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納めすぎの可能性も…アパートの相続税、「自己申告制度」の落とし穴【不動産鑑定士が解説】

アパートの相続が発生すると、相続人は自己申告制度に基づいて相続税を納付する必要があります。こうした自己申告によって納付した課税対象者のなかには、相続税を納めすぎている人がおり、税務署からは特段「納めすぎ」による通告はありません。本記事では、相続税の申告納税制度の概要とその落とし穴について、31年間で9,600件以上の相続関連実績を持つ「フジ総合グループ」の代表・藤宮浩氏が解説します。

「申告納税制度」とは?

「申告納税制度」とは、納税者自身が、自ら税務署へ申告を行うことにより税額が確定し、この確定した税額を自ら納付する制度のことです。この「申告納税制度」は、相続税の納税制度にも採用されています。

そもそも相続税とは、相続財産の額が基礎控除を超える場合に発生する税金のことです。原則として、被相続人が亡くなってから10ヵ月以内に、相続人は相続税の額を計算し、それを申告書としてまとめて、被相続人の住所地を管轄する税務署に提出しなければなりません。アパートの相続でもこうした手続きが必要になります。

相続税は納めすぎても税務署から教えてもらえない!

相続税の申告・納税後、もしも「納めすぎ」があった場合、税務署からの通告があると思われる方が多いかもしれませんが、実はここに「申告納税制度」の落とし穴が潜んでいます。

申告された内容は「財産を一番把握している納税者が行った申告の内容が正しい」という前提で処理されるため、万が一納めすぎがあっても税務署から教えてもらえることは原則としてありません。

なかには、税務調査を「不足分や納めすぎをチェックされる機会」と捉えている方がいらっしゃいますが、これも現実と異なります。税務調査は相続財産に対して相続税が不当に少なくないかを調べるためのものですので、納めすぎを指摘してもらえることはほとんどありません。

では、相続税の納めすぎはどのようにして発生してしまうのでしょうか?

相続税の納めすぎが発生してしまうワケ

相続税は財産を持っている人が亡くなった時点(相続開始時点)の財産の評価額により計算されます。

ただしアパートなどの不動産の評価額は、預貯金や証券とは異なり、明確な評価額が提示されているわけではありません。土地を購入してから何十年も経過していると、相続開始時点のその土地の価値は、土地購入時と比べ、物価や市場の影響を受けて変動していることが考えられます。そうなると、その土地の価値を客観的な数値にするのは、簡単なことではありません。

このため、国税庁は、「財産評価基本通達」という指針を出しています。「ではこの通達を見ながら、自分で申告してみよう」と思う方もいるかもしれませんが、財産評価基本通達は情報が膨大で、かつ必ずしも通達にあてはまるケースばかりではありません。このことから、間違いを起こさずに独力で申告することは、難しいと言わざるを得ません。

特に注意が必要となる、アパートなどの不動産の相続税申告

国税庁が公開している令和3年分の相続税の申告実績の割合を見ると、相続財産の金額構成比において土地や家屋などの不動産が約4割を占めています

※参考:国税庁 令和4年分 相続税の申告事績の概要

財産を評価するうえで最も難しいとされるのが、土地の評価です。財産評価基本通達において、土地はかなりの情報量が割かれているにもかかわらず、個別性が強いために、通達に当てはまらないケースが出てきます。

土地には、都市計画法、建築基準法、農地法、生産緑地法などさまざまな法律が複雑に関係し、土地の評価を難しくしている場合があります。

さらに、都道府県の条例や開発指導要綱等の規制が網の目のように幾重にも覆い被さっており、そのうちのたった1つの規定や規制を見落としただけでもその土地の評価額に大きな影響を与えてしまいます。

上記の関係諸法令に精通し、適正な時価の観点から評価額を算定できる専門家が不動産鑑定士です。前述のとおり、申告の期間は10ヵ月しかありません。検証が不十分なまま申告書を作成すると、結果として相続税の納めすぎが起きてしまうかもしれません。

相続税を納めすぎてしまった場合の救済策

相続税の納めすぎが発覚した場合の救済策として、国税通則法に定められた「更正の請求」という国から認められた制度があります。本制度は、申告期限から5年以内であれば誰でも利用でき、申告した内容を適正に見直して税務署に請求をすることで、納めすぎていた税金を還付してもらうことが可能です。

皆さまの相続税も、相続税と不動産評価に精通した専門家の観点を入れることによって、相続税申告時とは異なる評価額が算出される可能性があるかもしれません。申告が適正かどうか確認する意味でも、一度セカンドオピニオンを受けてみてはいかがでしょうか。

藤宮 浩氏(フジ総合グループ 株式会社フジ総合鑑定代表取締役 不動産鑑定士)

藤宮 浩氏(フジ総合グループ 株式会社フジ総合鑑定代表取締役 不動産鑑定士)

埼玉県出身。平成7年宅建試験合格、平成16年不動産鑑定士試験合格及び登録、平成24年ファイナンシャル・プランナー(CFP)登録。

「株式会社フジ総合鑑定」の代表取締役であり、31年間で9,600件以上の相続関連実績を持つ「フジ総合グループ(フジ相続税理士法人/株式会社フジ総合鑑定)」の代表。

相続税還付業務の第一人者として各地での講演を多数行うほか、テレビ、雑誌、新聞など、各種媒体への出演、寄稿も行う。


フジ総合グループWEBサイト:https://fuji-sogo.com/


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