追加費用・工期遅延・欠陥工事…「大規模修繕トラブル」で泣き寝入りしない、弁護士直伝「工事請負契約書」作成&活用術

工事費が高騰するなか、コストを抑えようと業者選定を誤ったり、契約内容を精査しないまま発注してしまったりするケースは後を絶ちません。1,000万円を超える大規模修繕が、杜撰な契約一つで「資産価値を高める投資」から「キャッシュフローを破壊する負債」に変わりうるリスクを、山村暢彦弁護士が法的に解説します。また、こうしたリスクに対する具体的な回避策をみていきましょう。
目次
なぜ、大規模修繕でトラブルが多発するのか
マンションや賃貸物件の大規模修繕は、建物の資産価値を維持・向上させるために欠かせない一大プロジェクトでしょう。しかし、実際の現場では「追加費用を請求された」「工期がずれ込んだ」「完了後に欠陥が見つかった」といったトラブルが後を絶たないのが現状です。その背景には、発注者側が工事契約を“形式的”にしかみていないという、構造的な問題があります。
多くのオーナーや理事会は、見積書の金額と工期だけを重視し、「細かな契約条項は業者任せ」でサインしてしまう傾向にあります。しかし、工事請負契約書は単なる書面ではなく、工事リスクをコントロールするための“盾と剣”といえる存在です。工事内容の変更手続き、追加費用の算定方法、工期延長の要件、瑕疵対応の範囲など、これらを曖昧にしたまま契約すれば、あとになって「言った・言わない」の争いに発展しかねません。
さらに近年は、資材価格や人件費の高騰によって、業者側が途中で採算割れに陥るケースも増えています。その結果、仕様を勝手に簡略化したり、下請け任せで品質が低下したりする事例もみられています。こうしたなかで、発注者がリスクを最小化するためには、契約段階でいかに実務と法務を両立した内容を盛り込むかが決定的に重要です。
大規模修繕の失敗は、単なる工事トラブルにとどまらず、賃貸収益や資産価値、入居者満足度にまで影響をおよぼします。つまり、契約書を軽視した瞬間から、リスクは静かに進行しているのです。
よくあるトラブル…「工事遅延」と「追加工事代金」
実務上、大規模修繕やリフォーム工事で最も多い相談の一つが「工期遅延」に関するトラブルです。たとえば、外壁修繕を依頼したところ、資材の納品遅れや職人の確保難などを理由に工期が数ヵ月延び、入居者対応や賃貸募集にも影響が出たというケースがあります。施主としては「約束した期日を守っていないのだから損害賠償を請求したい」と考えがちですが、現実にはそう単純ではありません。
判例でも、天候不順や発注者の指示変更、建物の想定外の損傷など、施工業者以外の要因による遅延の場合、業者の責任を否定する傾向にあります。つまり、工期遅延の責任が誰にあるのかが非常に曖昧になりやすいのです。
契約書で「不可抗力」や「発注者起因の変更」に関する条項を明確にしておくことは重要ですが、すべてをカバーすることは困難でしょう。したがって、施主側も定期的に現場を確認し、進捗が滞っている場合には早い段階から協議・記録を残すなど、“事後ではなく事前に”動くことがトラブル防止の鍵となります。
もう一つ多いのが「追加工事代金」をめぐる紛争です。配管や下地などのみえない部分に不具合がみつかり、業者から「想定外の追加工事が必要です」といわれ、最終的に数百万円単位の請求を受ける――このような事例は珍しくありません。契約書に「追加工事が発生した場合は別途協議のうえ請求できる」といった曖昧な条文しかない場合、どの範囲まで追加費用を認めるのか、発注者と業者の主張が食い違い、感情的な対立に発展することも多いのです。
この点、2025年の建設業法改正により、業者側に「追加工事代金の適正な調整を行う努力義務」が明文化されました。もっとも、これはあくまで“業者の努力義務”であり、発注者を自動的に守るものではありません。実務上は、追加費用が発生する条件・上限・算定方法を契約書で具体的に定めることが不可欠です。たとえば「設計変更や材料変更を要する場合は、発注者の書面承認を要する」「承認なき追加工事は無効」といった形で明確にしておくことで、後の請求トラブルを防げます。
結局のところ、工期遅延も追加費用も、「契約書でどこまで先回りできるか」に尽きるといえるでしょう。紛争の多くは、契約書の曖昧さが引き金となっているのです。
トラブルを減らす実務的な「工事請負契約書」5つの必須項目
大規模修繕のトラブルの多くは、「契約書に書いていなかった」「解釈が曖昧だった」という単純な理由で発生します。工事請負契約書を単なる形式的な書面と捉えるのではなく、リスクを管理する“実務ツール”として設計することが重要です。
最低限、以下の5項目は必須といえるでしょう。
- 工事内容の明確化:図面・仕様書と照らし合わせ、どの範囲を工事対象とするのかを具体的に定義しておく必要があります。
- 追加工事・変更工事の手続き:どのような場合に、誰の承認を経て追加費用が発生するのかを明示し、原則、書面承認とすべきです。
- 工期と遅延時の取扱い:天候不順や不可抗力の場合の取り扱い、遅延による違約金・損害賠償の範囲を明記しておくことで、「どこまでが業者責任か」が明確になります。
- 瑕疵担保・保証期間:どの不具合が対象になるのか、無償対応の範囲を定めます。
- 支払い条件:着手金・中間金・最終金の支払時期と条件をわけ、未完成・欠陥がある状態での支払いを避ける条項を入れておくべきです。
これらの項目を整備することで、業者との関係を「信頼」ではなく「ルール」で守る契約へと変えることができます。
もしトラブルが起きてしまったら?弁護士が教える初動と解決策
ここまで、契約書の重要性について解説してきましたが、実際には契約段階であらゆるトラブルを想定し、完璧な条項を盛り込むことは現実的に難しいものです。したがって、最も大切なのは、トラブルが発生した際の「初動対応の速さ」といえるでしょう。
「少しおかしいな」と感じた時点で、早めに専門家へ相談することで、被害の拡大を防げるケースは少なくありません。弁護士への相談費用は、一般的に1時間あたり1~3万円前後と安いものではないかもしれません。しかし、建築・リフォーム工事のトラブルは、最終的に数百万円から数千万円の損害に発展することも多く、初期対応を誤ると損失が一気に膨らむリスクがあります。
トラブルが起こりそうな段階で、①どのような解決策が考えられるのか、②どんな交渉方針を取るべきか、③現実的にどのあたりで折り合いをつけるべきか、といった点を整理することが重要です。建築・不動産実務に精通した弁護士であれば、法律論だけでなく、実際の現場感覚を踏まえた対応策を提案できます。
「業者もプロだから、きっとなんとかしてくれるだろう」と楽観視してしまうと、あとから入居者や管理会社との関係悪化につながることもあります。トラブルは“起きてから”ではなく、“起きそうなときに”動くことが最大の予防策です。早期相談と冷静な初動対応こそが、被害を最小限に抑える鍵となります。
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