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中古アパート経営「終活」の法務…弁護士が教える、実践的なトラブル回避策と円満な出口戦略

中古アパート経営には、所有しているあいだだけでなく、手放す際にもさまざまな法的問題が潜んでいます。「年齢的に、そろそろ管理が難しくなってきた」「賃借人とトラブルを抱えており、このままでは家族に迷惑をかけるのでは?」――こうした悩みを抱えるオーナーに向けて、不動産と相続を専門に取り扱う山村暢彦弁護士が、中古アパート経営を円満に終えるための法的知識と具体的な注意点についてわかりやすく解説します。

なぜ「終わり」を考えるのか?中古アパート経営を終える理由

高齢化や健康不安で物件管理を負担に感じるようになった、という声は非常に多く聞かれます。築年数が経過するほど修繕の手間も増え、緊急対応や家賃滞納対応なども精神的・体力的に厳しくなるものです。

また、将来の相続を見据えて、早めに財産整理をしておきたいという方も増えています。「子どもに引き継がせるのが正解なのか」「いっそ現金化して相続財産をわけやすくしておいたほうがよいのではないか」といった悩みは、多くの方から共有されています。

さらには、空室リスクや人口減少の影響が大きい地方エリアの物件から、より需要の見込める都市部への買い替えを希望する声も。資産を流動化して事業資金や教育費、老後資金に活用したいという意向もよく見受けられます。

このように、出口を考える理由はさまざまですが、共通して大事なのは「なぜ“いま”その判断をするのか?」という自問です。焦りや感情ではなく、戦略的な判断が後悔を防ぎます。

選べる出口戦略と、それぞれの法的注意点

中古アパート経営を終える方法にはいくつかの選択肢があり、それぞれに法律・税務の論点が存在します。以下、それぞれの方法と注意点を簡潔に整理しておきます。

(1)売却

最も多く選ばれるのが「売却」です。

契約トラブルのリスク:売却時には契約不適合責任(旧・瑕疵担保責任)に注意が必要です。たとえば、買主に対して老朽化した配管や隠れた雨漏りを説明していなかった場合、契約後に損害賠償請求を受けることがあります。

仲介会社との関係:媒介契約の種類(専任・一般)や解約条件などを事前に確認しましょう。

税務リスク:譲渡所得税や住民税など、手取り金額を大きく左右するコストが発生します。長期譲渡か短期譲渡かでも税率が異なるため、税理士への相談をお勧めします。

(2)贈与

親族などにアパートを譲る場合は、贈与という手続きになります。

贈与契約の書面整備:口約束は法的トラブルのもとです。必ず書面に残しましょう。

税金負担:贈与税の基礎控除を超える場合には高額な贈与税が課され、不動産取得税や登録免許税も発生します。

登記:受贈者(もらう側)の意思確認が必要であり、登記義務も伴います。

(3)相続

将来的な相続を見据える場合は、遺産分割や登記義務化のルールに注意が必要です。

遺産分割協議:複数の相続人がいる場合、分割協議が整わない限り、物件の売却はできません。

相続登記の義務化(2024年4月施行):義務違反には過料も。早期の登記対応が求められます。

相続税の申告・納税:不動産の評価額や債務控除、特例の適用可否を含めた検討が重要です。

(4)法人譲渡・持株会社化

個人保有のアパートを法人へ譲渡する方法もあります。法人税・消費税の課税対象になる場合があり、専門家との綿密なシミュレーションが不可欠です。

メリット:所得分散や経費処理の柔軟性が求められます。

デメリット:設立・運営コストや出口での課税リスクが発生します。

出口戦略で最も多い売却時に注意すべき法的リスクと交渉ポイント

実務で最も多いのが「売却」にまつわるトラブルです。

(1)査定価格と実勢価格のギャップ

「買ったときはいくらだった」「知人はもっと高く売った」といった“過去”に引きずられてしまうと、いまの相場を見誤ります。複数の不動産会社に査定を依頼し、「いま、売れる価格」を冷静に把握することが重要です。

(2)買主との契約トラブル

古い物件では、配管や設備、雨漏りなど“見えないリスク”が多数あります。こうした点を隠したまま契約すれば、契約不適合責任を問われる可能性も。事前に弁護士と相談し、特約で明確にするなど防衛策が必要です。

「契約不適合責任免責特約」によって契約不適合責任から免れる措置が基本ですが、不具合について売主が「悪意=不適合を知っていた場合」だと免責特約の効果を覆されるため、「物件状況報告書」などの記載も入念にチェックする必要があります。

(3)入居者との調整

賃貸中の物件を売却する場合、入居者の退去や契約継続の判断が必要になります。無断で契約解除を進めるとトラブルになることもあり、明渡しには「正当事由」や立退料が絡むケースが一般的です。一番多いのが、売却とは異なりますが、建て替え時の入居者との権利関係の整理です。

出口戦略=人生戦略の再設計

出口戦略とは単なる「手放す」ではなく、次のステージをどう設計するかという視点でも考えるべきです。

たとえば、管理が大変な地方の築古アパートを売却し、都市部の区分マンションへ買い替えることで、収益の安定化と手間の軽減を両立できるケースもあります。また、得た資金を事業投資・教育資金・老後資金などに回すことで、より自分らしいライフプランを描くことも可能になります。

弁護士の立場から…筆者自身の売却体験で感じたこと

筆者自身も、かつて築古アパートを所有していました。当初は大家業の経験を積む目的で購入した物件でしたが、独立・結婚・子育てとライフステージが進むなかで「この物件を本当に10年後も持ち続けたいのか?」と疑問を感じ、売却を決断しました。

実際に売却を進めてみて感じたのは、「買うときよりも、売るときのほうがはるかに“準備”が大事」だということ。税務処理・契約の整備・賃借人との関係整理など、やるべきことが多く、弁護士としての知識と経験がなければトラブルになっていたかもしれません。

だからこそ、「感情で売る」のではなく、「戦略と準備」で売却を進めることの重要性を強調したいと思います。

中古アパート経営の出口戦略は、単なる資産の売却ではなく、相続・税務・契約といった複合的な法的リスクが絡む総合戦略です。 「そろそろ終わりを考えたい」「家族に迷惑をかけたくない」「できれば円満に整理したい」そうお考えの方こそ、不動産会社、金融機関、各種専門家など、その道のプロに相談しましょう。最後は「これで本当にいいのか?」とちゃんと自問しながら、感情ではなく戦略的に売却方針を固めることをお勧めします。

監修:山村 暢彦氏(山村法律事務所 代表弁護士)

監修:山村 暢彦氏(山村法律事務所 代表弁護士)

専門は不動産法務、相続分野。実家の不動産トラブルをきっかけに弁護士を志し、現在も不動産法務に注力する。日々業務に励む中で「法律トラブルは、悪くなっても気づかない」という想いが強くなり、昨今では、FMラジオ出演、セミナー講師等にも力を入れ、不動産トラブルを減らすため、情報発信も積極的に行っている。


クライアントからは「相談しやすい」「いい意味で、弁護士らしくない」とのコメントが多い。不動産・相続のトラブルについて、自分ごとのように解決策を提案できることが何よりの喜び。


さらに不動産・相続法務に特化した業務に注力するため、2020年4月1日、不動産・相続専門事務所として山村法律事務所を開設。


山村法律事務所ウェブサイト https://fudousan-lawyer.jp/


不動産大家トラブル解決ドットコム https://fudousan-ooya.com/


著者登壇セミナー https://kamehameha.jp/speakerslist?speakersid=1098


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