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アパート経営の収入は同額でも…融資審査で「高評価のケース」と「低評価のケース」の決定的な差【現役銀行員が解説】(後編)

アパートローンの審査を行うにあたり、銀行は大きく「定性面」と「定量面」の2つの側面から審査を行います。その際、銀行員は具体的にどこへ着目し、どのような思考から審査結果を下すのでしょうか? 後編では、融資審査における「定量面審査」について、現役銀行員が解説します。銀行員の頭のナカを覗いてみましょう。

「定量面審査」とは?

定量面審査とは、一言でいえば「数字」で表せる審査項目のことです(前編でお伝えさせていただきましたとおり、数字で表せないのが「定性面審査」となります)。

この定量面審査において、最も重要な指標として、「DSCR評価」があります。銀行が行うアパートローンの審査において、「定性面」も「定量面」もどちらも大切な要素であり、どちらかが優れていればいいというわけではありません。あくまでも、2つの側面に問題がないケースのみ、融資審査可決となります。

DSCRとは?

「Debt Service Coverage Ratio」(デット・サービス・カバレッジ・レシオ)の略で、「元利金返済カバー率」を表したものです。その数値が示すものは、皆さんが得られる賃料が、銀行への返済金をどれくらい上回っているかを示す数字で、高ければ高いほど、審査結果上は高評価となります。

銀行員の頭のナカは、まず「返済が確実に見込めるか?」ということで一杯です。まずは、そのことを理解する必要があります。

〈算式〉

DSCR(倍)=賃料(収入)÷銀行への返済金

この算式のとおり、賃料が銀行への返済金を上回っていれば「1倍以上」の数値になります。以下では、月の手取りが同じケースを例に、具体的にみてみましょう。

【ケース1】

・月額賃料:100万円  

・銀行への月額返済元利金:90万円  

・月の手残り:10万円

⇒DSCR=100万円÷90万円≒1.11倍

【ケース2】

・月額賃料:60万円   

・銀行への月額返済元利金:50万円  

・月の手残り:10万円

⇒DSCR=60万円÷50万円=1.20倍

この2つのケースの場合、どちらも月の手残りは10万円なので、皆さんが得られる収入という面だけ見た場合の経済効果は同じです。しかし、銀行の評価は違います。

この場合、ケース2のほうが高評価となるのです。理由は、ケース2のほうがDSCR倍率の数値が高いためです。

このことが示しているのは、借入金の毎月の返済負担額が少ない(=多くのケースでは、借入額そのものが少ない)ほうが、より効率的な賃貸経営を行っていると評価されることとなります。

DSCR値を高め、毎月の返済額を少なくする方法

では、毎月の返済額を少なくするには、どのような方法が考えられるでしょうか。

  • 借入金額を少なくする(=自己資金を多く用意する)
  • 借入期間を長くする(=毎月の返済額は少なくなる)
  • 借入金利を低くする(=金利負担額が少なくなる)

これらの対応はすべて「金融取引面」だけに着目した場合、すべて正解であるといえます。しかし、多くの銀行員の頭のナカは、こう考えています。

  • フルローンは担保評価との兼ね合いからリスクが高い(=できるだけ自己資金が多い案件のほうがよい)
  • 借入期間は建物の法定償却耐用年数以内が望ましい(=長期間の貸出は回収リスクが高い)
  • 貸出金利はなるべく高くしたい(=説明は不要かと思われます)

なぜ、銀行員の頭のナカはこうなっているのでしょうか。いわずもがなですが、賃貸アパートの経営は「右肩下がりのビジネスモデル」が一般的だからなのです。

右肩下がりのビジネスモデル

通常のビジネスであれば、事業拡大に伴い「売上高」や「利益」は右肩上がりになっていくのを目指すのが、一般的なビジネスモデルといえるでしょう。

しかし、物件単位で見た場合、賃貸アパートは「ほぼ確実に」賃料(=売上)は下落し続けることとなります。

つまり、毎年少しずつ劣化し続けていく建物に応じて、賃料が下がっていくことを想定しているビジネスモデルである以上、

  • 将来的に下がった賃料でも返済できるか?
  • 土地評価額まで借入金残高が減少するまでに何年かかるか?
  • 将来的に貸出金利が上昇した場合でも返済が可能か?

といった点を念頭において、DSCR数値の算出にあたっては、さまざまなストレス値を掛けたうえで、リスクシナリオを想定することとしています。銀行員が通常想定しているリスクについては、前編で記載させていただいたとおりです。

DSCR値算出時のストレス値

まずは、賃貸経営の最大の課題とも言えるのが「空室対策」なのですが、一定期間、空室が発生することは珍しくありません。そこで、銀行員は概ね空室率が常に25%程度発生しているものとして、毎月の返済原資を確認することとしています。

つまり、満室時に50万円の賃料が見込めるケースでも、37.5万円の賃収しかないものとして、融資審査を行っているということです。

さらに、実際のアパート経営においては、毎月の管理料(賃収の5%程度)であったり、火災保険料や物件の公共料金、広告宣伝費等であったり、小規模修繕費用が発生するなどさまざまな諸経費が掛かることが一般的です。

また、融資金利については現在、歴史的に見ても低金利である事を考えると、将来、金利上昇することは、かなり確率として高いものではないかと考えています。そこで、あらかじめ現在の金利より高い金利で返済金額をシミュレーションしています。

DSCRは審査において銀行目線では有効な指標だが…

これまで述べてきたように、賃貸アパート経営のビジネスモデルから、銀行が融資する目線としてDSCRが有効な指標となることをご説明させていただきましたが、経営者の皆さんにとって、本当はもっと重要な経営指標が存在します。それは、税金まで含めた、総合的な不動産投資利回りではないでしょうか。

日本では長く続く低金利政策で、不動産利回り4%でも高利回りと考える人が少なくありません。しかし、それは日本の銀行預金金利などと比べた場合のみであり、皆さんの汗水流した事業運営における成果としての4%は納得のいく数値なのでしょうか?

最後はやや脱線してしまいましたが、アパート経営は「事業」であり「経営」です。銀行員の頭のナカを知ることは、融資審査を知るとともに、皆さんの事業経営に対する「覚悟」や「計数観念」を再確認することに繋がるかもしれません。

アパート経営オンライン編集部

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