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亡父が経営していた「賃貸アパート」…予想のはるか上をいく「相続税額」に息子驚愕「なにかの間違いでは」【税理士が解説】                     

アパートを所有することは、相続対策として有効な手立てです。しかし、やり方を間違えるとかえって相続税額が高額になってしまうことも……。本記事では、Aさんの事例とともに、アパート経営による相続対策の注意点を小川明雄税理士が解説します。

相続税対策としてアパートを経営していたAさんの事例

Aさんはサラリーマンとして働いており、妻と子供2人と暮らしています。Aさんの母親はすでに亡くなっており、Aさんの父親はAさんの生家で1人暮らしをしています。

父親が仕事を退職したタイミングで、そろそろ相続税について考えなければと思い始めたAさん。書籍やWebサイトで相続対策について調査すると、さまざまな相続対策が世の中にあるとわかりました。

しかし、肝心の相続財産が減っては意味がありません。財産を減らさずに、Aさんの子供たちにも承継できる方法を、慎重に判断する必要があります。

Aさんは悩みましたが、父親とも相談して不動産運用が最適と判断し、ローンを組んで中古アパートを取得することにしました。それから間もなくして、程よい規模の物件を購入できたAさんの父親は、アパートの経営を開始します。

アパートは満室で経営できたため、予想以上の利回りとなり、Aさんと父親はひとまずほっとしました。ローンの返済も順調に進み、手許のキャッシュで修繕費まで捻出することができました。

Aさんの父親は健康に過ごしていましたが、しばらくしてAさんの自宅に同居するようになり、生家を売却して現金化しました。そして、アパートの取得から20年が過ぎたころ、Aさんの父親は亡くなりました。

「相続対策も行ったし、相続税はそこまでかからないだろう」と考えていたAさん。しかし、実家とアパートの不動産について、Aさんだけで相続税上の評価を行うことは難しいと考え、近所の税理士に相続税申告書の作成をお願いしました。

しばらくして、税理士から相続税申告書の中間報告として税額の試算結果を受け取ったところ、イメージしていた金額を遥かに超える相続税額となっており、Aさんは「なにかの間違いでは……」と驚愕してしまいました。

相続対策のはずがなぜ…Aさんの相続税が高額になったワケ

Aさんの父親は相続対策としてローンを組んでアパートを取得しましたが、なぜ想定より相続税額が大きくなってしまったのでしょうか。それは、アパートを取得後から相続発生までの期間に、継続的な財産の管理をできていなかったためです。

相続税の税額が大きくなったポイントは、下記のとおりです。

1. 相続発生時までにローンの返済が進んでいる

まず、ローンを組んでアパートを保有している場合、相続税の計算がどのように行われるかを理解する必要があります。

アパートは、相続財産として土地と家屋を財産評価基本通達に基づいて評価されます。財産評価基本通達とは、相続や贈与で取得した財産の評価方法を国税庁が示したものです。たいていの場合は、時価よりも小さい金額で評価されることになりますし、一定の要件を満たす場合、小規模宅地等の特例措置を適用でき、評価額を小さくできる可能性もあります。

一方で、借入金は、債務として相続財産から控除される金額となります。アパートを取得して数年程度の期間であれば、借入金の残額が大きいので、債務として控除される金額が大きいですが、返済が進めば進むほど、債務として控除される金額は小さくなります。

Aさんの父親の場合は、20年が経過していることから、借入金はかなり小さくなってしまっており、債務として控除される金額は少額になったのです。

2. アパートの経営が順調で手許のキャッシュが潤沢

借入金の返済を行えば債務として控除される金額が減りますが、それと同時に財産も減少するため、相続財産の額に影響はありません。

しかし、Aさんのケースでは、不動産の運用に成功し、家屋の価値の減少額と返済する債務の額以上のキャッシュを稼いでいます。当然ですが、この場合は財産の額が大きくなります。Aさんは、継続的に財産の状況や相続税の試算を行っていなかったため、Aさんの父親の財産が少しずつ増えていたことに気づけませんでした。

3. 生家を売却してキャッシュで保有している

自宅は、アパートと同様で、土地と家屋として財産評価基本通達に基づいて評価されます。この場合、通常は時価よりも小さい金額で評価されることになります。同じ時価であれば、現金として保有するよりも不動産として保有しているほうが、相続財産の額が小さくなる可能性が高いのです。したがって、生家を売却して現金化したことで、結果的に相続財産が大きくなってしまった可能性があります。

このように、Aさんの父親の財産が全体でいくらなのか、どのようなバランスで保有・運用するかということについて継続的に検討していなかったことが、思わぬ相続税額が生じる原因になったと考えられます。

アパート経営による相続対策の注意点

財産形成と相続対策は表裏一体の関係です。当たり前ですが、財産が増えれば相続税が増えることになります。

とはいえ、相続対策のために財産を目減りさせては意味がありません。そのときの状況に合わせて、財産全体をどのような資産で保有・運用するかを検討し、そのうえで相続税を試算して備えておく必要があります。

ローンを組んでアパートを取得する場合、「アパートの家賃収入も得られるし、相続対策にもなる」とよくいわれます。しかし、不動産の投資がうまくいけば財産は増え、財産が増えれば相続税額も大きくなってしまうのです。

今回のケースでは、Aさんの父親が全体の財産のうちに占めるキャッシュの割合が高かったため、もう1件アパートを取得することや、余剰キャッシュを少額ずつAさんやAさんのお子さんに生前贈与することもできたと思います。

財産の管理は継続的に行う必要があります。そして、必要に応じて、二の矢、三の矢を準備しておくことが重要です。

小川 明雄(小川堀田会計事務所 税理士・公認会計士)

小川 明雄(小川堀田会計事務所 税理士・公認会計士)

M&A・事業承継・国際税務のアドバイザリーを得意とし、事業再編の取引手法の検討、ファンド組成手法の検討、デュー・ディリジェンス業務に従事している。


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