不動産投資の「地震保険」…適用範囲や保険料の相場をFPが解説
火災保険に付随して加入することができる地震保険。地震大国である日本において、不動産投資を行ううえでの「地震保険」は非常に重要です。本記事では、健全なアパート経営を守るために活用できる「地震保険」の補償内容、適用範囲や保険料の相場について長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。
アパート経営にとって大きなリスク、地震
日本はしばしば、世界有数の地震の多い国といわれます。USGS(アメリカ地質調査所)によるとマグニチュード6以上の地震は、世界で年間平均152回発生しているそうです。
一方で、2001年~2010年の気象庁の震源データによると日本では同じ規模の地震が平均20回起きています。つまり世界の大地震のおおよそ13%は日本列島で発生しているということになります。
記憶に新しいだけでも、2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震、2018年の北海道胆振東部地震、そして今年2024年元日の能登半島地震と、巨大な地震が頻発しています。
これは偶然ではなく日本列島を取り巻く地中のプレートの動きが規則的であるため、今後も大きな地震が発生することがわかっています。日本に住む以上、大きな地震に見舞われるリスクは常にあるということです。
大地震はアパートオーナーにとっても経営上の深刻な課題です。当然のことながら地震によって物件が毀損すると収益に大きなダメージがあります。完全に倒壊したら大損害であるのはもちろん、一部が破損しただけでも修繕に大きな費用がかかりキャッシュフローが打撃を受けます。
建築基準法の耐震基準から考える
建築基準法における耐震基準は、戦後に大きくわけて3回の節目があります。
旧耐震基準 1950年制定
新耐震基準 1981年制定
新・新耐震基準 2000年制定
最後の「新・新耐震基準」が現行制度ですが、大きな地震のたびに改正が加えられています。現行耐震基準で建築された建物は東日本大震災でも被害が少なかったことがわかっていて、耐震基準の有効性がみてとれます。
しかし、1981年~2000年に建築された建物は「耐震グレーゾーン住宅」と呼ばれ、地震によって倒壊の可能性が高いといわれています。2024年の能登半島地震でも被害が多く、この期間に建てられた投資物件を持つオーナーは深刻な経営上のリスクを抱えているといえます。
そこで、多くの方は「地震保険」を検討することになります。地震保険の名前は聞いたことがある、もしくは、加入していても詳しい内容についてはあまり知らないという方も多いのが現状です。次で地震保険について簡単に解説していきます。
同じ条件ならどの保険会社で契約しても掛け金が同じ
地震保険は民間の損害保険会社が開発した商品と考えがちですが、実は政府と保険会社が共同で運営する公共性の高い保険です。建物や構造など条件によって損害保険会社間で掛け金に差はありません。同じ条件ならどの保険会社で契約しても掛け金が同じであるのが特徴です。
また地震保険は単独で契約できず、必ず火災保険とのセットです。
一回の地震によって支払われる保険金(補償の金額)の総額は、国会の議決で決められた範囲内とされていて、現在は11兆6,586億円と潤沢です。東日本大震災でも保険金が円滑に支払われたことからも、非常に安全な制度といえるでしょう。
目的が異なる地震保険と火災保険
しかし地震保険の補償内容は、火災保険とは少し目的が異なります。火災保険は火災が起きた際に建物を復旧、あるいは「再建」することを目的としていますが、地震保険は「地震等による被災者の生活の安定に寄与すること」が目的です。
また、政府が地震保険の再保険を引き受けているため、災害規模が大きくなると保険金を支払えなくなる危険があります。そのため地震によって建物が全壊しても、それを再び再建築できるだけの十分な保険金は受け取れないようになっています。
具体的に説明すると、
- 保険金額は火災保険の契約金額の30%〜50%の範囲内
- 建物の保険金額は5,000万円が限度
- 家財の保険金額は1,000万円が限度
という制約があります。特に保険金額(補償額)が火災保険金の半分の範囲内でなければならないのが特徴的です。
建物の火災での補償金額が4,000万円であれば2,000万円が上限です。一棟アパートであれば建物に1億円の補償を設定したとすると、上限は5,000万円となります。
これでは全壊時に再建は不可能です。そのため、損害保険会社によっては上乗せで保障を100%に設定できるプランを用意している場合があります。掛け金は高額になりますが検討の余地はあります。
地震保険の注意点
地震保険に加入するとき気をつけておくべき点があります。それは、補償が「時価」を基準にしているということです。少し難しくなってきましたが、簡単に説明します。
現在新しく加入する火災保険は、補償金額を「再取得価格(新価)」を基準に決められていることがほとんどです。建築から何年経過しても、保険の期間中であれば建物が全壊したら再建できるだけの十分な保険金が支払われます。
しかし地震保険は「時価」を基準とするため、地震保険の補償金額をいくらに設定したとしても時価を超える金額は支払われません。築古の物件に対して火災保険を1億円、地震保険を5,000万円の補償を契約しても、建物の時価が2,000万円であれば全壊しても2,000万円以上は支払われません。
[図表1]全損、大半損、小半損、一部損の保険金の支払い基準
出典:財務省
https://www.mof.go.jp/policy/financial_system/earthquake_insurance/jisin.htm#1
図表1をもとに損害額と受け取れると思われる保険金額を比べてみると、少ないなと印象を受けるかもしれません。
地震保険は「修繕費」を補償するものではなく、生活再建のための資金を支払う性格のものであるため、投資物件の保全を目的にするのは必ずしも誤りではありませんが実務上は少々無理があるのです。
地震保険に入るオーナーと入らないオーナー
損害保険料率算出機構の統計によると、2022年における地震保険の付帯率(分母は火災保険の契約数)は全国で69.4%です。都道府県別に見ると、東日本大震災に見舞われた宮城県では89.3%と全国値よりもはるかに高くなっています。全国的に見ても2013年から加入率が右肩上がりに上昇しています。
しかしアパートオーナーによっては、加入するかどうか悩むケースも多々あるのが現実です。理由は、デメリットも確かに存在するからです。ここでは、アパートオーナーにとって地震保険のメリットとデメリットを説明します。
メリット
- 保険料(掛け金)が全額経費計上できる
- 投資用不動産は「被災者生活再建制度」の対象外なので自己責任での備えができる
- 物件に損害があったときにキャッシュフローへの影響を最小限にできる
全壊までいかなくても部分的な損害があった場合、地震保険から保険金が支払われるため修繕費に使うことができます。災害後に資金繰りに困るというリスクを多少でも抑えることができます。
デメリット
- 地震保険があっても修繕費に自己負担が発生することがある
- 保険料(掛け金)によってキャッシュフローが悪化する
前述したように地震保険は満額の補償額を契約することができません。さらに時価基準での計算となるため、災害時には地震保険だけで修繕費がまかなえることは稀でしょう。修繕に自己負担も必要になります。
またアパートに対する地震保険は高額になるため、キャッシュフローが悪化します。全額経費計上できるとはいえ資金繰りのうえでは不利になるため、受け取れる補償とのバランスで検討すべきです。
築古物件の場合は特に、「掛け金は高額・補償は最小限」となってしまいます。地震保険に加入すべきかどうかは、冷静な判断が求められます。
保険料(掛け金)の相場
地震保険は政府と損害保険会社の共同運営であるため、保険会社によって掛け金が異なることはありません。具体的な保険料の算出はご自身の保険担当者に依頼するとして、ここでは保険料が決まる「前提条件」について解説します。
地震保険の保険料は次の3つの条件で決定されます。
- 保険料率
- 契約の長さ
- 割引制度
保険料率は、掛け金を決めるための保険金額1,000万円あたりの保険料のことです。これは都道府県によって異なります。建物の所在地によって掛け金が変わるのはこのためです。
保険料率は政府の地震調査研究推進本部による「確率論的地震動予測地図」を活用し、損害保険料率算出機構が算定しています。時代とともに値上げされているのが現状です。
契約の長さによっても保険料が異なります。最長5年まで、契約期間が長いほど保険料が安くなります。
割引制度は、「建築年割引」、「耐震等級割引」、「免震建築物割引」、「耐震診断割引」の4種類が設けられています。免振建物であれば保険料が半額になるなど、建物構造によって割引のメリットがあります。
[図表2]地震保険における割引制度
出典:財務省
ただし耐震性の高い建物は建築費が高額になるため、地震保険のためだけに構造を検討することはないでしょう。
必要に応じた地震保険の加入判断を
地震保険は政府と損害保険会社の共同運営の保険です。掛け金はどこで加入しても同じ条件であれば同じです。
一棟アパートの場合、掛け金が高額になることが考えられるため、デメリットも考慮したうえで、加入の必要性を検討してください。
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