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不動産取引でかかる「印紙税」…進む、契約「電子化」の現状【税理士が解説】

不動産投資では、さまざまな取引が発生しますが、その際に「印紙税」がかかる場合があります。印紙税が課税されるかどうかは、契約書の内容や記載されている金額によって決まります。また現在では、契約書の電子化により印紙税を節約するという動きも。本記事では、不動産投資における印紙税について、不動産投資と不動産専門の税理士であるMK Real Estate 税理士事務所の川口誠氏が解説します。

不動産取引で収入印紙が必要になる文書

不動産取引の場で収入印紙が必要になる文書としては、以下のようなものが挙げられます。

番号等文書名
第1号の1文書不動産売買契約書
第1号の2文書土地賃貸借契約書
第1号の3文書金銭消費貸借契約書
第2号文書管理委託契約書、工事請負契約書、
注文書・注文請書
第7号文書管理委託契約書
第17号の1文書領収書

  ※番号等は印紙税法の課税する文書の一覧(課税物件表)に掲載

不動産の売買時には、不動産売買契約書、金銭消費貸借契約書、領収書(売主買主間での金銭のやり取りの際に発行)等、多くの文書が作成されます。ほかにも、購入申込書を作成することがあり、買主の申込に対して売主が承諾する旨が書かれていると契約書として印紙が必要になってきます。

工事請負契約書、注文書・注文請書は、修繕やリフォーム時に業者とのあいだで交わされます。

管理委託契約書には注意が必要です。管理委託契約には委任契約と請負契約の要素があり、仕事の結果に対して報酬が支払われるような契約になっていると請負契約に該当してきます。

国税庁の質疑応答事例で、印紙税が課税される請負契約について、「一部の請負の事項が併記された契約書又は請負とその他の事項が混然一体として記載された契約書は、印紙税法上、請負契約に該当する」としています。さらに、その請負の目的物には「建物の清掃」が含まれるとしています。

管理委託契約の業務の中に清掃業務等の請負が一部でも入っていると、印紙税法では、請負契約に該当することになります。しかし、委任契約と捉えて、印紙が漏れてしまうことは少なくない気がします。不動産管理会社とオーナーとのあいだで管理委託契約書を2通作成し、それぞれで契約書に印紙を貼って、消印し保管しておくこともあります。不動産管理会社がオーナーに印紙のことを話していないと、オーナー側では意識せず、なおさらそのような結果になります。

請負契約書に該当する場合に、報酬料金が月額いくらと記載されているときは、第2号文書である請負契約書となり、月額料金に契約期間の月数を掛けた金額を契約金額として印紙税を計算します。報酬料金が家賃収入の何%と記載されているときは、第7号文書である継続取引の基本となる契約書となり、4,000円の印紙を貼ることになります。

不動産の売買時には、売主、買主双方で多くの領収書を発行します。

売主作成買主作成
・手付金
・売買代金の残金
・固定資産税清算金
・売主の支払済の経費で、引渡後の買主負担部分(清算金)
・敷金承継の受領書
・売主の受取済の家賃で、引渡後の買主受取分(清算金)
・ローン事務手数料
・仲介手数料
・融資あっせん手数料


営業に関しない領収証には印紙が必要ありません。法人は営利目的で事業を行っているため必要になりますが、一方で、個人として不動産賃貸をしている場合はどうでしょうか。

個人の場合にも印紙は必要です。個人であっても、商人としての行為は営業に該当してきます。商行為である賃貸業を行っている個人は商人になります。自宅の売買等では必要ないため、その感覚でいると漏れてしまいます。

印紙税額を軽減する特例措置

住宅・土地取引等の活性化を図るとともに、景気対策にもつながることから、平成9年4月1日から不動産売買契約書や工事請負契約書については印紙税の軽減措置が適用されています。

平成26年4月1日から令和9年3月31日までのあいだに作成される不動産売買契約書については契約金額が10万円を超えるもの、工事請負契約書契約については契約金額が100万円を超えるものが対象となり、印紙税が軽減されています。

この印紙税の軽減措置は租税特別措置法、一時的な事態に対応するための有効期間を限定した法律であるいわゆる「時限立法」で定められています。しかし、これまで度々延長されてきています。直近ですと、令和6年の税制改正で令和6年4月1日から令和9年3月31日までのあいだが延長されていますので、今後も延長する可能性はあります。

不動産取引の契約書電子化、印紙税のコストカットへ

電子契約を導入している企業の割合は56.3%※となっており、2社のうち1社が利用していることになります。近ごろは、不動産取引の場でも電子契約を見かけるようになってきました。

電子契約のメリットとしては、印紙税がかからないこともありますが、そのほかにもメリットがあります。印刷、郵送、保管に係るコストの削減。さらに、過去の契約書をすぐに検索や閲覧することができるのです。また、リモート環境下で契約を行うことが可能であるため、契約当事者の時間を節約し、契約締結までのリードタイムを短くすることができます。

電子契約に印紙がいらない根拠は、印紙税法の運用ルールである「基本通達」に記載されています。印紙税法では「作成」した課税文書について印紙税の納税義務を負うと規定しています。その規定を受けて、基本通達では「作成」とは用紙等に記載することをいうとしています。電子契約は用紙等に記載しませんので、印紙は不要です。

そのほかにも、印紙税を節約するには、原本を複数作成せずに、コピーやPDFファイルで済ますという方法もあります。買主としては不動産売買契約書の原本が必要になるでしょうが、売主にとっては自分の手元から離れる不動産であり、印紙を貼った原本を作成しない人もいます。

コピーであっても契約の有効性に影響はありません。原本を改ざんしたあとのコピーではないかという問題が、現実問題として起こることはほとんどありませんが、訴訟等になった場合に信用力の点で劣る可能性がゼロではないということは、頭の片隅に入れておきましょう。

また、不動産売買や工事請負の契約締結時に、先ほどの契約金額と印紙税の表を覚えておくと、契約金額を決める際の参考になるでしょう。たとえば、契約金額が1億円を1円でも超えると6万円になりますが、1億円ですと半額の3万円になります。

なお、消費税の課税事業者は、契約金額に消費税が別で表示されていると、税抜金額で印紙税を判定することになります。

※令和5年9月27日デジタル庁の電子委任状法施行状況検討会(第2回)の参考資料1「電子契約の普及状況等について」
https://www.digital.go.jp/councils/digitalpoa-law

契約書の電子化による不動産投資家への影響

筆者自身、不動産投資を行っていますが、契約書が電子化されても、不動産投資家にはほとんど影響がないと感じています。電子契約を基準に不動産会社を選ぶかといったら、そんなことはありません。この不動産会社となら不動産売買や賃貸管理が上手くいくと思うから契約するわけで、電子契約は結果にすぎないのではないでしょうか。

筆者は不動産売買の契約を結ぶ前には、紙面契約であろうが、電子契約であろうが、契約書と重要事項説明書を事前に取り寄せて、入念に読み、不明点を不動産会社に聞くようにしています。不動産投資家にとって大切なことは、電子契約であったとしても安易に署名せず、契約内容をしっかりと読むことだといえます。

もちろん、印紙税を払わないに越したことはありませんが、不動産投資で生じる登記費用、融資手数料、仲介手数料、不動産取得税等に比べると、印紙税は決して高くありません。むしろ、不動産売買で契約内容を確認せず、不良物件を買ってしまうことの代償のほうがよっぽど高くつきます。

印紙税については廃止すべきといった意見もあります。諸外国では、廃止している国もある一方で、電子契約でも印紙税を負担させている国もあります。今後どうなるかわかりませんが、本記事が不動産投資家の皆様にとって印紙税をより深く知るきっかけになってもらえれば幸いです。

川口 誠氏(MK Real Estate 税理士事務所 税理士)

川口 誠氏(MK Real Estate 税理士事務所 税理士)

大学院での税務会計の実証研究を通して、理論的に税金をとらえる思考を身につける。


国税局では高度な調査力が必要とされる調査部において、10年以上にわたって上場企業等の税務調査に従事するなど、中小企業から大企業まで100以上の会社の税務調査を行う。


その中で、不動産投資家、資産管理会社の税金対策が上手くいっていない現状を目の当たりにする。どうしたら改善するのかといったノウハウを蓄積するにとどまらず、自らも資産形成としてワンルームやアパートを購入し、不動産投資による節税を実践している。


これまでの経験と知見を生かし、不動産投資家、資産管理会社等の税理士としても活動している。


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