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70代のアパートオーナー、所有物件の「承継」はどうする?生前に準備すべき対策【税理士が解説】

アパート経営をしている人にとって、アパートをどう承継するかは非常に重要な問題です。生前の準備により、アパートを引き継ぐ子が負担する税金が大きく左右されるためです。本記事では、アパートの承継を検討する際に、所有物件の事情に合った適切な承継の準備方法について税理士の木戸真智子氏が解説します。

経営する5棟のアパートを子供に相続させたいAさん夫婦

東京都に住む70代のAさん夫婦は、親からの相続により引き継いだ土地を活用して、関東圏にアパート5棟の賃貸経営をしています。年齢も70代に差し掛かり、足腰の衰えを感じてきたことにより、万が一に備えて不動産をどのように子供達に引き継いでいくべきか、専門家に相談することにしました。Aさん夫婦の基本情報は以下のとおりです。

Aさん夫婦:東京都在住 70代
関東圏にアパートを5棟所有、自宅は東京都に一戸建て
長男:会社員 転勤により現在は大阪府に住んでいる
   専業主婦の妻と幼稚園生の息子1人
長女:教師 未婚 東京都在住

長男は大学卒業後、大手企業に就職して、転勤により現在は大阪に住んでいます。転勤が多い仕事のため、いずれ本社がある東京都に戻ってくる可能性もありますが、それはいつになるかはわかりません。長女は東京都内で教師をしており、1人暮らしをしています。いつか長女が結婚することも考えると、子供達2人にどのように不動産を引き継いでもらうべきか悩んでいます。

Aさんご夫婦が最も心配されているのは、万が一のことがあったときに、子供達が相続で大変な思いをすることがないかということです。

また賃貸経営は、ただそのまま放っておくだけで賃料収入が入ってくるというものではありません。管理には当然手間がかかるため、5棟ものアパートを子供達が経営していけるのかということも不安の1つです。自分達が元気なうちに、管理のことも教えながら引き継ぐことができれば……と考えています。

専門家から承継の基本が「相続もしくは生前贈与」であるとアドバイスを受けたAさんは、Aさんらにとって相続と贈与のどちらが有利なのか、検討することにしました。

「相続」と「生前贈与」どちらが有利?

相続と生前贈与、それぞれのメリットとデメリットについて考えてみます。

生前贈与は生きているうちに進めるため、贈与する相手やタイミングを自分自身で決めることができます。また、相続との大きな違いは、贈与を受ける本人の意思確認が直接できることです。

財産の特性から見た場合、生前贈与に向いているのは、将来的に価値が上がっていくと見込まれる不動産です。今回の事例の場合、関東圏に不動産があるということで、場所によっては将来的な価値の上昇も見込まれるケースに当てはまる可能性があります。また、早くに引き継ぐことで賃貸収入を子供達に移転できるというメリットもあります。

しかし、生前贈与はメリットばかりではありません。贈与税率は相続税率よりも高いため、相続で適用される小規模宅地等の特例が使えなくなる可能性があります。また、賃貸用不動産は賃料収入というキャッシュが毎年増えていくため、早期に対策しなければ相続財産が年々増え続けるというデメリットも存在します。

実際、ご夫婦の不動産所得の確定申告も毎年税負担が重く、それも悩みの1つでした。そこで、贈与税を抑えながら不動産を引き継いでいくことはできないかと考えました。少しずつ不動産を分割して引き継いでもらえたら、税負担が抑えられるためです。

しかし、ここにも大きな落とし穴があります。たしかに贈与税は毎年110万円までは非課税です。この非課税の枠に収まるように不動産を毎年引き継いだ場合には贈与税はかかりません。しかし、それによる不動産登記費用が毎年かかり、税金以外のコストが増えます。そして、なによりも引き継ぐまでに時間がかかるという点でおすすめできません。

では、相続で引き継いだ場合を考えてみます。相続については、小規模宅地の特例を利用することにより土地の評価額を最大50%~80%減額することができます。生前贈与とは反対で、不動産などであれば、評価が下がることが予測されているのであれば、早くに贈与するよりも相続の時点で引き継ぐという選択肢も考えられます。

デメリットとしては、遺産分割で揉める可能性が高いということです。現預金であれば平等に分割しやすいのですが、不動産は全員が納得する形で分割することができないケースが多くあります。また相続財産の割合で不動産が多い場合には納税資金が足りるのか事前に確認しておくことも重要です。

いざ、相続が発生した時に不動産を売却しないと相続税が払えないという状況になるとさらに遺産分割が難航してしまう可能性があります。

相続と生前贈与、これらにはどちらもメリット・デメリットがあります。一般に、今後評価が上がっていく見込みのA不動産は生前贈与して、評価が下がっていく見込みのB不動産は相続するというように、財産の特性に合わせて引き継ぎ方を選ぶことで、それぞれのメリットを上手に活かすことができるのです。

不動産管理事業を「法人化」するメリット

相続と生前贈与のメリットとデメリットを理解したAさん夫婦は、専門家から提案された「不動産管理事業の法人化」を検討することにしました。

株主の100%が子供というかたちが相続対策から考えると理想的ではあるのですが、仕事が忙しい子供達に不動産管理ができるのか、金融機関、管理会社、税理士とのやり取りができるのかという心配がありました。そのため、始めは親が51%、子供が49%の株式を保有することにしました。

まずは、法人を設立して、法人にご夫婦の不動産を移転します。土地は相続により取得したため、移転にかかる譲渡所得税の負担が大きいと考え、建物のみを移転させることにしました。これにより、移転にかかる譲渡所得税が軽減されるとともに、建物は会社の名義となったため、賃料収入は会社が受け取ることになります。ご夫婦個人の不動産収入も地代のみになり、毎年の確定申告による税負担も軽減されました。

会社が受け取った賃料収入は給料という形で子供達に支払うことができるようになり、不動産管理について、子供達と話し合う機会も増えました。不動産の管理やノウハウを子供達に引き継ぎながら、徐々に残りの51%の株式も子供達に生前贈与していこうと考えています。

会社形態にすることで、仮に長男が不動産を引き継ぐ予定であっても、不動産を引き継ぐ予定のない長女にも給料を支払うことができるというメリットもあります。また、不動産を分割して贈与する場合には登記費用がかかりますが、株式を少しずつ贈与しても登記費用はかかりません。

アパートの承継は早めからの準備が重要

相続か生前贈与かとても悩ましい問題ではありますが、不動産の所有の仕方を工夫することで解決できる可能性があります。税金と不動産の特性を見て、対策を進めていくことは非常に重要なポイントです。

なにより、早くから親子で話し合いを行えば、お互いの気持ちを確かめ合うことができ、心温まる承継となることでしょう。

木戸 真智子氏(税理士事務所エールパートナー 税理士)

木戸 真智子氏(税理士事務所エールパートナー 税理士)

2014年税理士登録、2015年4月、税理士事務所エールパートナーを開業。経営支援セミナーなどの講師として活躍するほか、行政書士、ファイナンシャルプランナーの資格も保有。特に、開業・独立に関わる税務相談を得意とし、開業準備や税務、会計や決算など、さまざまな分野で顧客を支え、経営者にエールを送る。


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