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【冬の賃貸アパート経営】一部屋30万円…賃借人「エアコンを寒冷地仕様にしてくれ!」は基本的に入居者責任も…オーナーが費用負担するケースとは?

冬季になると、気温の低下や降雪などの冬特有の条件によって、さまざまな問題が生じる可能性があります。ここでは、冬の賃貸アパート経営で起こりやすいトラブル事例を取り上げ、効果的な対策法と対処法について、不動産を専門に取り扱う山村暢彦弁護士が解説します。

賃借人「エアコンを寒冷地仕様に変更してくれ!」

寒冷な地域のアパートですと、賃借人からエアコンを寒冷地仕様のものに変更してほしいと要求があった場合、オーナーとしては応じなければならないのでしょうか? ほかにも、カビや結露が発生しやすいのでなんとかしてほしいと要求があるケースも多々あります。

法的にどのような考え方で対処していくのかと、実務的にどのような段階を踏んで対応していくのか、実践的な解決方法をお話ししていきたいと思います。

法的には対応しなければならないのか?

まず民法上、賃貸人の義務としては、賃貸借契約は以下の条文に定められており、貸主側としては「ある物の使用及び収益を相手方にさせる」こと、すなわち貸す債務を負います。要は、賃貸借の目的に応じて、貸したものを利用できるようにして貸す、ということですね。

(賃貸借)                                         第六百一条 賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。

たとえば倉庫として貸すのであれば、その際、どのような状態の倉庫として貸すのかを賃貸借契約の内容で定めておく必要があります。

頭の中でイメージしてもらいますと、①雑に扱ってもよい資材等を補完するために、単に雨風等をしのげる前提の「倉庫」を貸せばよいのか、②電子部品等を補完するために空調や温度等を管理できる設備を加えた「倉庫」を貸せばよいのか、このあたりは賃貸借契約の内容で定めておくということです。

さて、アパートの場合、当然居住できる人が生活できる程度の環境を提供する部屋を貸さねばなりません。その際に、どのような設備を前提として貸し出すかを定めておくのが賃貸借契約書です。

こちらも、まったくエアコンがないと冬のあいだ生活ができないほどの寒冷地であれば、エアコンが設置されている前提で貸し出す部屋もあれば、特にエアコンを条件にしていない前提で貸し出す部屋もあるわけです。

そのため、単に寒冷地だからという理由ではダメで、契約時にどのような設備の前提で貸した部屋なのかというのが法的な判断には重要となってきます。

一部屋30万円の寒冷地仕様のエアコン設置を求められた事例

過去の相談例では、一部屋30万円程度の施工費がかかるような寒冷地仕様のエアコンの設置を賃借人が求めてきたという事案がありました。賃借人が宅建協会の苦情相談窓口にも駆け込みましたが、「特に通常のエアコンが正常に作動していれば問題ない」という回答で沈静化しました。

実際、その地域は寒冷地ではありましたが、少なくともこれまで問題の賃借人以外からは苦情がきたこともなく、契約内容にも特段寒冷地仕様のエアコン設置を定めたわけでもなく、賃借人側の過剰要求だと判断されて終結しました。

法的な判断のポイントとしては、

1.本当に住めないレベルの悪環境になっているのか

2.賃貸借契約の定めでどのような設備を前提にしていたのか

という上記2点を中心に考えていけばよいでしょう。

法的な考え方だけでは収まりきらない「感情面での対立」

常々トラブルというのは、「法的にこうだからこう」という法的な考え方によって、当事者全員が納得するわけではなく、穏当な着地点を考えて対応していくことが重要です。

今回のような「これは過剰要求かな?」と思えるトラブルがあっても、オーナー側でも感情的に反論するだけでは、なかなか早期に決着しません。特に、トラブルが生じると感情面での対立が深まり、ほかの些細な事柄でも逐一トラブルになるような関係性になりかねません。そのため、多少は譲歩した解決案の提示も重要になってきます。

今回のケースでは、一式30万円もする寒冷地仕様のエアコンへの変更工事は断ったものの、代替案として、1~2万円程度の暖房器具を支給して解決を図りました。賃借人の勢いもすごく、宅建協会側の助けもあって終結できたという面もありました。

もっとも、法的にこちらが正しいから、「弁護士に依頼して内容証明郵便を出して自分の正当性を主張する!」というだけでは、余計に対応労力の発生する問題に発展していたかと思います。

筆者としても、今回は法的なジャッジと、譲歩案の調整までをバックアドバイスしただけに留めました。弁護士が前にでなければならないのは、「感情的な対立が深まりすぎて、まともに話し合いができない場合のみです」と、どうしようもないクレーマーにまで発展するまでは、オーナーと管理会社が二人三脚で対応されたほうがよいでしょう、とアドバイスしていました。

トラブル発生時の対応方法

弁護士が言うのもなんですが、片方が弁護士出してくると、対応する側も弁護士を出さざるを得ず、時間と労力の負担が余計に大きくなるケースもありえます。

そのため、トラブル発生時には、①弁護士に早期に相談にいって「見通し・方針」は設定しておいたほうがよいものの、②極力バックアドバイスに留め、譲歩案を先に提案する、③それでもどうしようもない場合は弁護士介入を検討する、という①~③の段階を踏んで考えておくとよいでしょう。

オーナーとしては、トラブルは解決できるだけではダメで、労力を押さえて、早く安く解決する必要がありますから、本件のような実務的な対応方法も参考になると幸いです。

監修:山村 暢彦氏(山村法律事務所 代表弁護士)

監修:山村 暢彦氏(山村法律事務所 代表弁護士)

専門は不動産法務、相続分野。実家の不動産トラブルをきっかけに弁護士を志し、現在も不動産法務に注力する。日々業務に励む中で「法律トラブルは、悪くなっても気づかない」という想いが強くなり、昨今では、FMラジオ出演、セミナー講師等にも力を入れ、不動産トラブルを減らすため、情報発信も積極的に行っている。


クライアントからは「相談しやすい」「いい意味で、弁護士らしくない」とのコメントが多い。不動産・相続のトラブルについて、自分ごとのように解決策を提案できることが何よりの喜び。


さらに不動産・相続法務に特化した業務に注力するため、2020年4月1日、不動産・相続専門事務所として山村法律事務所を開設。


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