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経営する「アパート」に知らない車が…「無断駐車」を撤去する方法【弁護士が解説】 

所有するアパートの駐車場や敷地内に、無断駐車をされて困っている、というアパートオーナーも多いのではないでしょうか。無断駐車によって不便を強いられる入居者のためにも、速やかに早く解決したいものです。本記事では、Aさんの事例とともに所有地に無断駐車をされた場合の対処法について清水将博弁護士が解説します。

所有アパートの駐車スペースに無断駐車されている!

自己所有の中古アパートを賃貸している建物オーナーのAさんは、建物に隣接する自己所有の土地に入居者用の駐車スペースを設けています。利用を希望する入居者に対しては、住居の賃料とは別に、有料で駐車スペースの使用を認めていました。

ところが、Aさんは入居者から、「自分が借りた駐車スペースのはずなのに、何者かが自動車を停めており、自分の車が駐車できない」と連絡を受けました。Aさんが該当する駐車スペースを確認したところ、契約車両のナンバーではない自動車が駐車されていました。

オーナーは駐車している自動車に見覚えがなかったので、数日間監視しましたが、誰かが自動車を引き取りにくる様子はありませんでした。

そこで、オーナーは、自らレッカー車を手配して自動車を動かそうと考えました。しかし、このような対応を勝手にとってしまってもよいのでしょうか。

勝手に撤去するとどうなる?

駐車スペースの所有者又は借主等の権利者であっても、裁判等の法的手続きによらず、自ら業者を呼んでレッカー移動をさせた場合には、原則として違法行為となります。これを「自力救済の禁止の原則」といい、法治国家である日本においては、法律に基づいて権利を実現しなければならないという考え方です。

もっとも、いかなる場合であっても、自力救済が認められないというわけではありません。

自力救済に関する2つの判例

最高裁昭和40年12月7日判決においても、自力救済について、「原則として法の禁止するところであるが、法律に定める手続によったのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においてのみ、その必要の限度を超えない範囲内で、例外的に許される」としています※1

※1 最高裁昭和40年12月7日判決(昭和38年(オ)第1236号)

実際、下級裁判所は、アパートの管理会社がアパートの共有スペースに放置してある大量の入居者の荷物を無断で撤去したことについて、管理会社が自ら入居者の承諾なく荷物を撤去したとしても違法ではない、と判断した例があります※2

※2 横浜地方裁判所昭和63年2月4日判決

しかしながら、この裁判においては、

「共用部分たる本件動産設置場所についての原告ら側による違法な使用状態、これを是正するために催促ないし警告を重ねた被告の行為態様及び右警告後に片付けられた対象物件の価値の乏しさと量の少なさ等を勘案すると、被告による本件持去行為は自力救済禁止の原則に形式的には反する面があるものの、実質的には社会通念上許容されるものとして違法性を欠くと解するのが相当である」

と判示されているとおり、形式的には自力救済禁止の原則に違反するとされています。しかし、このケースでは具体的な事情に鑑み、実質的な違法性が認められないと判断されたにとどまります。

このように、自力救済はまったく認められないわけではありませんが、自力救済として認められるケースは極めて限られると思われます。そのため、自力救済の原則の例外に該当する可能性に期待し、自ら無断駐車されている車両を撤去することは控えるべきでしょう。

「無断駐車」を撤去したいなら…対処法と注意点を解説

では、無断駐車している自動車を撤去するためにはどうしたらいいでしょうか。

1.車両の所有者、使用者を特定する

まずは、誰が車両の所有者および使用者(以下「車両所有者等」)であるかを特定する必要があります。特定は、運輸局に対して、該当する車両の自動車登録番号(ナンバープレート)の文字・数字と車台番号下7桁を確認して、登録事項等証明書を交付請求することでできます。

また、土地所有者は私有地内の放置車両であることを理由に、自動車登録番号のみで照会することもできますが、この場合は、交付請求の際に、「車両が放置されている場所」、「見取り図」、「放置期間」、「放置車両の写真」が必要となります。

詳細は、陸運局のウェブサイト等をご参照ください。

2.警告文を送付する

車両所有者等が特定された場合には、当該車両所有者等に対し、車両の即時撤去及び無断駐車をしないよう求める警告文を送付することが考えられます。いきなり、法的手続きを講じることも考えられるところですが、費用対効果に鑑み、まずは、警告文を送付することがよいかと思います。なお、警告文を送付する際には、その後の立証を考慮し、内容証明郵便にて送付することがよいでしょう。

3.法的手続きをとる

警告文の送付など任意での解決が困難な場合には、法的手続きをとることが考えられます。具体的には、①無断駐車が行われた期間に生じた損害賠償の請求および②駐車スペースの明渡し請求を行うことになります。

②の場合の注意点としては、特定した車両所有者等が、第三者に当該車両を譲渡するなどして責任逃れをすることを許さないようにしなくてはなりません。そのため、民事保全法に基づく占有移転禁止の仮処分を行っておくことが有効でしょう。

4.違約金をとるといった看板を掲載する

これはよく見かけるところですが、「無断駐車 罰金1万円」などといった看板を掲示することも考えられるところです。しかしながら、法的には意味がなく、この看板を掲載したから罰金が取れるというものではありません。あくまでも、無断駐車を行おうとする方への心理的なプレッシャーを与えるにとどまりますので、ご留意ください。

まとめ

以上の無断駐車対策のうち、車両の所有者および使用者の特定については、運輸局で土地所有者自身が手続を行うこともできるかと思います。しかし、警告文の送付や法的手続きについては専門知識が必要ですので、ご自身で行うことが困難である場合も少なくありません。まずは、弁護士にご相談いただくのがよいでしょう。

監修:清水 将博氏(MSみなと総合法律事務所 代表弁護士)

監修:清水 将博氏(MSみなと総合法律事務所 代表弁護士)

専門は不動産法務、M&A法務、ベンチャー法務。


不動産に関する資金調達スキーム(不動産の証券化、信託スキーム、不動産特定共同事業法が適用されるスキーム等各種プロジェクト・ファイナンス、現物不動産の取引)において、さまざまなプレーヤーのカウンセルとして関与するなかで、不動産をめぐる各種訴訟等(テナントの退去に関する交渉、明渡訴訟、仲介会社や管理会社とのトラブル等)も数多く対応する。


一般社団法人不動産ビジネス専門家協会に所属し、セミナーへの登壇、執筆活動にも力を入れる。


「法務でビジネスを加速させる」をモットーに、バランス感覚を大切に、スピーディーにかつリーズナブルに案件の対応に取り組んでいる。


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