出口戦略で差がつく!1億円アパート売却時の「譲渡所得税」を最小化する税務テクニック【税理士が解説】

アパート経営において管理すべき税金は、日々の家賃収入を申告する「不動産所得」に対する税金だけではありません。物件を売却して利益を確定させる「出口戦略」の段階では、不動産所得とは計算方法が異なる「譲渡所得」に対する税金への対策が不可欠となります。本記事ではこの「譲渡所得」に焦点を絞り、アパート売却タイミングの見極め方や所有期間による税率の違い、経費として認められる費用、売却損が出た場合の損益通算などを、元国税調査官で自らも不動産投資を行っている川口誠税理士が解説します。
「譲渡所得税」の計算方法と税率の仕組み
アパートなどの不動産を売却して得た利益は「譲渡所得」とされ、給与所得などほかの所得とは分離して課税されます。この譲渡所得にかかる税金が、不動産の「譲渡所得税」です。
譲渡所得の計算式
譲渡所得は、下記の計算式で求められます。
譲渡所得=収入金額-(取得費+譲渡費用)

出所:筆者作成
譲渡所得税の税率と所有期間
譲渡所得税の税率は、アパートを売却した年の1月1日時点における所有期間によって大きく異なります。これは税負担を軽減するうえで最も重要な要素の一つです。

出所:筆者作成
図表2のとおり、長期譲渡所得の税率は短期の約半分です。もし売却検討中のアパートの所有期間が5年にわずかに満たない場合は、売却を翌年1月1日以降に遅らせるだけで、税率が大幅に下がり、手取り額が大きく向上する可能性があります。
譲渡所得税を圧縮する「税務テクニック」
譲渡所得税を最小化するための基本的な戦略は、「適用税率を下げる(所有期間を調整する)」もしくは、「譲渡所得金額を減らす」かの2点です。
①売却タイミングの厳選による税率の最適化
前述のとおり、所有期間が5年超となる翌年1月1日以降に売却を実行することが、長期譲渡所得の低い税率(20.315%)を適用するための条件です。税法上、契約日ではなく、引渡し日(決済日)が売却年を決定します。
②取得費・譲渡費用の漏れを防ぐ
譲渡所得の計算式からわかるように、収入金額から差し引く取得費と譲渡費用が多ければ多いほど、課税される譲渡所得は少なくなります。
まずは取得費を正確に把握します。売買契約書や領収書など、購入時の資料をすべて探し出しましょう。購入価格だけでなく、仲介手数料、登録免許税、不動産取得税、造成費用、改良のためのリフォーム費用(資本的支出)など(※)も取得費に含めることができます。
※上記費用のうち、すでに不動産所得などの申告の際に必要経費に算入したものは、取得費には含めることができません。
資料を紛失して取得費が不明な場合には、譲渡価額の5%を概算取得費とすることができますが、これは実際の取得費よりも低くなることが多く、税額が増大する原因となります。資料の確認が最優先です。
そして、譲渡費用を漏れなく計上します。売却時の仲介手数料、印紙税、測量費、建物の解体費用(更地で売却する場合)、売却のために要した広告宣伝費、立退料、弁護士費用(譲渡代金の取立費用、訴訟費用などは除く)なども譲渡費用に含めます。
③「特定事業用資産の買換え特例」の活用
アパートなどの事業用不動産を売却し、一定の期間内に別の事業用不動産に買い換える場合、「特定事業用資産の買換え特例」が適用できる可能性があります。これは、譲渡益に対する課税を、買い換えた新しい資産に繰り延べる(先送りする)ことができる制度です。課税を完全に免れるわけではありませんが、当面の税負担を大幅に軽減し、手元資金を次の投資に回すことができます。
ただし、特例を受けるには、譲渡資産と買換資産が所在する地域や資産の種類など、細かな要件を満たす必要があります。都市部のアパートは対象外になりやすく、適用要件をしっかりと確認しましょう。
④譲渡損失が出た場合の損益通算
アパートなどの不動産を売却して損失(譲渡損失)が出た場合、この損失は、原則として給与所得や事業所得など、ほかの種類の所得と損益通算することはできません。しかし、同じ年内にほかの不動産の売却で譲渡益が出ている場合は、その譲渡益とアパートの譲渡損失を内部通算(相殺)することができます。
⑤法人所有のメリットと売却方法
アパートを法人(資産管理会社など)で所有していた場合、不動産の売却は法人が行います。法人では、売却益は法人のほかの利益と合算され、法人税が課されます。実効税率は、個人の長期譲渡所得税率(20.315%)よりも高くなる傾向にありますが、法人には繰越欠損金と相殺できるといったメリットがあります。
また、不動産そのものではなく「法人株式」を親族に譲渡するという手法もあります。この場合の課税対象は株式譲渡益となり、税率は一律20.315%です。法人保有の含み益に対して低い税率を適用できる、有力な出口戦略の一つです。一方で、時価より著しく低い価格で譲渡すると、差額が贈与とみなされる可能性があるため、価格算定には注意してください。
より高く、より安全に売るための買い手・仲介会社との付き合い方
ここまで税務テクニックを駆使して譲渡所得税を抑える方法を解説しましたが、出口戦略において忘れてはならない視点があります。それは、いくら税金を抑えても、売却価格が低ければ本末転倒ということ。適正な価格で、かつトラブルなく売却を成功させるためには、買い手と仲介会社との良好な関係構築と戦略的な行動が欠かせません。
1.仲介会社選びと「媒介契約」の選択
アパート売却の成功は、適切な仲介会社選びにかかっています。高い査定額を提示した会社に依頼することも大切ですが、近隣の成約事例や収益還元法による計算など、査定価格の根拠を明確に説明できる会社を選びましょう。不動産仲介会社には、居住用物件の売買に強い会社、事業用・収益物件に特化した会社など、それぞれ得意分野があります。アパート売却の場合は、収益物件の取り扱いに長けた会社を選ぶべきです。
また、媒介契約の選択も大切になってきます。アパート売却の成否は、結ぶ媒介契約の種類によっても左右されます。
- 専任媒介契約・専属専任媒介契約:一社に任せる代わりに、その会社がより積極的に販促活動を行い、売主への定期的な報告義務も課されるため、売却活動の進捗を把握しやすいのがメリット。担当者が一社に集中することで責任感が明確になり、よりよい条件での売却に繋がる可能性が高まります。
- 一般媒介契約:複数の仲介会社と同時に契約できるため、多くのネットワークを通じて買い手を探すことができ、早期の買主発見や、各社の競争による好条件の引き出しが期待できます。
したがって、一社に責任を持たせて熱心な活動を促し、進捗管理をシンプルにしたい場合は専任媒介契約を、早期かつ広範囲の集客を優先し、複数の会社と連携を取る手間を惜しまない場合は一般媒介契約を選択するのが、アパート売却における媒介契約の選択判断となるでしょう。
2.買い手とのコミュニケーションと物件情報の開示
買い手にとって、アパート経営は将来の収益を左右する重要な投資です。不安要素を取り除くことが、高値売却に繋がります。
収支状況(レントロール)、賃貸契約の内容、空室状況、修繕履歴など、物件に関する情報は正確かつ正直に開示しましょう。隠しごとはのちのトラブルの原因となり、最悪の場合、契約解除や損害賠償に発展する可能性もあります。また、清掃や整理整頓を徹底し、購入希望者に対して物件の清潔感と管理体制のよさをアピールしましょう。
3.売却の適正価格と交渉戦略
市場の動向、物件の築年数、立地条件、そして現在の賃貸稼働状況を総合的に判断した適正価格を把握することが大切です。
短期譲渡所得の税率を避けるためにも、焦って売却価格を下げる交渉に応じる必要はありません。市場に物件を出しつつ、売却時期の税率が変わるタイミングを見計らうなど、税務面と市場動向を組み合わせた戦略が必要です。また、買い手との交渉の余地を残した価格設定にすることで、円滑なコミュニケーションを促します。
出口戦略の成功は「時間」と「専門家」で決まる
アパート経営の最後を締めくくる売却。成功のポイントは以下の2点です。
1.所有期間「5年超」を死守
所有期間5年超(長期譲渡所得)を死守することは、最も効果的かつ確実な節税策です。これにより、税率を約40%から約20%へと一気に半減させることが可能になり、1億円規模の取引であればその差は数千万円におよぶ可能性もあります。
2.税理士の役割と活用
アパート売却は、購入時の経費の把握、減価償却費の計算、特例適用の可否判定など、専門的な知識が不可欠です。売却価格の候補に対し、取得費と減価償却費を正確に算定し、税引後の手取り額を事前にシミュレーションすることで、売却の是非や価格交渉の基準を明確にできます。
また、譲渡費用として認められるかどうか、わからないような場合には、すべての領収書や契約書を精査し、漏れなく費用計上できるようサポートを受けましょう。不動産の譲渡所得は分離課税であり、複雑な確定申告が必要です。特例を適用する場合はさらに手続きが複雑になるため、税理士に依頼することで、申告漏れや誤りを防ぎ、最大の節税効果を確実に得ることができます。
アパート売却の検討を始めたら、まずは信頼できる税理士に相談し、税務面からの戦略的な出口計画を策定することから始めることをお勧めします。
参考
国税庁のタックスアンサー「No.3252 取得費となるもの」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3252.htm
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