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トラブル頻発の「立退き交渉」…退去を拒む借主にどう対処する?【弁護士が解説】

アパートオーナーにとって、売却や建て替えをおこなう際に避けて通れないのが「立退き交渉」です。足下をみて高額な立退料を迫ってくる入居者や、感情的になってくる入居者に対して、どのように交渉すべきでしょうか。不動産と相続を専門に取り扱う、山村暢彦弁護士が解説します。

賃貸経営者は避けられない…「立退き交渉」

物件を売却するにあたり、買主業者へ更地で引き渡す場合、入居者への立退きを行ってから、建物を解体してもらう必要があります。また、古くなってきた建物を建て替えたいときも同様に、入居者に立ち退いてもらう必要があることも少なくありません。

このように、物件オーナーは度々、売却や建て替えのために立退き交渉を強いられることがあります。

筆者は職業柄、代理で立退き交渉を行ったり、書類作成や交渉方法・立退き金額の目安を伝えたりする等、交渉をサポートすることがしばしばあります。そのため、オーナー側の目的や立退きの必要性は痛いほどわかるのですが、その際「入居者の保護」「借地借家法」という非常に高い壁が立ちはだかっていることも事実です。

たしかに、引っ越し費用や立退きのための補償相当の立退料を請求するのは、法律的にも、道理として理解できます。

しかし困ってしまうのは、立退きの申し入れにかこつけて、「とにかく立退料を取ってやろう」という姿勢の方や、理由もなく、とにかく感情的に「立退きたくない」という主張をしてくる入居者です。オーナーにとっては、本当に頭の痛い問題です。

クレーマーのような入居者には、裁判等の強硬手段をもって臨む必要がありますが、本記事ではできる限り「交渉のポイント」をお伝えできればと思います。

立退き交渉時は「入居者側の心情」を考慮する

まず、大家さんとして念頭において動かなければならないのは、「入居者側の心情」です。

昔からよくあるトラブルとしては、古いアパート等で建て替えの必要性は高いものの、入居者の都合を一切聞かずに「この日までに立ち退いてくれ、引っ越し費用としてはこれだけ支払う」と有無を言わさないような書面を送ってしまうケースです。

イメージしてみてください。入居者は、オーナーの勝手な都合で「引っ越し費用払うから出てってくれよ。」と言われると、どうしても腹立たしく感じてしまうものです。

仕事の忙しさもあるでしょうし、そもそも引っ越しは、時間も労力もかかります。筆者は基本的に大家さんからのご相談が多いのですが、まれに知人弁護士等の紹介で入居者側の相談を受けると、「この内容だと腹立てるのもわかるな。」という通知書もあります。

そのため、オーナーとして立退き交渉が必要な場面では、

①相手の心情に配慮した、お願いベースの解約申入書面とすること

②立退料相場を鑑みておかしくない金額で申し入れすること

③立退きまでの期間をある程度取ったうえで立退き交渉すること。すなわち、売却や建て替えまではスケジュールに十分な余裕をもって次の計画を進めること

この3点を押さえて交渉する必要があります。

法律知識も関係しない、とても初歩的なポイントに感じるかもしれませんが、以前セミナーをさせていただいたときに非常に反響がよかったので、本記事でも紹介させていただきます。

立退料の相場観は「ない」

「立退料っていくら払えばいいんですか?」というのも、よくあるご質問です。

裁判例等を踏まえて「築●年の建物だと金●●●万円ぐらいだろう」というのは、個別の事案では説明できますが、明確な立退料の算定方法や相場観は「ない」というのが実際のところです。

法律の世界は、裁判例という裁判所が判断した「先例」によって解決していくという「先例主義」ですが、立退料に関しては、その当時の交渉状況や、建て替えの際に大家さん側が負担できる資金余力によって大きく幅が出ます。そのため、裁判例を分析して、金●●●円ぐらいと、具体的な事例なくお答えすることは非常に難しいのです。

他方、1つだけ明確にいえることは、入居者側に弁護士が介入した場合、間違いなく立退料額は大家さん側が考えていた立退料額よりも上昇します。

理由としては、入居者側に弁護士費用が発生するので、その分以上に上昇しないと解決に至らないという点と、弁護士が介入した以上、「裁判で問題になった立退料」を基準に交渉してくるため、一般的な相場よりも高額になってしまう点が挙げられます。

立退きトラブルはいたるところで発生していますが、「裁判による立退料」しか先例としての資料がないので、弁護士が介入した以上はどうしても「裁判相場での立退料」を提示されてしまいます。

まとめ…円満解決には「双方歩み寄り」を

大家業をやっている以上、建て替えや売却の場面では、「立退き問題」が生じることは避けられません。

そのため、その際に絶対に覚えておいて欲しいのは、自分の都合だけではなく、入居者側の心情にも配慮して交渉するということです。

また、立退料額自体には明確な答えがないものの、相手を怒らせて弁護士を介入されると、当初よりもオーナーにとって悪い結果になってしまうことがあります。

ただ、「弁護士を介入させたら立退料が増額するのであれば、交渉時入居者は必ず弁護士を入れてくるのでは?」と疑問を持つ方もいらっしゃるかと思いますが、弁護士を介入させると入居者側にも弁護士費用が発生しますので、簡単には弁護士を介入させることが難しいという側面もあります。

弁護士がいうと元も子もありませんが、立退きトラブルで弁護士が介入しなければならない場面になると双方負担が増えますので、できる限り相手の心情にも配慮し、穏便に話を進めることが円満解決の秘訣です。

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監修:山村 暢彦氏(山村法律事務所 代表弁護士)

監修:山村 暢彦氏(山村法律事務所 代表弁護士)

専門は不動産法務、相続分野。実家の不動産トラブルをきっかけに弁護士を志し、現在も不動産法務に注力する。日々業務に励む中で「法律トラブルは、悪くなっても気づかない」という想いが強くなり、昨今では、FMラジオ出演、セミナー講師等にも力を入れ、不動産トラブルを減らすため、情報発信も積極的に行っている。


クライアントからは「相談しやすい」「いい意味で、弁護士らしくない」とのコメントが多い。不動産・相続のトラブルについて、自分ごとのように解決策を提案できることが何よりの喜び。


さらに不動産・相続法務に特化した業務に注力するため、2020年4月1日、不動産・相続専門事務所として山村法律事務所を開設。


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