物件選びの際は要注意…「既存不適格物件」を購入した不動産投資家の末路【一級建築士が解説】
過去の法改正により、容積率や建ぺい率を超えて建築された物件が存在します。市場には、非常に魅力的な利回りで流通している物件を目にすることも。しかしこのような物件は、建て替えや増築が制限されたり融資が下りなかったりする可能性があり、投資リスクが高まります。本記事では、既存不適格物件を購入した不動産投資家の事例とともに、既存不適格物件の注意点について一級建築士の三澤智史氏が解説します。
「既存不適格物件」とは?
既存不適格物件とは、建築されたときは法律に適合していたものの、その後の法改正によって現在の法律に合わなくなった物件のことをいいます。
ここで勘違いしやすいのは、既存不適格物件は「違法建築物ではない」という点です。違法建築物とは、建築されたときの法律にすでに違反している建築物を指します。一方、既存不適格物件は建築当時の基準ではOKだったため、違法性があるとは判断されません。
しかし、既存不適格物件は「なんの問題もない」と解釈することは危険です。なぜなら既存不適格物件はいまの法令に適合していないため、さまざまなリスクが潜んでいるからです。
投資物件における既存不適格物件では、主に建築基準法と都市計画法に抵触しているケースが多いのが特徴です。建築基準法は建物の安全基準を定めた法律で、都市計画法は街全体の計画に関する法律です。これらの法律は、地震などの災害から人々を守るために設けられています。
具体的な既存不適格の例は以下のようなものです。

出所:筆者作成
時代の変化に伴いルールが変わるのは自然な流れです。しかし、古いルールに適合しているだけでは現代のリスクに十分対応できないため、既存不適格物件にはリスクが存在するといえるでしょう。
建ぺい率オーバーのアパートを購入した不動産投資家
Aさんは、かねてより不動産投資に興味があった50代のサラリーマンです。ある日、Aさんの住む町の郊外に、築30年の古いアパートが格安で売りに出ていることを知ります。
物件は立地がよく、家賃収入も安定していることから、将来的な資産形成を見据えこの物件を購入することに。幸い、手元資金は相続により現金が潤沢にあったため、購入金額の半分を現金、残り半分を融資で調達することで、無事購入することができました。
Aさんは、老朽化した設備の改修や内装のリノベーションを行い、入居率を維持することに成功しました。賃貸経営は順調そのもので、家賃収入も堅調に推移。
しかし、だんだんと建物の老朽化が目立つようになってきました。このままでは入居率が低下し、収益が減少する可能性があると考え、Aさんは建物の建て替えを検討するに至ります。
建築会社に建て替えの相談をしたところ、驚くべき事実が判明します。なんと、この建物は建ぺい率オーバーの状態とのこと。つまり、現在の建築基準法では、同じ規模の建物を建て替えることができないということが判明したのです。Aさんは、規模を縮小して再築するか、建物を売却して賃貸経営から撤退するか、いずれかの選択を迫られました。
結果、Aさんは建物をサイズダウンし、建て替えを決定します。しかし、当初の事業計画よりも部屋数が少なくなってしまったために、収益性が悪化。赤字不採算とまではいきませんでしたが、親から受け継いだ資産運用に失敗し、肩を落とす結果になりました。
既存不適格物件の注意点
既存不適格物件は、価格が割安なことが多く魅力的に思えますが、購入にあたっては慎重な検討が必要です。なぜなら、前述したように事業計画の見直しを迫られたり、余計な費用が発生したりすることがあるからです。
ここでは、既存不適格物件の注意点を3つ解説します。
・融資の可否を確認すること
・既存不適格の内容と対応策を把握すること
・出口戦略への影響を考慮すること
融資の可否を確認すること
既存不適格物件では、融資への影響があると考えるべきでしょう。もちろんすべての既存不適格内容が融資に悪影響をもたらすわけではありませんが、金融機関から融資を渋られる可能性は高いと考えるべきです。
賃貸経営において融資への影響は、資金計画への影響と同じようなものです。安価だからと自己資金を増やして購入すれば、その後の賃貸経営における事業計画などに悪影響をおよぼす可能性があります。
なお、融資条件は物件の状況のほか個人の属性なども重視されます。直近で借入をした直後の融資や、DSCRが規準以下(おおむね1.10倍を上回ることが望ましいとされています)のケースでは、融資を謝絶されるケースがあることも覚えておきましょう。
既存不適格の内容と対応策を把握すること
物件について、どのような内容がどの法令に適合しているか否か、仮に既存不適格だった場合、どうすれば是正が可能なのかを費用面含めて把握しておくことが重要です。賃貸経営は中長期にわたることがほとんどで、保有期間中に既存不適格に対する対応を迫られることになるからです。
なお、建築基準法によれば、不動産を用途変更したり大規模な改装したりするときには、既存不適格部分を適法に是正することが求められています※。
これらのことから、既存不適格がどのような内容なのか、そして不適格事由を解消するにはどの程度の費用がかかるのかを把握しておくことが重要です。
出口戦略への影響を考慮すること
既存不適格物件の賃貸経営では、通常の物件よりも出口戦略に気を遣う必要があります。なぜなら、既存不適格物件は相場より安い金額で取引されることが多いからです。既存不適格の部分を現行の基準に適合させれば、物件価格を相場まで引き上げることはできます。しかし、その分の修繕費用を考慮して出口戦略を考えることが必要です。
既存不適格物件を取得した場合、再販の難易度を通常の物件より高く見極める必要があります。
既存不適格物件を購入するリスクを理解する
今回は、不動産投資における既存不適格物件について解説しました。
既存不適格物件は、価格と利回り次第では投資対象として検討するという人もいるでしょう。しかし、建築基準法などの法規に適合しない部分があるため、再建築やリフォームの制限、売却価格の低下、融資の難易度が高いなど、さまざまな問題を抱えているため、慎重な判断が必要です。
不動産業者や建築士などの専門家に相談し、公的な資料はもちろんのこと、現地の現況を詳細に確認し、物件の現状を正確に把握することは、最低限の注意点といえるでしょう。
しかし、現状把握だけでは不十分です。将来的なリスク、たとえば法令改正による再建築の制約、改修費用の増大、融資の難しさ、売却時の価格低下などを想定し、既存不適格箇所の解消が困難な場合や、出口戦略が明確でない場合は、投資自体を見送るべきです。
既存不適格物件は、確かに初期投資額を抑えられる可能性があります。しかし、その後の維持管理コストや将来的なリスクを考慮すると、必ずしも有利な投資とはいえません。安易な判断は、賃貸経営に深刻な悪影響をもたらす可能性があります。
そのため、既存不適格物件への投資は、リスクを十分に理解し、専門家を交えた極めて慎重な判断が求められます。
多くの場合、既存不適格物件への投資は、リスクに見合うリターンを得ることが難しいといわざるを得ません。したがって、不動産投資においては、できる限り既存不適格物件を避け、現行の法令に適合した物件を選ぶことをお勧めします。
〈参考〉
※ 国土交通省 第11回地域活性化WG 資料1-1(その2) 既存不適格建築物について
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/wg3/chiiki/150130/item1-1-2.pdf
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