住民税通知書が届く6月に見直す「所得分散」の成否…税理士が教える、中古アパート経営を活かした「高所得層の節税再設計」

6月は前年の所得確定に基づき、住民税の納税通知書が届く時期です。その納税額をみて、改めて「所得圧縮」の必要性を痛感するオーナーも多いでしょう。特に大規模な中古アパートを経営している場合、家族への給与支払いや法人化による所得分散の効果は絶大です。本記事では、税理士の木戸真智子氏が2026年度の最新税制を踏まえ、現状の経営体制が本当に最適なのか、税務の視点から再点検のポイントを解説します。
目次
高所得サラリーマンを襲う「税負担」…住民税決定通知書から読み解く現状の課題
確定申告という一大イベントから解放されて数ヵ月。6月になると、もう一つの大きな山場、「住民税の決定通知書」が手元に届きます。確定申告の段階である程度の納税額は予測できていたとしても、実際に通知書に記載された金額を目にすると、その重みを改めて実感するオーナーは少なくありません。
特に、前年に不動産の売却などがあった場合には、多額の住民税が課税されることもあり、この時期の資金繰りには注意が必要です。押し寄せる税負担を前に、「現在のままでいいのだろうか」と頭を悩ませる人も多いでしょう。
また、会社員を続けながら副業として不動産投資を行っている人にとって、住民税の「払い方」は重要な意味を持ちます。
職場で「不動産収入があることをあまりいいたくない」といった事情がある場合、確定申告の際、住民税の徴収方法として「自分で納付(普通徴収)」を選択しておくことで、会社員としての住民税は給与から天引き(特別徴収)、不動産所得などに係る住民税だけを自宅へ郵送させて個別に納付することが可能となります。
いずれにせよ、手元に届いた通知書の所得欄を確認するいまの時期こそ、来期に向けてどのような経営体制が最もメリットをもたらすのかをじっくりと検討する絶好のタイミングといえます。
ここでカギとなるのが「所得の分散」というアプローチです。すべての原資が本人の収入に集中してしまうと、日本の税制上、累進課税によって税率が跳ね上がってしまいます。税負担を効率的に軽減するためには、「専従者給与の活用」や「資産管理法人の設立」を視野に入れる必要があります。
「家族専従者給与」の適正額とは?実態のない節税とみなされないための実務上の注意点
個人事業主として不動産投資を行う場合、家族に経営を手伝ってもらう対価として「専従者給与」を支払い、経費化することで所得を分散させることができます。しかし、これには厳格な手続きと満たすべき要件が存在します。
青色専従者給与として家族に給与を支払うためには、まずオーナー自身が青色申告であること、そして事前に「青色専従者給与に関する届出書」を提出して、家族に給与を支払うことを税務署に知らせなければなりません。
さらに不動産所得の場合、その規模が「事業的規模」に達している必要があります。具体的には「5棟または10室以上(いわゆる5棟10室基準)」をクリアしていることが大前提です。この規模に満たない場合は、いくら家族が手伝っていても原則として給与を経費に算入することはできません。
税務調査で指摘されないための「実態」の担保
ここで気をつけたいのは、「実態が伴っているかどうか」という点です。家族に対する給与であるため、第三者へ支払うよりも甘く考えてしまうこともあるかもしれません。しかし、税務調査で指摘を受けるリスクを考えると、油断は禁物です。
- ◎家族が担当している業務内容・量に対して、給与額は世間の相場とズレていないか
- ◎業務を任せる家族が本業や学業が忙しく、物理的にアパート経営の手伝いなどできない環境ではないか
これらを第三者目線で厳しくチェックし、妥当な金額を設定しなければなりません。家族だからこそ、ビジネスはビジネスと割り切り、具体的な業務内容について明確な取り決めをしておくことが求められます。
「個人事業主としての継続」or「資産管理法人への移行」…判断基準は?
所得分散のもう一つのアプローチは「法人化」です。一般的に、個人の課税所得が900万円を超えるあたりが法人設立の目安とされていますが、それ以下であっても将来のビジョンによっては十分に検討に値します。
今後も不動産所得が拡大していく見込みであれば、早い段階で法人を立ち上げておくほうが結果的に有利となるケースも多いからです。
一口に不動産投資の法人化といっても、実務上は以下の3つのタイプに分類されます。
- ① 不動産所有方式
- ② 管理委託方式
- ③ サブリース方式
方式によって、効果は違ってきます。
①不動産所有方式
これらのなかで最も個人の所得圧縮の効果が大きくなるのが不動産所有方式です。
不動産所有方式では、法人が直接不動産を所有します。個人から法人が不動産を買い取る形をとるため、それ以降の不動産収入はすべて法人のものとなり、個人の不動産収入はなくなります。つまり、個人の税負担が劇的に軽減されるのです。
しかし、法人が買い取るということは、個人からみれば「売却」をすることになります。そのため、不動産の譲渡所得が発生する場合には、そのタイミングで個人に譲渡所得税が課税されてしまいます。
このとき、「建物だけを法人に売却する(買い取る)」という手法を選べば、土地の移転コストがかからないため多少は税負担が軽減されます。しかし、それが本当に有利にはたらくかどうかは不動産の状況によって変わることをご存じでしょうか。
たとえば、建物の減価償却がすべて終わっており、帳簿上の価値(未償却残高)がほとんど残っていないケース。この場合には、売却時に個人の「不動産譲渡所得」が発生して税金がかかるため、事前の確認が欠かせません。
また、当然ながら相場に見合った適正な「時価」で取引する必要があるほか、所有の移転に伴う名義変更には登記費用や不動産取得税などの諸費用も発生することにも注意しましょう。
長期的な不動産所得の拡大を見込んでいるなら、二度手間や移転税を避けるためにも、最初から法人名義で物件を購入していくほうがスムーズでしょう。
なお、個人名義の物件を法人名義へ移す場合、その不動産に金融機関からの借入(ローン)が残っていれば、事前に必ず銀行への相談が必要です。金融機関が名義変更を承諾してくれないケースもあり、その場合はこの「不動産所有方式」を選択することは不可能となります。
②管理委託方式 / ③サブリース方式
金融機関の承諾が得られない場合や、名義変更などの手間や手続きのコストを抑えたい場合に選択されるのが、「管理委託方式」もしくは「サブリース方式」です。物件の名義は個人所有のまま据え置き、設立した法人が個人で所有している不動産の管理会社を担うという形になります。
法人が管理料を受け取ることで、個人の所得を法人へ移転させますが、不動産所有方式に比べると、個人の税負担が劇的に減ったとは実感しにくいかもしれません。
ここでの実務上のポイントになるのが、「管理料をいくらにするべきか」という点です。空室リスクを法人が背負うサブリース方式の方が、管理委託方式よりも法人への手数料を多めに設定できますが、税務上、世間の相場から逸脱した不相当な割合にならないよう厳格なコントロールが必要になります。
このように、法人を設立することで個人の負担を軽減することが可能です。ただ、この場合も、その不動産に金融機関からの借入(ローン)が残っていれば、事前に銀行に相談した方がよいでしょう。金融機関によっては、物件の管理契約について業者指定などの要件がある場合もあります。金融機関とのコミュニケーションをしっかり行い、賃貸経営に支障のないよう、十分に確認が必要です。
「個人専従者給与」と「法人給与」の決定的な違い
法人を設立して家族へ給与を支払う場合、個人の専従者給与と比較して「自由度」が増します。
個人の専従者給与は税務署への事前届出が必須であり、かつ原則として「ほかで働くこと」が認められません。しかし法人の場合は、事前の届出は不要であり、家族が他社で会社員として働いていたり、学生であったりしても、実際に法人の業務を行っている実態さえあれば、問題なく給与を支払うことが可能です。
「年収の壁」引き上げ後はどうなる?手残りを最大化する賃貸経営の形
税制改正により、これまで長らく「103万円の壁」とされてきた所得税の非課税枠が、「178万円」へと大幅に引き上げられました。これにより、年収を気にして控えめに働いていた人も、より多く働きやすくなりました。家族がアパート経営を手伝う場合にも、給与を受け取る家族側が、年収の枠を懸念して仕事をセーブする必要はなくなったといえるでしょう。
ただし、これはあくまで「所得税単独」で捉えた場合の話です。給与収入を得る以上、所得税だけでなく「住民税」の存在を忘れてはなりません。住民税における非課税枠(年収の壁)は110万円にとどまっているため、仮に178万円ギリギリまで給与を支払った場合、所得税はゼロでも住民税の納税義務は発生します。
そして、それ以上に手取り額を左右するのが「社会保険の壁」です。給与明細で額面金額と手取りを比較した際、差し引かれている割合が多く感じるのは税金よりも社会保険料ではないでしょうか。
社会保険料の扶養における年収の壁は「130万円」です。現在、一部で適用されている106万円の壁(自分で保険に加入するライン)もありますが、こちらについては2026年10月に撤廃される予定です。今後は金額に関係なく、週20時間以上働く場合は原則として社会保険の加入対象となるため、これまで以上に注意が必要です。
そのため、もし家族への給与を年収160万円に設定した場合、
- ●所得税:かからない
- ●住民税:かかる
- ●社会保険:加入対象
となります。
所得税だけで考えると社会保険料の加入対象になって、結果として賃貸経営を手伝う家族の手残りが予想外に減少してしまうということにもなりかねません。給与を受け取る側の最終的な手取り額がどうなるかをシミュレーションしておくことが重要です。
一方で、社会保険の扶養基準である「年収130万円の判定」については、運用の適正化が進んでいます。これまでは過去の実績や実態をベースに判断されていましたが、これからは労働条件通知書や雇用契約書上の契約条件が年収130万円以下であるかどうかで判断されるようになりました。
これにより、突発的な残業や繁忙期のシフト増によって実際の年収が一時的に130万円を超えてしまったとしても、契約書上の条件がクリアされていれば、ただちに社会保険の加入を強制されない仕組みとなっています。
従来の「実態」によって判断されていたころは、年末にかけて今年度の累積年収を計算し、130万円を超えそうになると仕事をセーブするためにシフトを控えたり、お休みをとったりする調整が必要でした。
しかし新たなルールでは、契約書上の条件で年間収入が判定されることとなったため、突発的な残業や繁忙期のシフト増によって実際の収入が一時的に130万円を超えてしまっても、契約書の内容が基準内であれば、社会保険は加入不要のまま扶養に留まることができます。
この変更により、急な残業やシフトの依頼にも応じやすくなり、「働きたいけれど、壁が怖くて働けない」という家族のジレンマは多少解消されることとなりました。
価値観や税制が激しく変化する現代において、不動産投資の税務対策は単なる「税金の圧縮」にとどまりません。家族の働き方や社会保険の動向までを一気通貫で見据え、世帯全体としての「キャッシュの最大化」を設計することこそが、成功へと繋がるアパート経営の形といえるでしょう。
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