近隣トラブル勃発!…「引っ越し後」の騒音問題への超・実践的な対応とは?【弁護士が解説】
引っ越しシーズン直後は、新しい入居者による騒音問題が起こりやすい時期です。騒音トラブルが起きた場合、大家としてはどのような対応をすればよいのでしょうか。本記事では引っ越し後の騒音トラブルへの実践的な対応について、不動産と相続を専門に取り扱う、山村暢彦弁護士が解説します。
春の入居シーズン後、増える騒音トラブル
騒音トラブルは、度々ご相談いただく問題の一つです。賃貸人(大家さん)から「騒音の苦情がたくさん来ている。ほかの居住者が出ていくと嫌だから、問題の賃借人を追い出したいのですが、できますか?」といった相談や、賃借人同士のトラブルで「上の階の音がうるさくて、なんとかなりませんか? 慰謝料とれませんか?」といった相談など、さまざまな立場から寄せられている印象です。
奇声、音楽等の夜間の騒音や、日中の工事等の業務上の騒音、子育て上の子どもの泣き声、暴れる音など、原因も多種多様です。この騒音問題というのは、司法、法律による解決もなかなか難しく、相談を受けると筆者も頭を抱えながら回答しています。
騒音トラブルを法的な問題として解決するには?
教科書上の法的なアプローチを説明すること自体はそれほど難しくありません。
騒音問題については測定することが必要です。裁判所は証拠がない限り動いてくれません。記録化、証拠化することは必須でしょう。裁判例を見る限り、専門の騒音測定業者にて測定しているようなケースが多いですが、個人で利用できるものであっても、騒音がいつ、どこで、どのくらいの大きさで発生しているのかを把握し、それを定期的に記録しておくことが重要です。これは、賃借人(借家人)の居住権を強く保護されるため、記録がないとまったく話が進みません。
騒音トラブルを法的な問題として解決するには、受忍限度を超えた騒音である必要があります。受忍限度論とは裁判例の考え方です。騒音や日照権等の五感に関するようなものは、人それぞれ感じ方もさまざまなので、「社会通念上受忍限度を超えた」程度のもので、はじめて法律上の問題になるという考え方を指します。要は、「感じ方には個人差があるので、誰がみてもひどいものだけ法律問題として扱う」という意味です。
この「社会通念上、受忍限度を超えたかどうか」も裁判例によって幅がある概念なのですが、参考になるのは、その地域の条例です。条例で、住居地区なら何時~何時までは〇デシベル、商業地区なら何時~何時までは▲デシベルなど、その地域ごとに許容される音の基準を定めています。
受忍限度を超えたといえるためには、証拠上記録された形で、条例の定めた基準以上に、一定期間騒音が継続しているような状況が必須でしょう。
賃貸人にとって不利な騒音トラブル、ではどうするか?
さて、ここまでの文脈を読んでいただいた方には予想がつくかと思うのですが、騒音被害の訴えがあったとしても、証拠上、受忍限度を超えるような記録を残して相談にいらっしゃることは、ほとんどありません。そのため、騒音で困っている方がいらっしゃっても、「司法は証拠がないと動けません」と渋い顔をしながら、裁判例の相場観などをご説明して法律相談を終えるほかないのがほとんどのケースなのです。
冒頭に紹介したように、「ほかの居住者が迷惑しているから、騒音を出す迷惑居住者を立ち退かせたい!」というご相談も現にありましたが、弁護士としては「難しいです」という回答がほとんどです。賃借人の居住権の保護が強く、多少の迷惑行為では立退きは不可能であり、迷惑行為による立退きの基準は、「1~2年、警察沙汰になるほどのトラブルを起こして、それが記録として残っていること」です。さすがにこの基準をお話しすると、「そこまででは……」となることが多いです。
また、仮に騒音による慰謝料が認められたとしても、その損害額は非常に低い金額となる裁判例が多いです。きっちりと数字を統計にしたわけではないですが、騒音被害にて勝訴しているものであっても、30~50万円程度までの金額が多く、基本的に裁判までに発生した「弁護士費用+騒音測定費用+通院費用」のほうが認定金額よりも多額になっていることばかりです。
長々とお伝えしてきましたが、騒音問題に関して弁護士・裁判所による解決は効果的ではないことが多いです。「そのうえでどうするか?」ですが、まずは管理会社を通じて注意してもらう、というのが最初の第一歩です。うるさくて腹が立ったからといっても、自分で注意にいくのは、傷害・暴行トラブルなどに発展しかねないのでやめておいたほうがよいでしょう。あくまで業務として管理会社に業務として冷静に注意してもらうほうが望ましいです。
それでもどうしても管理会社がやる気ない、管理会社に注意されても聞かない、というのであれば、身近な弁護士により内容証明による注意勧告を検討するのも一つです。ただ、弁護士の内容証明を送っても、無視する人は無視します。こういう方法もあると提案しておきながら恐縮ですが、筆者の事務所では基本的に内容証明郵便のみの送付は勧めません。
最終的に、救われない回答になるかもしれませんが、騒音が気になると賃貸人の方からクレームがきたとしても、管理会社、弁護士からの注意までができることだと考えておきましょう。
騒音問題については、騒音を出す側が悪いこともあれば、騒音がうるさいとクレームを出す側が神経質なケースのどちらもあり得ます。騒音を出す側が悪いケースであれば、粘り強い対応が必要になりますが、紹介したように記録を残していく必要があります。逆に、騒音がうるさいとクレームを出す側が神経質なケースでは、ここまでしかできないと説明して、「悪いけれども納得できないなら、更新タイミングで引越しを検討してほしい」と、揉めないようになだめていくしかないでしょう。
騒音問題は弁護士や司法が関与しても解決できないケースも多く、大家さんとして「ここまでができることだ」と整理して心構えをもっておくのが大事なことだと思います。
関連記事
サイトについて
アパート経営オンラインは、堅実・健全な不動産賃貸経営業をナビゲートする情報メディアを目指し、既に不動産を経営されている方、初めて行う方に向けてお届けするサイトです。
様々なことに向き合い、改善するきっかけとなりますようアパート経営オンラインでは、成功事例や失敗事例を交え、正しい不動産の経営方法をお伝えいたします。