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「ユービーエム倒産事件」から考える、工事業者とアパートオーナーの「修繕トラブル」を回避する方法と対策【弁護士が解説】

投資用不動産のRC工事の請負で急成長したユービーエム株式会社の倒産が話題となりました。アパートオーナーであれば、修繕の依頼等で関わることの多い工事業者ですが、トラブルを未然に防ぐためにはどのような対策がとれるのでしょうか? 弁護士の溝口矢氏が、ユービーエム株式会社の倒産事例をもとに、トラブル回避の方法について解説します。

投資用不動産工事で急成長…ユービーエムが倒産したワケ

2023年2月8日、東京地方裁判所により、ユービーエム株式会社(https://www.ubm1.jp/)の破産手続開始決定がなされました([資料1、2]参照)。

[資料1]破産手続開始決定通知書
出所:ユービーエム株式会社HP(https://www.ubm1.jp/news/10779/)より引用

[資料2]破産手続開始に関するお知らせ
出所:ユービーエム株式会社HP(https://www.ubm1.jp/news/10779/)より引用

これにより、裁判所及び破産管財人の管理・監督のもと、ユービーエム株式会社の破産手続が進められています(2023年4月12日現在)。

ユービーエム株式会社は、近年、投資用不動産のRC工事の請負で急成長し、業績をあげていた企業の1つでした。では、なぜユービーエム株式会社が破産手続開始の申立てを行わざるを得なくなったのでしょうか?

その理由については必ずしも明らかではありませんが、報道等によるところでは、

  • 建築資材の高騰により、利益の少ない工事や赤字となる工事の請負が増加し、損失が膨らんだ
  • 元幹部による架空取引の影響で信用が損なわれ、資金調達を受けることが難しくなった

といったことが原因で資金繰りが厳しくなったためであるといわれています。

投資用不動産のRC工事を開始した当初は、注文者の多くが個人の不動産投資家であったため、(不動産業者が注文者となる場合と比較して)案件規模や経験により生じる交渉力の差からユービーエム側に有利な契約内容で資金を手元に置ける期間を確保し、この資金力を活かした営業ができていたようです。

しかし、2022年ごろには、そのような個人の不動産投資家からの注文が減り、これによって資金繰りが厳しくなったともいわれています※。


※ ユービーエム株式会社が破産手続開始の申立てに至った原因の分析については、株式会社東京商工リサーチの記事(https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1197362_1527.html )が参考になります。

工事業者とのトラブルを回避する「2つ」の対策

もし、修繕を依頼していた工事業者がユービーエム株式会社のように破産手続開始の申立てをすることとなった場合、アパートオーナーにはどのような影響があるのでしょうか?

考えられるのは、

  • 修繕工事請負契約に基づいて支払った「手付金」や「着手金」等の報酬が返金されない
  • 下請工事会社との紛争が生じる

などといったトラブルに巻き込まれてしまう可能性です。

しかし、ユービーエム株式会社が破産に至った理由がもっぱら社内の問題であることを踏まえると、外部の者がその問題を事前に把握し、修繕の注文(修繕工事請負契約の締結)を回避することは容易ではありません。

では、アパートオーナーとしてはどのような対策を講じればよいのでしょうか。

1.工事業者の「実績」や「経営状況」を確認する

ひとつは、工事業者の実績や経営状況を事前によく確認することです。工事の質が悪ければ、修繕が不十分であるとして、注文者(オーナー側)が債務不履行(契約不適合責任)に基づく「損害賠償請求」や「追完工事の請求」をする必要が出てきてしまいます。

このようなトラブルを抱えている業者は、当然その後注文を受ける機会が減るため、実績が伴わない場合が多いと考えられます。確認した際に実績が芳しくなく、十分な売上もないことが疑われるような場合には、倒産のリスクがあることを念頭において注文するかどうかを決める必要があるでしょう。

なお、工事業者の工事の質は、契約締結前の「見積書」の提示や「事前説明」、「契約書案」からもある程度予測できる場合があります。違和感をおぼえた場合、決断は慎重にすべきです。

また、明らかに経営状況が悪いことがうかがえる工事業者(トラブルや不正が報道された工事業者等)についても、倒産のリスクを念頭におく必要があります。

ユービーエム株式会社も、元幹部による架空取引の件について訴訟提起されていたようですので、この情報を事前に知ることができていれば、被害にあったオーナーも注文を避けることができたかもしれません。

2.契約内容の「精査」と「交渉」

もうひとつの対策は、契約内容を精査し、修正等の交渉をすることです。

たとえば、仮に注文した工事業者が修繕工事の途中で倒産してしまった場合でも、事前に「支払う報酬の金額を低く抑える」とする契約内容にしていれば、返金を受けられなかった場合の損害を抑えることができます。

ユービーエム株式会社も、個人の不動産投資家には工事にあたって着手金の支払いを求めていたという話がありますが、注文者が着手金を減らすなどの交渉を試みていればリスクを低減できた可能性があります。

修繕工事を注文する際には細心の注意を

工事会社との修繕に関するトラブルを事前に防ぐことは容易ではありませんが、修繕工事には相応の費用がかかる以上、注文にあたっては細心の注意を払う必要があります。

ただし、工事業者から提示される契約書案に問題がないか法律を踏まえてチェックし、修正等の交渉をすることは難しい面もあります。必要に応じて、弁護士へのご相談もご検討いただければと存じます。

溝口 矢氏(法律事務所Z アソシエイト・東京オフィス 弁護士)

溝口 矢氏(法律事務所Z アソシエイト・東京オフィス 弁護士)

2016年慶應義塾大学法科大学院卒業後、ベンチャー企業でのマーケティング等に関与。 弁護士登録と同時に入所した弁護士法人Martial Artsでは、不動産分野、債権回収を中心に多数の一般民事事件や中小企業法務を取り扱った。不動産会社内で企業内法務にも携わる。 知的財産分野に関心があり、エンターテインメント関係の相談対応も手掛けている。


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