現役銀行員に聞く…「アパートローン審査」で「提出書類の数字」以外に見られている意外なポイント(前編)
銀行員はアパートローンの審査を行うにあたり、大きく「定性面」と「定量面」の2つの側面から審査を行います。審査の際、銀行員は具体的にどこへ着目し、どのような思考をしているのでしょうか? まず前編では、これまであまり多く語られていなかった「定性面」審査について現役銀行員が解説します。銀行員の頭のナカを覗いてみましょう。
アパート経営は「事業」である
多くの方はアパート経営が「事業」であるということを当たり前に認識されているかもしれません。しかし意外にも、多くの方は十分な覚悟を持って、アパート経営に臨まれていないように感じます。
「事業」ということは、その成否は経営者である皆さんの力量にかかっているということです。アパート経営が上手くいかない理由を、販売業者や管理業者、銀行のせいにしてしまうのは簡単ですが、根本的な問題はそれでは解決しません。物件選びの責任も、入居者募集に関する責任も、入居者トラブルに関する責任も、これらすべての責任は皆さんにあることを、はじめに認識する必要があると思います。
銀行は、購入する物件のキャッシュフローや利回り、担保価値だけを見て融資を決定するわけではありません。皆さんのアパート経営が成功するように、アパート経営に対する皆さんの考えや覚悟を面談時に伺うこととしています。
これまでの経験上、申込時にアパート経営に関する「リスク」を説明させていただいたところ、申込が取りやめになった例があります。別に脅しているわけではありません。銀行には「貸し手責任」があることから、銀行が考えるリスク事項について説明することとしています。その例が以下のとおりです。
申込時に説明させていただく事項(トークスクリプト例)
■老朽化リスク
⇒ 資産価値の維持のための修繕費用の発生、賃貸目的の場合は経年劣化により入居者が決まらない・家賃設定の引き下げ等
■空室リスク
⇒ 賃貸目的の場合、入居者の転出により家賃収入が無くなる
■金利上昇リスク
⇒ 融資利率の上昇による返済額の上昇
■災害発生リスク
⇒ 地震・火災・その他自然災害による建物倒壊・消失
皆さんいかがでしょうか。これらの説明に対して、皆さんは十分な考えや覚悟を持って、アパート経営に取り組むお気持ちがおありでしょうか。その覚悟がおありでしたら、ここからは銀行が審査する「定性面」の審査事項について、お伝えさせていただきます。
銀行が審査する「定性面」とは?
定性面の審査とは、一言でいえば「数字に表せない事項」を審査することです。皆さんのアパート経営に臨まれる強い覚悟に加えて、
(1)なんのためにアパート経営を行うのか?
(2)購入しようとするアパートの魅力(強み)はなにか?
(3)アパート経営に関るリスクや計数を把握しているか?
(4)金融機関や販売業者、管理業者との円滑なコミュニケーションを取れる方か?
これらの事項について、しっかりと説明できるか否かは、審査に関して大変重要な事項です。
時折、金融機関からの質問に対して「業者さんに聞いてくれ」とか「そんなことはどうでもいいだろう」といった回答をされる方がいらっしゃいます。また、審査に必要な書類の提出を理由もなく拒まれる方がいらっしゃいますが、銀行員も人間です。皆さんがもし銀行員でしたら、このような態度を取られるお客様をどう思われますか?
一方、自らの事業についてしっかりと事業計画書等のエビデンスを用意したうえで、自分の言葉で事業内容や将来構想を語れる方は、銀行員に大きな信頼感を与えることとなり、融資審査において、プラスとなるでしょう。
融資審査はどのような過程で進む?
銀行員(融資担当者)は、自分ひとりで融資の可否を決定しているわけではありません。当然ですが、審査部門に決裁者が存在しており、その決裁を仰ぐ必要があります。従って、この決裁者に対して、審査に必要な情報を過不足なく伝え、その判断を仰がなくては、融資決定とはなりません。その際に必要となるのが、事業計画書等のエビデンス(説明資料)であり、さまざまな審査書類の提供をお願いさせていただく理由はここにあります。
銀行員の頭のナカ(審査における思考過程)
また、銀行員は、最初に教わる融資の基本として、「安全性」「収益性」「公共性」「成長性」の観点から融資を検討するように叩き込まれています。以下は、やや銀行員目線の考え方ですが、銀行員の頭のナカを知るという意味でご理解ください。
(1)安全性…皆さんへの融資が安全なもの(経営が成功する蓋然性が高い)であるか。
(2)収益性…皆さんが立案された事業計画が十分な収益性があるか。
(3)公共性…皆さんの事業が社会意義に照らして、適切なものであるか。
(4)成長性…皆さんの事業が継続可能な事業であるか。
これらの点を論理的に、かつ簡潔に決裁者へレポーティングする必要があるため、時として不快に思われるような事項を質問したり、審査書類の追加提出を求めたりするケースがあるかもしれません。もし疑問に思われる事項があれば、そこは冷静に銀行員に対して問い質すべきだと思います。
銀行員にノルマはある?
よくお客様から、「銀行員はノルマがあって大変でしょう」と言われることがあります。もちろん銀行は営利企業である以上、経営目標は存在しますが、個人に対しての数字ノルマがあるわけではありません。
従って、決算期だからといって、決算大セールなどと称して、本来取り上げるべきではない案件を取り上げたり、クロをシロに塗り替えたりするようなことは決してありません。むしろ、皆さんと良好な関係を築き、これからも長い期間のお付き合いをさせていただく以上、本心から、皆さんの事業成功をサポートしたいと願っています。
なにか甘言にのせられて、十分な考えや覚悟、緻密な事業計画無しにアパート経営に乗り出そうとする方には、融資をお断りさせていただく場合もあります(貸さない親切があると銀行員は考えています)。そこの見極めこそが、実は数字以上の、融資審査のキモなのです。
「定性面」の審査には、明確な答えが存在しないからこそ難しく、かつ銀行員の力量がもっとも問われる審査分野となります。アパートローンの審査を受ける際には、融資担当者とのコミュニケーションを積極的に行ってみてはいかがでしょうか。
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