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「保証会社が立替えているから問題なし」と家賃滞納を続ける借主…契約解除は可能か【弁護士が解説】

家賃未払いを続ける借主。退去を求めたオーナーですが、「保証会社に立替えてもらっているから家賃滞納にはあたらない」と反論され、退去を拒まれています。近年増加している保証会社利用ですが、このようなケースで裁判所はどう判断しているのでしょうか。賃貸・不動産問題の知識と実務経験を備えた弁護士の北村亮典氏が、実際にあった裁判例をもとに解説します。

オーナー・借主双方にメリット…増加する「保証会社」利用

マンションやアパートのオーナーが賃借人と賃貸借契約を締結する際、従来は「連帯保証人」を設定することが通常でしたが、近年は万が一賃借人に賃料の滞納をされた場合に確実に回収するための手段として、連帯保証人ではなく「保証会社」との契約を条件とする物件のオーナーが増えてきています。

賃貸人側としても、個人の保証人よりも家賃保証会社のほうが賃料の回収が図れる可能性が極めて高いというメリットがあるからです。

保証会社を利用した場合、万が一賃借人が賃料を滞納してもすぐに保証会社から滞納賃料が支払われ、保証会社が代わって賃借人に請求することになりますので、物件オーナーとしては賃料不払いのリスクを相当軽減できることとなります。

他方で、このように保証会社がすぐに賃料の滞納を解消してくれることで、法的には以下の事例のような問題が生じてくることとなりました。

【アパートオーナーからの相談】

私は、所有しているアパートを、賃借人に月額7万5000円の家賃で賃貸しました。賃貸借契約の際は、賃借人には保証会社と契約することを条件としてもらっています。

この賃借人が徐々に家賃を払わなくなり、4ヵ月分連続で滞納していたことがわかりました。

滞納した家賃は、その都度保証会社に立替えて支払ってもらっていましたので、こちらで未回収の滞納家賃はないという状況です。

しかし、このように連続して滞納が続けるような賃借人のことは信用できませんので、退去してもらいたいと考えています。通常は、賃借人が賃料を3ヵ月分以上滞納すれば解除が認められると弁護士から聞きましたので、信頼関係が破壊されたとして解除通知を出しました。

しかし、賃借人からは、「保証会社が立替えて払っているのだから、家賃の滞納はないから解除は認められないはずだ」などと反論され、解除を拒んでいます。

このような賃借人の主張は認められるのでしょうか。

「形式上は滞納家賃がない」…契約解除は認められる?

現在の裁判実務では、賃借人が賃料を3ヵ月分以上滞納した場合には、賃貸人と賃借人とのあいだで信頼関係が破壊されたとして、賃貸人からの賃貸借契約の解除が認められています。

他方で、冒頭で述べたように家賃保証会社を利用した場合、賃借人が家賃を滞納すると、通常は保証会社がすぐに滞納家賃を賃貸人に支払い、その後賃借人に求償請求をする、という流れで進みます。

このため、賃借人が家賃を滞納してもすぐに保証会社が支払うため、滞納賃料額が通常解除が認められる目安の3ヵ月分にまで達しないということも生じてきます。

そうなると、本件のように賃借人による家賃滞納が長期間続き、賃貸人としては信頼関係が失われたとして賃貸借契約を解除したいと考えても、「形式上は滞納家賃が残っていない」状況ですので、はたして賃料の滞納を理由とした解除ができるか、ということが法律的に問題となるわけです。

このような事案について、最高裁の判例はまだありませんが、同様の結論を取る裁判例は複数出てきています(福岡高等裁判所平成28年2月29日判決、東京地方裁判所平成27年7月16日判決、大阪高等裁判所平成25年11月22日判決等)。

保証会社が立替えても「契約解除が認められる」ワケ

いずれの裁判例も、賃借人が賃料の不払いをしていたものの、保証会社が代わりに支払っていたため、賃借人側が「賃料の不払いは生じていない」と主張して解除を争った事例です。

どの裁判例においても、裁判所は結論として、「賃料の不払いを理由とした賃貸人からの解除を認める」という判断をしています。

したがって、このような事案における賃貸借契約の解除の可否については、裁判所の判断が固まりつつあるといえるでしょう。

では、家賃保証会社が賃料を支払っているにも拘わらずなぜ解除が認められるのかということについてですが、その理由付けは裁判例によって多少の違いはあるものの、おおむね以下のような理由付けとなっています。

「すなわち、賃貸借保証委託契約に基づく保証会社の支払は「代位弁済」であって、賃借人による賃料の支払ではないと評価できるから、保証会社による賃料の支払があったとしても、賃借人の賃料の不払という事実に消長を来すものではない(賃料の不払いという事実自体が解消されるわけではないという言い方をしている裁判例もあります)、

したがって、賃貸借契約の債務不履行の有無を判断するにあたり、保証会社による代位弁済の事実を考慮することは相当でなく、賃料不払いによる賃貸借契約の解除原因事実の発生という事態を妨げるものではない」

このように、賃借人の賃料不払いがあり、それが賃貸人との信頼関係を破壊する程度の期間や内容であれば、たとえ家賃保証会社が賃料を立替えて支払っていたとしても、賃借人の賃料の不払いを理由とした解除が認められる可能性は高いということとなるのです。

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監修:北村 亮典氏(こすぎ法律事務所 弁護士)

監修:北村 亮典氏(こすぎ法律事務所 弁護士)

慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。神奈川県弁護士会に弁護士登録後、主に不動産・建築業の顧問業務を中心とする弁護士法人に所属し、2010年4月1日、川崎市武蔵小杉駅にこすぎ法律事務所を開設。


現在は、不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理等に注力している。


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