TOP>記事>不動産投資家の50代父、急死…残された家族が悲惨な目に遭ったワケ【弁護士が解説】

不動産投資家の50代父、急死…残された家族が悲惨な目に遭ったワケ【弁護士が解説】

インフレによる資産の目減りを防ぎ、価値が上昇しやすい「不動産」への投資に注目が集まっています。将来のためにと、熱心に勉強して成果を出している人も多いですが、もし投資をしている本人に万一のことがあった場合、残された家族への影響はどうでしょうか。家族の幸せを想って行っていた投資が、逆に知識を持たない家族の足かせとなることも。本記事では、事例をもとに賃貸用不動産の相続トラブルについて、MSみなと総合法律事務所、代表弁護士の清水将博氏が解説します。

相続税対策のために中古アパートを買ったが…

Aさんは、不動産投資が相続税対策になると聞き、不動産投資を始めました。首都圏に所在する築30年の中古アパート一棟(1億円)を頭金1,500万円、アパートローン8,500万円で購入し、ローンの返済を行っていました。なお、このアパートローンは団体信用生命保険(以下、団信)に加入していました。

当初は入居者もついており、稼働率が80%以上であったため、賃料を原資としてローンの返済を行うことができましたが、最近は、入居者が付かない状況となり、稼働率が60%程度まで落ち込んでいました。

このような状況で、Aさんが死亡してしまいました。

残された家族が争う理由

1.不動産投資が相続税対策にはならない場合がある

現金で資産を持っているよりは不動産で資産を持っていたほうが、相続税対策になるといわれることがあります。これは、相続財産としての不動産は相続税評価額での評価となるため、現金で持っている場合よりも、相続財産の評価額を抑えられることがあるためです。

また、借り入れをしている場合には、その分も相続財産から控除されることになる側面もあるため、ローンを利用することで、相続税対策となるともいえます。

しかしながら、今回のようなAさんのケースにおいては、団信に加入していることにより、相続税対策にならない可能性があります。団信に加入していた場合、Aさんが死亡した際に、このアパートローンはすべて免除されます。そのため、相続財産の評価において借り入れがあることを考慮することができなくなってしまうのです。そうすると、1,500万円の現金が、時価1億円の不動産に変化します。

つまり、相続財産が増加してしまうことになり、相続税の金額も増える可能性があるのです。この場合、相続税を支払うための現預金があればよいのですが、相続財産の多くが不動産に偏っている場合、この不動産を処分しなければならなくなります。

このように、残された家族のために購入した不動産を、結局は相続税の支払いのために売却をしなければならなくなり、そのための手間暇を相続人にかけてしまうということが生じてしまいます。

2.アパートローンの返済を相続人が負担しなければならなくなる場合がある

Aさんのケースでは、団信に加入していましたので、アパートローンは消滅し、相続人がアパートローンの返済をするということは起きませんが、団信に加入していない場合にはどのようになるでしょうか。

団信に加入していないアパートローンについては、相続が発生した際に、原則としては、法定相続分に応じて相続人にその負債が分割されます。そのため、相続人は、分割されたアパートローンの返済を行う義務を負担します。当該アパートに十分な賃料が入ってきていれば、相続人もそれを原資にアパートローンの返済を行うことが可能です。しかし、本件のように十分な賃料が入ってきていない場合には、相続人自らの資産によりアパートローンの返済を行わなければならなくなる可能性もあります。

このように、残された家族のために購入した不動産が、残された家族の負債になってしまう恐れもあるのです。

3.「不動産の所有者をだれにするか」でトラブルになる場合がある

上記の事例とは異なり、収益性が高い状況の不動産の場合によく問題となるのが、不動産の相続人をだれにするのか、ということです。

相続が開始されると、原則としては相続人の共有となりますが、共有状態となってしまうと、所有関係が複雑になってしまいますし、さらなるトラブルを生じさせてしまうこともあります。そのため、実務においては、相続人のうちの誰かの単独所有となるように遺産分割協議を成立させることがあります。

この際、収益性が高い不動産の場合、みんな自分が承継したいという想いが生じ、だれが相続するのかということで紛争が生じることがあります。また、相続人が決まった場合でも、ほかの相続人に対して相当程度の高額な代償金を支払う必要が生じる場合があり、その資金を用意しなければならないという新たな問題も生じてしまいます。

賃貸用不動産の相続対策で重要なこと

賃貸用不動産は、うまく活用すれば、残された家族の生活の支えになることもあります。しかしながら、相続時にどのようなことが生じ得るのかをきちんと考えておかないと、「不動産」が「負動産」となり、相続人にとってはデメリットとなる場合もあります。

そのため、不動産投資をすることにより、相続税との関係でデメリットはないか、逆に相続人に負債を負担させたり、新たなトラブルを生じさせたりすることにならないか、という観点からの検討を行っておくとよいでしょう。

専門家のアドバイスのもと、適切な対策を

以上のとおり、不動産投資を行っている場合、相続時に新たなトラブルが生じる場合があります。そのため、投資を行う時点において、将来生じるリスクを把握しておくことが重要であり、また、可能な範囲でその対応策を講じることも重要です。

そのためにも、弁護士や税理士などの専門家にもアドバイスを求めることも重要であると思います。

監修:清水 将博氏(MSみなと総合法律事務所 代表弁護士)

監修:清水 将博氏(MSみなと総合法律事務所 代表弁護士)

専門は不動産法務、M&A法務、ベンチャー法務。


不動産に関する資金調達スキーム(不動産の証券化、信託スキーム、不動産特定共同事業法が適用されるスキーム等各種プロジェクト・ファイナンス、現物不動産の取引)において、さまざまなプレーヤーのカウンセルとして関与するなかで、不動産をめぐる各種訴訟等(テナントの退去に関する交渉、明渡訴訟、仲介会社や管理会社とのトラブル等)も数多く対応する。


一般社団法人不動産ビジネス専門家協会に所属し、セミナーへの登壇、執筆活動にも力を入れる。


「法務でビジネスを加速させる」をモットーに、バランス感覚を大切に、スピーディーにかつリーズナブルに案件の対応に取り組んでいる。


幻冬舎GOLDONLINE 紹介ページはこちら


関連記事

  • 最新のアパート価格推移…「購入/売却」するのに最適なタイミングは?【FPが解説】

  • 70代のアパートオーナー、所有物件の「承継」はどうする?生前に準備すべき対策【税理士が解説】

  • 納めすぎの可能性も…アパートの相続税、「自己申告制度」の落とし穴【不動産鑑定士が解説】

  • 築30年の木造アパート…賃貸経営を続ける?売却する?判断のポイントを税理士が解説

サイトについて

アパート経営オンラインは、堅実・健全な不動産賃貸経営業をナビゲートする情報メディアを目指し、既に不動産を経営されている方、初めて行う方に向けてお届けするサイトです。
様々なことに向き合い、改善するきっかけとなりますようアパート経営オンラインでは、成功事例や失敗事例を交え、正しい不動産の経営方法をお伝えいたします。

メルマガ会員募集中

こんなお得な情報が届く!

  • 記事公開などのサイトの更新情報
  • アパートローンセミナーのお知らせ
  • その他お役立ち情報など

メルマガ登録