な賃貸借契約の性質上、貸室内におけるゴミ放置状態が多少不潔であるからといって、そのことが直ちに賃貸借契約の解除事由を構成するということはできない。
しかしながら、本件では、賃貸人から再三の注意を受けてきたにもかかわらず、事態を改善することなく二年以上の長期にわたって、居室内に社会常識の範囲をはるかに超える著しく多量のゴミを放置するといった非常識な行為は、衛生面で問題があるだけでなく、火災が生じるなどの危険性もあることから、原告やその家族及び近隣の住民に与える迷惑は多大なものがあるといえるのであって、このことは、賃貸借契約の解除事由を優に構成するものといわざるを得ない。

として、解除は有効だと判断しました。

アパート経営者が自らゴミを処分してはならない

まず注意しなければならないのは、アパート経営者が、自らゴミを処分してはならないということです。当該部屋は入居者に対して賃貸借されているので、原則として、アパート経営者は部屋に立ち入ることができないうえに、ゴミに見える物も入居者の所有物だからです。

そのため、入居者自身に対処してもらうか、賃貸借契約を解除したうえで残置物として処理する必要があります。

ところが、汚部屋・ゴミ屋敷の入居者自身には、ゴミを処分する意思や能力がないことが通常です。そこで、アパート経営者としては、緊急連絡先となっている親族や保証人に連絡を取って対処してもらうことが、現実的な対処法となります。行政機関に相談して注意してもらうことも手段となるかもしれません。

建物賃貸借契約は、賃貸人と賃借人とのあいだの信頼関係に基づいているため、解除するためには、「信頼関係が破壊された」といえる状況が必要です。

汚部屋・ゴミ屋敷となっているからといって、それだけで契約を解除するのではなく、東京地方裁判所平成10年6月26日判決の事案のように、繰り返し注意しても改善されないから解除するというプロセスが必要となります。

汚部屋・ゴミ屋敷は、放置すればするほどゴミが積み上がり、害虫の発生、建物の崩落、火災の発生といった重大な事態に発展する可能性があります。そこで、早期に汚部屋・ゴミ屋敷を発見して、改善すべく注意を行ったり親族等に連絡を取ったり対処することが必要です。

そのためにも、火災報知機検査を拒否し続ける部屋があれば個別に注意するなどして、各部屋の状況の把握に努めることも、アパート経営者がなすべき対処法といえます。

発見次第、入居者の親族・保証人、行政機関へ相談を

アパート経営者にとって、部屋を汚部屋・ゴミ屋敷状態にされてしまうことは、美観を害すことや悪臭の発生だけでなく、建物の崩落や火災に発展する可能性がある大問題です。かといって、アパート経営者が自らゴミを処分することはできません。

また、部屋をこうした状態にしてしまう入居者自身は、対処する意思や能力に欠けていることが通常です。

そこで、入居者の親族や保証人、場合によっては行政機関に相談することが求められます。賃貸借契約を解除する場合にも、注意を繰り返しても改善されず、信頼関係が破壊されたといえることが必要となります。

汚部屋・ゴミ屋敷は、放置してしまうと、ゴミが積み上がり、状況が悪化していくばかりです。そのため、早期に発見して、改善に向けた指導を行ったり必要な連絡を取ったり、裁判を起こしたりすることが求められます。そのため、アパート経営者にはアパート入居者およびその部屋の状況を定期的に把握しておくことが求められます。

監修:柿沼 彰氏(柿沼彰法律事務所 弁護士)

監修:柿沼 彰氏(柿沼彰法律事務所 弁護士)

2010年弁護士登録。法律事務所、上場企業経営企画室での勤務を経て、2015年柿沼彰法律事務所設立(東京弁護士会所属)。主な取扱分野は中小企業法務、不動産、相続。経済学修士(東京大学)。


【主な著書】

『裁判例の要点からつかむ解雇事件の訴訟実務』(第一法規・共編著)

『裁判例からつかむ従業員不祥事事件の相談実務』(第一法規・共編著)

『依頼者の争続を防ぐためのケーススタディ遺言・相続の法律実務』(ぎょうせい・共編著)


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