300万円も余分な税金を支払うケースも…アパートを「生前贈与」するときの注意点【税理士が解説】
アパ-トの相続対策として生前贈与をしたつもりでも、無計画に進めてしまうと想像以上の多額の税金がかかる可能性があるため注意が必要です。まずは相続と生前贈与について理解を深め、自分に合った対策を見つけることが重要です。そこで本記事では、不動産における生前贈与について、多賀谷会計事務所の宮路幸人税理士が税務上の観点からわかりやすく解説します。
「贈与」の2種類の方法
贈与の方法には大きくわけて「暦年贈与」と「相続時精算課税」という2種類の方法があります。
「暦年贈与」は毎年110万円までは贈与税がかからない方法です。超えた部分については累進課税となり、その税率は10%~55%となり贈与額が多いほど高くなります。
「相続時精算課税」は2,500万円までは贈与税がかからない方法です。しかし、それを超えると一律20%の贈与税がかかります。ただし、その名のとおり相続があった場合はその相続財産に加算され精算される制度です。「相続時精算課税」を選択した場合は贈与税の申告が必要となります。
生前贈与で税金を300万円多く払うはめになったワケ
生前贈与をすると節税効果があると聞いたことがある人も多いと思います。賃貸アパートを所有するAさんもそのひとりでした。
Aさんは、経営するアパートから長年家賃収入を得てきましたが、相続税対策として、賃貸物件を子供へ生前に贈与しておくと、それ以後の家賃収入は子供が得ることとなるため、今後生じる家賃収入分が相続税対策になると聞きました。
Aさんにはある程度預貯金もありましたので、家賃収入は子供に引き継いでも問題ないと、生前贈与を検討し始めます。いろいろと検討した結果、相続時精算課税を使えば2,500万円までの贈与は贈与税がかからないと聞き、子供に相談したうえで2,500万円の賃貸物件の贈与を行いました。暦年贈与であれば、2,500万円の贈与の場合は810万円ほどの贈与税を支払わなければいけません。しかし、相続時精算課税を利用すると、贈与税額が0円であるとのことで、後者を選択しました。
しかし、その贈与を行った翌年にAさんは亡くなってしまいました。
Aさんの子供が、いざ相続税の計算を行った際、相続時精算課税制度で贈与を行った場合は、「小規模宅地の特例」の制度が使えないことを知ります。小規模宅地の特例とは、本来、賃貸物件の土地の相続を受けたときは200m2まではその土地の評価額を1/2と減額して計算できるというものです。選んだ贈与の方法が相続時精算課税であったため、Aさんの子供はこの特例の恩恵を受けることができなくなってしまったのでした。
このため土地の評価が1,000万円ほど高く評価することとなり、相続税額で300万円多く払うハメになってしまったのです。
生前贈与の税務上の注意点
節税効果が高いといわれる生前贈与ですが、いくつか注意点があります。
①現金の手渡しではなく、銀行振込にする
手渡しであると証拠が残りませんが、口座振り込みであれば証拠が残ります。贈与は「贈与があったこと」の証明が必要です。
②預金通帳の管理は、受贈者が行う
贈与をする人が通帳と印鑑を管理していた場合、贈与と認められず、「名義預金」と判断されます。通帳と印鑑の管理は必ず「受贈者(贈与を受ける人)」がするようにしましょう。
③毎年、同じ額を同じ時期に贈与するのは避ける
たとえば毎年同じ額を同じ時期に100万円×10年贈与した場合、当初から1,000万円の贈与を単に10年にわけただけの定期贈与ではないかと判断される場合があります。こうした贈与のやり方は避けるべきでしょう。
④必ず贈与契約書を作成する
贈与は口頭でも成立しますが、贈与の証拠として贈与契約書を作成しておきましょう。現金の贈与の場合、印紙は不要ですが、不動産の贈与の場合には印紙が必要となります。
⑤贈与税は受贈者の合計額で判断される
暦年贈与の場合年間110万円まで贈与税はかかりませんが、これは受贈者の合計額で判断されます。もし、父と母から100万円ずつ贈与をうけた場合、合計200万円となり、基礎控除110万円を引いた90万円に10%をかけた9万円の贈与税がかかりますのでご注意ください。
不動産贈与の場合の注意点
今回Aさんは、今後の不動産収益の財産を相続税に加算されないようにするため、相続時精算課税制度を利用して不動産を贈与したのですが、いきなり相続が起こってしまったので、逆に相続税の納税額が多くなるという結果になってしまいました。
不動産など大きな金額のものを贈与する際、相続時精算課税は非常に有効な制度です。ほかにもメリットとしては、生前に贈与をすれば贈与者が確定するため、その財産についての相続争いを避けることができます。
その一方で、今回のように「小規模宅地の特例」が使えないなどのデメリットあります。また、相続時に加算するときの金額は、亡くなったときの価額ではなく、贈与したときの価額となります。そのため、贈与した不動産が値下がった場合はその分、損となります。不動産の登録免許は相続の時であれば固定資産税評価額の2.0%ですが、贈与の場合は0.4%となり、名義変更のコストが高くなることにも注意が必要です。
また、あまりあってほしくないですが、生前贈与を行ってしまうと、子供との関係が悪化するケースもないわけではありません。欲しい財産はもうもらったと考え、その後の親の面倒を看なくなるといったケースです。親の機嫌を損ねたらこの財産をもらえないと思わせたほうが、親の面倒を一生懸命看るかもしれません。そういった考えで生前贈与は行わないなども相続対策のひとつといえます。
焦って贈与せずに、あらゆるケースを想定した事前の検討を
生前贈与は相続税対策としてよく知られておりますが、やり方を間違えてしまうと思わぬ損をしてしまう場合もあります。
また、令和6年1月から贈与税について改正がありました。生前贈与の3年加算ルールが7年に延長されたこと、相続時精算課税制度にも110万円の非課税枠が新設されるなどといった内容となっています。こうした点にも注意が必要です。
実際に贈与を行うときは専門家に確認するなど、よく検討されてから、ご自身にあった贈与方法や金額を決められるのがよいでしょう。
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