プライバシーを守ってくれ!目隠設置義務、法律ではどう規定されている?【弁護士が解説】
隣室や外部から室内が見えすぎることで、入居者がプライバシーを侵害されていると感じ、入居者から不満を訴えられるケースは少なくありません。特に古い建物では、構造上の問題から、目隠しを設置することが困難な場合や既存の設備に影響をおよぼす可能性もあります。本記事では、これらのトラブルを未然に防ぐ方法と、起きてしまった場合の対処法について、法律事務所Zの溝口矢弁護士が解説します。
アパート経営における目隠しに関するトラブル
Aさんは築20年のアパートを所有し、賃貸経営を行っています。Aさんのアパートは南向きで、日当たりがよくなるようにすべての部屋のリビングの南側に大きな窓が設置されています。これまで南側には畑が広がっていたので、部屋の窓に入る光が遮られたり、隣の家からの視線を気にしたりする心配はありませんでした。
しかし、Aさんのアパートの南側にあった畑の土地がBさんに売却され、その土地に大きな戸建てが建てられました。戸建ての北側には、複数の窓やベランダが設置されていたため、Aさんのアパートの住人たちから、「前よりも日光が入らなくなったし、家の中がBさんに丸見えになってしまうのでどうにかしてほしい!」といった要望が入るように。
Aさんは、友人のアパートオーナーから目隠し設置義務を主張して解決できるのではないかとのアドバイスを受けましたが、インターネットや書籍を調べてみると近隣トラブルを解決するのは簡単ではないとも記載されています。はたしてAさんは、どのような対応をすることができるでしょうか?
目隠し設置義務に関する法律と裁判例
建物を築造するにあたっては、境界線から50センチメートル以上の距離を保つ必要があります(民法第234条第1項)。
しかし、この距離を保っていたとしても、境界線近くの窓、縁側、ベランダから家の中が眺められてしまうのであれば、プライバシー空間を脅かされることになり、入居者が安心して生活することは難しいでしょう。他方、土地の所有者としては、本来、土地上に建物を自由に建てることができてしかるべきです。
そこで、近接する建物について、調整を図るべく民法で以下のような定めが設けられています。
民法第235条
第1項 境界線から一メートル未満の距離において他人の宅地を見通すことのできる窓又は縁側(ベランダを含む。次項において同じ。)を設ける者は、目隠しを付けなければならない。
第2項 前項の距離は、窓又は縁側の最も隣地に近い点から垂直線によって境界線に至るまでを測定して算出する。
つまり、「境界線から一メートル未満の距離において他人の宅地を見通すことのできる窓又は縁側(ベランダを含む。次項において同じ。)」であれば、目隠し設置義務が生じることになります。
裁判例は、以上について民法第235条は「プライバシーの保護を目的とするとともに、互譲の精神から相隣接する不動産相互に利用関係を調整しようとする趣旨」であると表現しています。そして、民法第235条第1項の「他人の宅地を見通すことのできる窓又は縁側(ベランダを含む。(中略))」とは、「他人の宅地を観望しようと思えば物理的にいつでも観望できる位置、構造の窓」等を意味するとしています(さいたま地方裁判所平成20年1月30日判決(平成17年(ワ)第1489号))。
具体的に、「他人の宅地を観望しようと思えば物理的にいつでも観望できる」かどうかは個別具体的な事案によりますが、これまでには以下のような判断をした裁判例があります。なお、以下のまとめは、ひとつの事例判断であること(類似の位置、構造等でも異なる判断がなされる可能性があること)にご注意ください。
民法第235条第1項の窓等に該当する場合
・相手方建物の2階ベランダ真正面にあり、相手方建物の部屋の室内まで見通せる窓(東京地方裁判所昭和61年5月27日判決(昭和59年(ワ)第4974号))
※ブラインドが設置されていたが、いつでも容易に開閉可能なため目隠設備として認められないと判断
・相手方建物の室内を眺望しうる引戸窓(東京地方裁判所平成5年3月5日判決(平成3年(ワ)第13743号)) ※はめ殺し窓ではなく換気のため等の理由で開けることを日常的に予定されていると考えられるため、曇りガラスを使用していても該当すると判断
・引き違い窓(さいたま地方裁判所平成20年1月30日判決(平成17年(ワ)第1489号)) ※網入りすりガラスを使用していても該当すると判断
・透明なガラスを使用しており、その大きさ、設置場所を考慮すれば、日常的に開放することを予定されている窓(さいたま地方裁判所平成20年1月30日判決(平成17年(ワ)第1489号))
民法第235条第1項の窓等に該当しない場合
・塀との間隙を通して相手方建物方向を見るには窓に近寄り見上げるようにしない限り見ることができず、そのようにしても相手方建物の2階ベランダ下側部分程度しか観望しえない窓(東京地方裁判所昭和61年5月27日判決(昭和59年(ワ)第4974号))
・相手方建物とほぼ垂直な位置関係にあって真正面から向かい合っておらず、仮に相手方建物方向を見たとしても東北端の一部分が見えるにすぎない窓(東京地方裁判所昭和61年5月27日判決(昭和59年(ワ)第4974号))
・滑り出し窓(さいたま地方裁判所平成20年1月30日判決(平成17年(ワ)第1489号)) ※「窓の下部のみが押し出され、全開することはできない構造」
・(相手方土地・建物を見通すことができる)廊下(東京地方裁判所令和2年2月7日判決(平成31年(ワ)第5247号))
※当該廊下は居住空間とは独立した通路であるため、居住の一環として恒常的に見通されることにはならないという判断。
目隠し設置義務がある場合、目隠しの「設置の位置、大きさ、材質等は観望を遮るに足るものであることが、必要かつ十分」なものとして求められます(東京地方裁判所平成19年6月18日判決(平成16年(ワ)第3567号等)参照)。
また、民法第235条第1項の窓等に該当するとしても、目隠し設置を求めることが権利濫用にあたり目隠し設置義務が否定される場合があります。
裁判例の傾向を踏まえると、権利濫用にあたるのは、目隠し設置をしないことにより生じるプライバシー侵害等の不利益と目隠し設置をすることにより生じる負担等の不利益を比較して後者のほうが大きい場合であるようです(さいたま地方裁判所平成20年1月30日判決(平成17年(ワ)第1489号))。その判断にあたっては、窓等の用途やこれまでの居住歴等も考慮されているようです。
入居者から不満の声があがったら?
Aさんの事例のようにアパートの入居者から不満の声があがった場合にはどう対処すればよいでしょうか。前述の傾向を踏まえると、構造、位置等から民法第235条第1項の窓等に該当するか、該当するとして目隠し設置を求めることが権利濫用にあたらないかを慎重に検討したうえで、相手方に目隠し設置を求めていくこととなるでしょう。
Aさんの事例の場合、まずは、Bさんの建てた戸建ての北側にある窓やベランダの位置や構造等がどのようになっているかを把握することが肝要です。たとえば、Bさんの戸建ての窓やベランダより高い位置にあるAさんのアパートの部屋があれば、その部屋の室内を物理的にいつでも観望できるものではなく、目隠し設置義務は認められないでしょう。
他方で、大きな引き違い窓がAさんのアパートの各部屋の南側の窓の真正面にあるような場合には、部屋の室内を物理的にいつでも観望できるとして、目隠し設置義務が認められる可能性が高いといえます。
また、Aさんのアパートの各部屋の南側の窓がどれくらいの大きさで、どのような用途であるかも確認する必要があるでしょう。たとえば、常に滞在するリビングに設置された大きな窓であれば、Bさんの戸建てから見られることによりAさんのアパートの入居者のプライバシーに与える影響は比較的大きいといえ、ひいては目隠し設置を求めることが権利濫用にあたる可能性は低くなるでしょう。
他方で、収納部屋の換気のために設置された小さな窓であれば、Bさんの戸建てから見られることによりAさんのアパートの入居者のプライバシーに与える影響は比較的小さいといえ、権利濫用にあたる可能性は高くなると予想されます。
日照権侵害の主張はできるか?
本件においては、Aさんのアパートの住人たちは日光が入らなくなったことも問題としています。この場合、日照権の侵害を主張することも理論上は考えられます。
しかし建築基準法上、一戸建ての建築に問題がなく、Aさんのアパートの各部屋への日照も一定程度確保されているのであれば、日照権侵害の主張を通すことは容易ではありません(以上と類似の理由で日照権侵害を認めなかった裁判例として、さいたま地方裁判所平成20年1月30日判決(平成17年(ワ)第1489号)参照)。
このように、目隠し設置義務は民法で定められていますが、具体的な判断は個別の状況によって異なります。弁護士等の専門家に相談し、適切なアドバイスを受けることをお勧めします。
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