台風で経営するアパートが被災…大家の法的責任と損害賠償リスクを回避する対策【弁護士が解説】

毎年のように日本列島を襲う大型台風や豪雨。アパート経営において、これらはもはや「想定外」では済まされない経営リスクです。もし、経営するアパートが台風で被災し、入居者から「雨漏りをすぐ直してほしい」「部屋が使えない分の家賃を下げてほしい」、さらには隣人から「屋根が飛んできて車が傷ついた」と損害賠償を求められたら……。大家として、その法的責任はどこまでおよぶのでしょうか? 本記事では、弁護士法人アクロピース代表弁護士の佐々木一夫弁護士が、台風被災時、大家が知っておくべき法的責任と、訴訟リスクを回避するための具体的な対策を解説していきます。
台風被災時、大家の「責任範囲」はどこまで?
アパート経営において、自然災害は避けて通れないリスクです。特に台風による被害が発生した場合、賃貸人である大家は、法律上、入居者や第三者に対して主に3つの責任を負う可能性があります。一つずつ確認していきましょう。
1.アパートの居室が壊れたときの賃貸人の修繕義務(民法606条)
■壊れた箇所を速やかに直す責任
賃貸人には、賃貸物を使用収益に適した状態に保つ義務(修繕義務)があります。台風によってアパートの居室の窓ガラスが割れた、雨漏りがする、といった場合、賃貸人は原則としてこれを修繕する責任を負います。入居者に責任がある場合を除き、自然災害が原因であってもこの義務を免れることはできません。修繕が遅れれば、後述する賃料減額の幅が大きくなるだけでなく、入居者との信頼関係にも影響を与えかねません。
2.アパートの居室が一部使用不能になったときの賃料減額(民法611条)
■使えなくなった部分に応じて家賃が自動的に減額される
2020年4月に施行された改正民法により、賃貸物の一部が滅失その他の事由により使用できなくなった場合、その使用できなくなった部分の割合に応じて、賃料は「請求を待たずに当然に減額される」と明確化されました。
たとえば、雨漏りによって一部屋が使えなくなった、ベランダが破損して出入りできない、といったケースが該当します。
この減額割合については、当事者間の協議で決めるのが基本ですが、その際に参考となるのが、日本賃貸住宅管理協会が公表している「貸室・設備の不具合による賃料減額ガイドライン」です。このガイドラインでは、「雨漏りによる利用制限」について5%~50%の減額割合の目安が示されており、客観的な基準として交渉の際に役立ちます。
3.アパートの屋根等が飛んで第三者に被害を与えた場合の土地工作物責任(民法717条)
■飛散物で隣人や通行人(第三者)に被害を与えた場合の賠償責任
台風の強風で屋根瓦や外壁の一部が飛散し、隣家や通行人に被害を与えてしまった場合、「土地工作物責任」を問われる可能性があります。
これは、建物の設置または保存に「瑕疵(かし)」、つまり通常備えているべき安全性が欠けていた場合に、建物の所有者が被害者に損害を賠償する責任です。土地工作物責任は所有者(賃貸人)にとって無過失責任とされているので、非常に重いものです。「通常想定される範囲の台風」に対して安全性を確保できていなかったと判断されれば、不可抗力とは認められず、損害賠償責任を負うことになります。
自然災害による賃貸人の責任
自然災害時における賃貸人の責任について、裁判所はどのように判断しているのでしょうか。特に判断がわかれやすい「土地工作物責任」に関する裁判例をみてみましょう。
超大型台風によって破損したガラスが隣の車を損傷させたケース(東京地裁平成25年5月24日判決)
台風によって建物のガラスが破損して落ち、隣地に駐車していた車両を損傷させた事案で、建物の所有者が損害賠償責任を負うかどうかが争われました。この台風は日本気象協会によると「超大型」とされる台風でした。
そこで所有者は「想定を超える規模の台風であり、不可抗力であった」と主張。しかし裁判所は、「日本では台風は大型を含めしばしば発生しており、過去の気象データからみて、同程度の規模の台風が襲来することは想定外、もしくは不可抗力とはいえない」と判断。結論として、建物のガラスが通常備えるべき安全性を確保していなかったとして「保存の瑕疵」を認定し、所有者の不可抗力の主張を退け、損害賠償責任を認めました。
この裁判例が示すように、単に「自然災害だから」という理由だけで責任を免れることは困難です。その地域で過去に発生した台風の規模などを考慮し、それに耐えうるだけのメンテナンスがなされていたか、という点が厳しく問われます。堅実なアパート経営を行ううえでは、このような司法的判断の傾向を理解しておくことが極めて重要です。
訴訟リスクを回避する事前準備と緊急対応
高額な損害賠償や訴訟といった事態に発展することを避けるためには、平時からの備えがなによりも重要です。下記のような観点から、対策を怠らないようにしてください。
日常的なメンテナンスと定期的な大規模修繕の実施
最も重要なのは、建物の維持管理です。屋根や外壁にひび割れや劣化がないか、定期的な点検を行いましょう。特に、築古物件に投資される場合は、購入前に修繕履歴を確認し、購入後速やかに必要な修繕計画を立てることが肝要です。防水工事や外壁塗装などを計画的に実施し、建物の安全性を常に高いレベルで維持することが、最大の訴訟リスク対策となります。
適切な損害保険への加入
火災保険に、風災・水災などをカバーする特約を付帯させることは必須です。万が一の被災時の修繕費用をカバーできるだけでなく、被害者への賠償責任をカバーする「施設賠償責任保険」なども検討すべきでしょう。特に人にけがをさせてしまった場合には、高額な賠償になることがありますから、最適な保険に加入しておくほうが安心です。
入居者との良好な関係構築と緊急時の連絡体制の整備
平時から入居者とのコミュニケーションを密にし、信頼関係を築いておくことも重要です。また、台風の接近が予測される際には、事前に注意喚起を行いましょう(ベランダの物を片付けてもらう等)。さらに、被災した場合の連絡先や対応フローを明確にしておくことで、混乱を防ぎ、迅速な対応を可能にします。
堅実なアパート経営は、積極的な投資判断だけでなく、こうした地道なリスク管理によって支えられています。法的な責任範囲を正しく理解し、備えを万全にすることで、大切な資産と入居者の安全を守り、長期にわたる安定した経営を実現してください。
関連記事
サイトについて
アパート経営オンラインは、堅実・健全な不動産賃貸経営業をナビゲートする情報メディアを目指し、既に不動産を経営されている方、初めて行う方に向けてお届けするサイトです。
様々なことに向き合い、改善するきっかけとなりますようアパート経営オンラインでは、成功事例や失敗事例を交え、正しい不動産の経営方法をお伝えいたします。


