迫る「サブリース2025年問題」賃料の値下げは避けられないのか?【弁護士が解説】
2015年ごろに急増したサブリース物件の家賃の大幅な値下げが予想される「サブリース2025年問題」。家賃の値下げにより、サブリース物件のオーナーは想定していた賃料が減額され、ローンの返済が厳しくなるリスクが生じます。来たる2025年に向け、どのような対策を取るべきなのでしょうか?法律事務所Zの溝口矢弁護士が解説します。
サブリース2025年問題とは?
2015年(平成27年)に相続税法の改正が行われ、相続税の基礎控除額が引き下げられたことなどにより相続税対策としてサブリースを利用した賃貸経営が広く用いられました。2025年は、2015年相続税法改正から10年が経過する節目の年であるため、サブリース契約された賃貸物件に対し、賃料見直しの流れが生まれるのではないかと予想されています。
加えて、2025年には団塊の世代がすべて75歳以上(日本の人口に占める割合は約18%)になり、賃貸物件の需要が低下する可能性があることも賃料見直しの流れを後押しするのではないかとの話もあります。
まとめると、2025年よりサブリース契約された賃貸物件に対し、賃料見直しの流れが発生する懸念によって不動産オーナーを脅かすのが「サブリース2025年問題」です。
サブリースとは
サブリースは、賃貸物件を賃貸人(オーナー)がサブリース業者に賃貸し(マスターリース契約)、さらにサブリース業者が入居者に転貸するものです(サブリース契約)。
サブリース業者は、賃貸人に対し、サブリース業者が間に入ることで賃貸管理の手間を軽減し、安定した賃料を渡すことを謳ってこのような事業を行うことを提案します。もっとも、サブリース事業において注意しなければならないのは、サブリース業者もマスターリース契約において賃借人の立場にあたり、借地借家法による強力な保護を受ける対象となる点です。
これにより、サブリース業者側から契約期間中や更新時になされる賃料減額請求を受け入れざるを得なくなる、解約をされてしまうなど、当初は予期していなかった事態に陥ることがあります。
サブリース新法
上述のようにサブリース事業には賃貸人にとってリスクが伴うにもかかわらず、不誠実なサブリース業者がこのリスクを十分に伝えずサブリース事業をもちかけ、後に紛争となっているケースが散見されていました。そこで、近年、いわゆるサブリース新法が設けられ、誇大広告や不当勧誘の禁止、重要事項説明の義務化等の対策がなされています。
サブリース業者から賃料減額請求をされたときの対処方法
1.契約内容の確認
サブリース業者から賃料減額請求をされた場合、マスターリース契約の内容を確認しましょう。
ポイントは、普通建物賃貸借契約(期間満了後に賃貸借契約の更新がある)と定期建物賃貸借契約(期間満了により賃貸借契約が終了するもの)のどちらにあたるのか、賃料を減額しない旨の特約があるかどうかです。
仮に、定期建物賃貸借契約であり、賃料を減額しない旨の特約がある場合には、賃料減額請求に応じる必要はありません(借地借家法第38条第9項)。
他方で、普通建物賃貸借契約の場合には、賃料を減額しない旨の特約がある場合でも賃料減額請求につき対応する必要があります。仮に請求に根拠があるのであれば減額に応じなければならず、根拠がないのであれば適切に争わなければならなりません。
2.交渉
サブリース業者から賃料減額請求があった場合は、その根拠について確認をしましょう。そもそも減額の根拠がない場合や、その根拠をもって減額する必要性が認められない場合もあります。また、減額に応じざるを得ない場合でも、減額する金額につき交渉の余地があるかもしれません。
交渉は慎重に行う必要があります。訴訟に発展した場合に、交渉時のちょっとした言動が不利に働くことも少なくありません。具体的には、賃料の設定の経緯に関する不利な事実を認めてしまうケースもまま見受けられます。
判例は、事業用賃貸物件に関してサブリース業者から賃貸人に対して賃料減額請求がなされた事案で、賃料減額請求の当否や相当賃料額を判断するにあたり、衡平の見地に照らして契約締結に至る経緯や契約締結当初に賃料額を決定する際の事情等を考慮するとしています(最高裁平成15年10月21日判決(平成12年(受)第123号))。
そして、サブリース業者の賃料減額請求を否定した裁判例もあります。たとえば空室発生を理由とした賃料減額請求が認められなかった裁判例、千葉地方裁判所平成20年5月26日判決(平成17年(ワ)第1967号))、逆ざや状態を理由とした賃料減額請求が認められなかった裁判例(東京高等裁判所平成23年3月16日判決(平成22年(ネ)第6377号))などです。ただし、結論を一般化できるものでないことには注意が必要でしょう。
交渉にあたっては、このような判例・裁判例を参考にしつつ、個別具体的な事案を分析し、適切な方針を立てたうえで対応しましょう。
3.調停・訴訟
交渉でも解決に至らない場合は、裁判所における手続に移行することも検討する必要があります。
裁判所において話し合いをする調停は、裁判所の調停委員による客観的な意見も交えて協議を行うため、交渉のみで詰め切れない部分があったのみであればスムーズに和解に至ることもあり、有効な解決手段となることが考えられます。
他方で、解決案に関し、双方の考えに隔たりがある場合には、訴訟(裁判)により解決を図る必要があるでしょう。もっとも、賃料減額請求に関しては、訴訟の中で裁判所から和解の余地があるかどうかの意思確認や和解の打診をされることが多いです。
当事者としては、どこまで譲歩する余地があるのか、あるいはその余地がないのかをよく検討しながら対応することとなるでしょう。また、賃料額の相当性を裏付けるために不動産鑑定士の鑑定が必要となる可能性が高いです。この場合は鑑定料の負担も生じます。
なお、最終的に判決で賃料を減額する必要があると判断された場合には、賃料減額請求がなされた時点に遡って減額した賃料額であったとされるため、余分に受け取ったもとの賃料との差額分を返還しなければならなくなります。さらに、この差額分に対し、年10%の利息を付さなければなりません(借地借家法第32条第3項)。このようなリスクがあることにもご注意ください。
サブリース事業をすでに行っている人、今後検討する人
すでにサブリース事業を行っている方から、賃料減額請求への対策を講じることができないかご質問をいただく場合もあります。しかし、構造上、賃料減額請求を具体的に防止するような対策を講じることは困難なことが多いです。事案によっては専門家に相談することで具体的な対策を見つけられることもありますが、広く一般的に通用する対策があるとは言い難いところです。
このような状況である以上、賃料減額請求がなされた時点(問題が発生した時点)で速やかに専門家に相談し適切な対応を行うことこそが最大の防衛策になるともいえます。
また、サブリース事業をこれから始める方は、自ら経営戦略を立てサブリース事業が本当に必要であるか、契約内容や賃貸物件の管理状況に問題はないかを十分に確認したうえで臨みましょう。不動産は大きな買い物であるため、契約締結前の時点で専門家に契約書のリーガルチェックを依頼するなどして事前に防御をしておいて損はありません。
いずれにしても専門家のサポートを上手く利用しながら対応していくことが重要となるでしょう。
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