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相続対策をせずにアパートオーナーが急逝…遺された家族に待ち受ける「大混乱」【弁護士が解説】

自宅不動産であっても、相続対策が行われていないと遺された家族間で相続トラブルになることが多々あります。しかし、収益物件を所有している人が突然亡くなってしまった場合、それ以上に厄介なトラブルが発生すると、不動産と相続を専門に取り扱う山村暢彦弁護士はいいます。アパートオーナーが急逝した場合に陥る「2つの問題」について、みていきましょう。

1.「収入は止まるのに借金返済」の地獄

まず、なにも相続対策がされていない状態でアパートオーナーが急逝してしまうと、そのアパートはオーナーが死亡した時点から「相続人の共有」状態に陥ります。そして、その後のアパートの賃料は、「各相続人が相続持ち分の割合によって単独で取得する」という最高裁の判決があります(最高裁平成17年9月8日判決)。

すなわち、オーナーが死亡した時点から、各相続人が自動的に賃料を割合取得できるというルールになっているのです。これだけ聞くともっともだと思うかもしれませんが、現実は非常に混乱してきます。

一般的に、賃貸管理会社に賃料の集金を依頼している場合、相続発生時点から、誰にどれだけ払ったらよいのかが曖昧になってしまいます。

そのため、相続した方を特定するために、「遺産分割協議書と、その方がオーナーになったという届け出を出してください」などと要請されます。

しかし、「遺産分割協議書」というのは、遺産の配分について相続人全員が同意しなければならない文書です。そもそも、死亡後すぐに被相続人=亡くなったオーナーの財産を把握することは難しく、被相続人の財産目録は、通常3ヵ月から半年程度かけて作成します。

すなわち、相続人としては賃貸管理会社からの要請に対して相続財産の配分も決めなければなりませんから、賃貸管理会社の要請にはどれだけ頑張ったとしても半年から1年弱程度は応えることができないことが多いです。

結果として、「賃貸管理会社から賃料の支払いを受けられない」状況に陥ってしまうことがあります。

そうすると、次に困るのは、「金融機関への返済」です。

アパートオーナーが亡くなったからといって、返済を止めるわけにはいきません。理屈上借金については、被相続人の死亡時点から相続人に分割されるルールになっています。つまり、子ども3人が相続人で借金が3000万円だと、自動的に各自が1000万円ずつの借金を負ってしまうということです。

一般的には、被相続人の口座から数ヵ月はそのまま引き落としたり、相続人の代表者と金融機関が協議のうえ数ヵ月間をどうするか協議したりするのですが、理屈だけでいいますと、被相続人が死亡した時点から各相続人は借金を返す義務を負います。

賃貸管理会社と金融機関それぞれの対応を併せて考えると、「賃料収入がストップしてしまうのに、借金の返済だけはしなければならない」という状況に置かれてしまうのです。

相続対策をしないままアパートオーナーが亡くなると、このように大変な混乱状況に陥ってしまいます。筆者が昨年対応したアパートオーナーの相続事案でも、本筋の遺産分割協議とは別に、これらの金融機関や賃貸管理会社への対応に相当骨が折れました。

2.相続手続き完了まで入居者募集ができない

上記とは別に、「相続手続き完了までの入退去を行えるかどうか」という問題も生じてきます。

やや解釈の幅がある問題ですが、厳密な運用を行う賃貸管理会社では、「相続人全員の同意が得られている状況でなければ新しい入居者の募集はできない」という回答を行うところもあります。

突然の相続で混乱に陥っているオーナー側からすれば、なんて不親切な管理会社だと思うかもしれませんが、法律的には正しい運用です。原則として、賃貸借契約の新規締結においては「処分行為」といい、共有者全員の同意が必要だというルールになっています。

他方、商業ビルのようにもともと賃料収益事業を行っているようなケースにおいては、新規の賃貸借契約締結は「管理行為」であり、持分を有している方の過半数の同意があれば新規契約を締結してもよい、という裁判例も見受けられます。

このように、遺言書等もなく相続が突発的に生じると、賃貸事業自体が継続できず相続人全員にダメージが生じてしまうことになってしまいます。

まとめ…アパートオーナーは「事業承継」の備えを

不動産賃貸業を営んでいる方が相続対策をせずに亡くなってしまうと、

①借金の返済問題

②手続き中の入退去が処理できない問題

と賃貸事業を継続できない状態に陥りかねません。

収益不動産を保有している方は、自ら情報収集して必要な対策を行っていく必要があります。

信託等は難しくても、大規模リフォームなど積極的な運用ができる方法もありますし、遺言書によって相続人の中心となる方を決めるなど、貸事業を最低限コントロールできるように対策しておくべきです。

収益不動産を保有する以上、いずれ「賃貸事業」を承継することになると考え、「事業承継」に備える必要があるでしょう。

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監修:山村 暢彦氏(山村法律事務所 代表弁護士)

監修:山村 暢彦氏(山村法律事務所 代表弁護士)

専門は不動産法務、相続分野。実家の不動産トラブルをきっかけに弁護士を志し、現在も不動産法務に注力する。日々業務に励む中で「法律トラブルは、悪くなっても気づかない」という想いが強くなり、昨今では、FMラジオ出演、セミナー講師等にも力を入れ、不動産トラブルを減らすため、情報発信も積極的に行っている。


クライアントからは「相談しやすい」「いい意味で、弁護士らしくない」とのコメントが多い。不動産・相続のトラブルについて、自分ごとのように解決策を提案できることが何よりの喜び。


さらに不動産・相続法務に特化した業務に注力するため、2020年4月1日、不動産・相続専門事務所として山村法律事務所を開設。


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