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借主「退去費用を払いません」といわれたときのアパートオーナーの対応策【弁護士が解説】

退去シーズン間近なこの時期に頻発する退去費用トラブル。退去費用を借主に請求し、「払えない、納得がいかない」といわれた場合、どのように対応すればよいのでしょうか? 柿沼彰法律事務所の柿沼彰弁護士が、その対応策とトラブルを未然に防ぐ方法について解説します。

借主に退去費用の支払いを拒まれた

単身者用アパートを男性会社員に賃貸していたのですが、借主の仕事の都合で退去することになりました。借主の引っ越しが終わり、明け渡しになったのですが、においが酷く、フローリングの一部には焦げ跡があります。借主は日常的にタバコを吸っていたようです。

原状回復工事としてクロスとフローリングを張り替えたのですが、預かっていた敷金だけでは修繕工事の費用を賄えませんでした。そこで、不足額を退去費用として請求したのですが、借主に拒まれてしまいました。借主の言い分は「禁煙だとは聞いていない、タバコのにおいもフローリングの焦げ跡もクリーニングや部分補修で対応できる」というものでした。

弁護士に相談したところ、弁護士名で、退去費用を請求する内容証明郵便を送ることになりました。その内容は次のようなものです。

喫煙してよいからといって、喫煙によって部屋を汚してよいわけではない。タバコのにおいは、クリーニングをしただけでは取れない程度におよんでいた。フローリングの焦げ跡も、補修しきれないほど深く、補修部分とそれ以外との色を合わせるために全面の張替えが必要になった。

借主は弁護士からの内容証明郵便に観念したのか、無事に補修費用を払ってもらうことができました。

過去の類似事例・判例

1.東京地判(令和2年2月18日)は、借主が部屋をゴミ屋敷のような状態で使用し、漏水事故を発生させ、下の階の住人にまで被害を与えたという事案について、貸主からの多額の退去費用の請求を認めました。この事案では、賃料が月額5万6,000円、敷金が5万6,000円であったのに対して、借主への請求が認められた退去費用は164万円以上になりました。

2.東京地判(令和元年11月12日)でも、部屋に、通常の使用による損耗を超える汚れ等が生じたとして、貸主から借主に対する退去費用の請求が認められました。しかし、この事案では、賃貸借期間が長期に渡っていたため、原状回復費用の大部分は貸主が負担するべきとして、請求した退去費用約330万円のうち、約23万円しか認められませんでした。

請求の大部分が認められなかったのは、もし借主が部屋を汚していなかったとしても、経年劣化に対応するために、近い将来フローリングの張り替え等が必要となっていたであろうという理由から、請求できる退去費用は、工事の時期が早まった部分に限られるという考え方にもとづきます。

ご紹介したケースでは、双方ともに借主に対する退去費用の請求が認められていますが、法律的な原則論としては、借主に対する退去費用の請求は認められないことに注意が必要です。法律上、借主が部屋を通常の使用をした場合に生じた損耗(汚れや傷)や経年劣化は、貸主の負担において修繕すべきことになります(民法第621条)。そして、貸主は、借主による賃料の未払いや部屋を汚してしまった場合に備えて、敷金を預かっていることが通常です。

退去費用を請求することができるのは、「借主が」「部屋に」「通常の損耗や経年劣化を超えた」「特別な損耗を生じさせた場合」であり、かつ、修繕費用が敷金を上回った場合ということになります。

「払えない、納得がいかない」といわれたら

借主に対して退去費用を請求できる場合は限られるのですが、請求できる場合には、その金額は大きいものになる可能性があります。退去費用を請求できる場合とは、借主が部屋を特別に損耗させている場合であり、漏水が発生したり、フローリングの張り替えが必要になったりすることが想定されるからです。

さらに問題となるのは、裁判で退去費用の請求が認められても、実際に退去費用を支払わせることができない場合があることです。借主から手元不如意だから払えないといわれてしまえば、もうどうすることもできません。貸主としては、借主に退去費用の支払いを拒まれたときの対応とともに、事前対処策あるいは予防策を考えることも必要になります。

借主に退去費用の支払いを拒まれた場合の対処法は、通常損耗や経年劣化については原則として貸主の負担となることを前提に、なぜ借主に退去費用の支払いが必要となるのか、証拠とともに丁寧に説明することです。

賃貸借契約終了後の明け渡しには、可能な限り第三者に立ち会ってもらい、損耗の状況を写真で撮影することが求められます。工事をするにも、なぜその工事が必要となるのか工事業者の専門的な意見を求めることも必要です。懇切丁寧に説明すれば、借主自身が納得しなくとも、借主の相談相手となる弁護士等が借主を説得してくれることが期待できます。

事前対処策としては、契約書中の禁止事項やアパートの使用細則を充実させることが考えられます。借主が悪気なく部屋を損耗させてしまうことを防ぐルールがあれば、あえてルールを破る悪質な借主以外による部屋の損耗を抑えることができます。消火設備の点検等の際に部屋の様子を確認することも、部屋の損耗を未然に防ぐきっかけとなります。

有事には退去費用を回収できるように、敷金を多めに預け入れてもらったり、連帯保証人をつけてもらったりすることも事前対処策となります。

このほか、修繕費用を借主の負担とする特約を交わすことも考えられますが、借主に特別な負担を負わせる特約は、消費者契約法等によって無効とされてしまう可能性があるので、弁護士等の専門家に相談することが求められます。

監修:柿沼 彰氏(柿沼彰法律事務所 弁護士)

監修:柿沼 彰氏(柿沼彰法律事務所 弁護士)

2010年弁護士登録。法律事務所、上場企業経営企画室での勤務を経て、2015年柿沼彰法律事務所設立(東京弁護士会所属)。主な取扱分野は中小企業法務、不動産、相続。経済学修士(東京大学)。


【主な著書】

『裁判例の要点からつかむ解雇事件の訴訟実務』(第一法規・共編著)

『裁判例からつかむ従業員不祥事事件の相談実務』(第一法規・共編著)

『依頼者の争続を防ぐためのケーススタディ遺言・相続の法律実務』(ぎょうせい・共編著)


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