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中古アパートを買ったが…消費税が「かかる」「かからない」のボーダーライン【税理士が解説】

不動産を購入する際の消費税の扱いは、不動産投資の収益に大きく影響します。本記事では、中古アパートを購入する際の消費税の基礎知識について、MK Real Estate 税理士事務所の、元国税調査官で自らも不動産投資を行っている川口誠税理士が解説します。

不動産取引で、消費税が「課税」となるケース

消費税が課税の対象となるには、以下の4つの要件を満たす必要があります。

① 国内において行うこと
② 事業者が事業として行うこと
③ 対価を得て行うこと
④ 資産の譲渡、資産の貸付け及び役務の提供

たとえば、海外にある不動産を売却したり、貸し付けたりしても、国内にある不動産ではないので、①の要件に該当しません。また、賃貸業を行う個人は事業者になりますが、消費者の立場で行う自宅の売買は、②の「事業として」行っていないことになります。不動産を無償で贈与すると贈与税の対象になりますが、③の反対給付を受けていないので、消費税の対象にはなりません。

この4要件を満たすと課税の「対象」になりますが、すぐに消費税が課税されるわけではありません。次で紹介しますが、非課税取引や輸出等の免税取引を除いたものに消費税が課税されます。輸出については、海外で商品等が消費されるため、消費税を免除しています。なお、この4要件を満たさない取引は「不課税取引」と呼ばれます。

[図表1]課税の対象
出所:筆者作成

消費税が「非課税」となるケース

課税の対象になったとしても、消費に負担を求める税の性格からなじまなかったり、社会政策的な配慮から課税することが適当でなかったりする場合には、非課税取引として消費税をかけないようにしています。非課税取引は消費税法に限定列挙されています。

不動産が絡む取引としては、土地の譲渡および貸付け、住宅の貸付けがあります。土地を譲渡したり、貸し付けたりしても、土地自体が消費するわけではないので、消費税をかけていません。また、生活に欠かせない住宅の貸付けに消費税をかけないようにして、家計への負担を避け、住民の生活を安定させることに配慮しています。住宅の供給を促進させるという政策的な意図もあると思われます。

消費税と土地建物の関係性

なぜ不動産投資家が土地と建物を区分する必要があるのか?

不動産投資では物件購入時に不動産本体の代金と初期費用を払う必要があります。消費税の課税、非課税等を整理すると以下のとおりになります。

[図表2]不動産投資における消費税の課税、非課税
出所:筆者作成

このなかでも当然ですが、土地や建物の購入代金の支払いが大きくなります。土地の売買は非課税取引であり、一方で建物の売買は課税取引となります。不動産を一括で譲渡、取得したときにどのように区分するかがたびたび問題になります。

ただ、不動産投資家が行う住宅の貸付けには消費税がかからず、通常、免税事業者になるため消費税の問題は生じません。インボイスの登録をして課税事業者を選択しても、物件購入時に支払った建物の購入代金等の消費税を差し引くことはできません。非課税取引である住宅の貸付けに対応する支払いだからです。

それでも、なぜ土地と建物を区分する必要があるのでしょうか。それは、買主である不動産投資家やその資産管理会社にとっては、建物の減価償却費として所得税や法人税の申告に影響してくるからです。

土地建物の区分がわからず、消費税額が不明瞭なときの対処法

なかには合計の金額しか把握しておらず、契約書に「消費税額」が記載されていないこともあります。そうした場合には、どのように対処すればよいのでしょうか?

法令等

消費税法には、合理的に区分されていない場合には、譲渡時の価額である時価により按分すると規定されています。そのうえで、国税庁のタックスアンサーでは以下の方法などにより合理的に区分するとしています。

1.譲渡時の時価の比率による按分

2.相続税評価額や固定資産税評価額を基にした按分

3.原価を基にした按分

さらには、国税庁の質疑応答事例には不動産鑑定評価が合理的であると認められるときは鑑定評価額により取り扱ってよいことが掲載されています。

これらより、消費税法では時価による按分を基本的な考え方として、そのなかで合理的に区分する方法として、固定資産税評価額等による按分や不動産鑑定評価が挙げられています。

消費税は、預かった消費税から支払った消費税を差し引き、納付するという仕組みになっていることを考えると、当事者間で合意した建物の金額に基づき申告すれば問題はないように感じます。しかし、非課税取引である土地の譲渡が一緒に生じることもあり、そう単純にはいきません。売買契約書に記載された建物と土地の金額に基づき消費税を計算する場合であっても、合理的に区分されている必要があります。

なお、譲渡所得の特別控除に関する措置法通達には、一括取得した場合の取得価額の区分については以下によると記載されています。

1. 契約において区分され、取得時の価額である時価としておおむね適正なものであるときは、契約により明らかにされている価額

2. 建設業者から取得した場合には、建設業者の帳簿書類に記載されている価額

3. 取得時の価額である時価の比率により按分して計算した価額

消費税法の通達には、所得税、法人税の特例計算における取扱いにより、区分しているときはその区分よると記載されており、特例計算により区分していないときまで、措置法通達は適用されないことになります。参考にする場合でも、時価としておおむね適正なものであるという前提条件が付いており、時価で按分するという基本的なスタンスに変わりはありません。

裁決・判例等

不動産の一括譲渡、取得に係る判例や裁決は多くあります。以下は、国税庁や国税不服審判所のホームページに掲載されている判例や裁決であり、誰でも見ることができます。

[図表3]不動産の一括譲渡、取得に係る判例や裁決
出所:筆者作成

各判例をいくつか見ていきましょう。

①契約書に記載された建物の金額で算定することが相当であるとされた事例
(国税不服審判所、H20.5.8裁決、裁決事例集No.75)

納税者が行った固定資産税評価に基づく法人税申告に対し、税務署が売買契約書金額を評価金額とすべきであると更正処分を行いました。その処分を納税者は不服とし、取り消しを求めた事案です。

このケースでは、売買契約書の建物の金額を不動産売買の仲介業者の査定額を参考にして決めており、ほかに同族会社等の特殊な利害関係、租税回避の意思や脱税目的が認められなかったため、税務署の更正処分が正当であると判断されています。

④不動産鑑定評価の比率による按分が合理的であるとされた事例
(東京地裁、R4.6.7判決)

商業地域にあるテナントビルの売却価額の按分方法について争われた消費税の事案です。
税務署が固定資産税評価額の比率により更正処分を行ったものの、納税者の申出により裁判所の選任した不動産鑑定士が収益還元法による鑑定評価を行いました。裁判所は当該評価の一部を補正したものの、資産の個別事情を考慮した適正な鑑定として不動産鑑定評価が合理的であるとし、納税者の主張を全面的に認める判断をしました。

⑤固定資産税評価額により按分すべきとされた事例
(国税不服審判所、R4.9.9裁決、裁決事例集No.128)

納税者が契約書に基づき按分して所得税申告を行いましたが、税務署は固定資産税評価額に基づき按分すべきとして更正処分を行いました。その処分を不服とし、取り消しを求めた事案です 。

契約書に記載された建物の金額が、その固定資産税評価額を大きく上回っているにもかかわらず、土地の金額はその固定資産税評価額と同様かまたは下回っていることから、客観的な価値として著しく不合理であり、税務署の更正処分が正当であると判断されています。

ここまで、 契約書、不動産鑑定評価、固定資産税評価が採用された事例を紹介しましたが、これまでの判例等を見ると、処分庁である税務署は固定資産税評価額に基づき按分しており、審判所もそれを支持している傾向がうかがえます。

不動産投資家は土地と建物をどのように区分すべきか?

不動産業者等の売主は、できる限り建物の金額を抑えて、消費税を軽減したいと考えます。一方で、買主である不動産投資家やその資産管理会社は、建物の金額を上げて、減価償却による費用計上の恩恵を受けたいというところで、そこに相反する利害が生じます。

宅地建物取引業法では売買契約書に消費税額を記載することになっていますが、記載していない契約書も少なくありません。そういった場合には、不動産投資家目線で考えると、基本的には固定資産税評価額に基づき按分するのがよいと考えます。

売買契約書に建物の金額や消費税額を掲載する際には、固定資産税評価額に基づき按分するように売主や不動産売買の仲介会社に伝えます。売買契約書に記載された建物の金額が、固定資産税評価額に基づき按分した建物の金額より低くなっているにもかかわらず、買主が高いほうの固定資産税評価額を根拠として申告をすると、訴訟等で問題となった場合には当事者間で合意された契約が尊重される可能性もあります。

一方で、中古の建物の固定資産税評価額については、リフォームや大規模修繕の実施による資産価値の増加が評価額に反映されないことがあったり、また新築時の建物の固定資産税評価額についても、一般的に建物再建築価額の50~70%程度で算定され、築浅物件では固定資産税評価額の建物の比率が低くなっていたりすることがあります。

こういったケースでは、不動産鑑定を行うことで建物の金額を上げることができるかもしれません。

ただし、建物の金額を上げるということは、将来売却する際に、減価償却後の建物の簿価が譲渡原価になるわけで、譲渡利益が計上される可能性を考慮しておかないといけません。不動産鑑定評価による節税効果とコストの比較になろうかと思いますが、個人的には、いずれ譲渡原価として費用計上されるのに、追加でコストをかけて鑑定評価を行う必要性は少ない気がします。

また、不動産鑑定評価を行った場合でも、税務調査等でその不動産鑑定評価が合理的でないと判断されれば、減価償却費を過大に計上しているとみなされる可能性もあります。

税法は複雑であり、状況によって異なります。個々のケースによっては当てはまるとは限りませんので、不動産取得時の税務に関する疑問は、税理士等専門家へ相談することをお勧めします。

川口 誠氏(MK Real Estate 税理士事務所 税理士)

川口 誠氏(MK Real Estate 税理士事務所 税理士)

大学院での税務会計の実証研究を通して、理論的に税金をとらえる思考を身につける。


国税局では高度な調査力が必要とされる調査部において、10年以上にわたって上場企業等の税務調査に従事するなど、中小企業から大企業まで100以上の会社の税務調査を行う。


その中で、不動産投資家、資産管理会社の税金対策が上手くいっていない現状を目の当たりにする。どうしたら改善するのかといったノウハウを蓄積するにとどまらず、自らも資産形成としてワンルームやアパートを購入し、不動産投資による節税を実践している。


これまでの経験と知見を生かし、不動産投資家、資産管理会社等の税理士としても活動している。


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