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「司法書士なし」でアパートの売買取引をすると起こりうる“最悪の事態”【司法書士が解説】

アパートをはじめ、不動産の売買をする際に必ずお世話になるのが「司法書士」ですが、そもそもなぜ司法書士が必要なのでしょうか。今回は、司法書士の役割や依頼時の費用相場とともに、司法書士なしで不動産の売買取引をするリスクについて司法書士の近藤崇氏が解説します。

不動産売買時、「司法書士」はなにをするの?

不動産の売買をする際には、「不動産登記」が欠かせません。この「不動産登記」の専門家が「司法書士」です。

投資などを行っていない個人の場合、不動産売買というのは人生でそう何度も経験するものではありません。不動産投資を積極的にされている方であっても、不動産業者でない限り、不動産売買や不動産登記に関わるのは多くても年に1度くらいなのではないでしょうか。

そのため、「司法書士」という職業自体は耳にするものの、「具体的になにをする専門家なのかあまりわからない」という方も多いかもしれません。そこで今回は、不動産売買における司法書士の役割について、詳しく解説していきます。

不動産売買は「1対1」…司法書士は第三者として「GO」を出す

不動産の売買が株式などと大きく異なる点は、「売りたい人と買いたい人(当事者同士)が1対1で取引をする」という点です。市場を介して不特定多数と取引を行う株式と違い、不動産は基本的に「1点もの」ですので、売主と買主の合意により、その不動産の売買価格が形成されます。

このような相対取引である不動産取引は、売主・買主双方が「リスク」と「メリット」を享受しあっている、ともいえます。

実際の不動産取引の流れをもとに考えてみましょう。売主側は、印鑑証明書や実印の押印、登記識別情報通知(または権利証)を提出し、買主への「不動産登記の協力義務を果たす」というリスクを負う代わりに、買主から約束をした「売買代金の支払いを受ける」というメリットを享受します。

反対に買主側は、「売買代金の支払いを履行する」というリスクを負う代わりに、「不動産の登記名義を受ける権利を得る」というメリットを享受します。このようなしくみから、不動産登記の世界では売主のことを「義務者」、買主のことを「権利者」と呼びます。

不動産取引は安いものでも数百万、高いものですと数億、数十億のお金が動きます。また売主側の「必要書類の提供」と買主側の「代金の支払い」は「同時履行(どうじりこう)」の関係にありますので、この双方について問題がないか、確実に不動産登記をできるかどうかの確認をしなければなりません。

これらを確認し、取引の実行にGOを出すのが、国家資格者である「司法書士」の役割です。

不動産登記時の「費用相場」

上記のように、売主と買主のみしか存在せず、現金による取引の場合、司法書士が行う業務は「所有権移転」の登記のみになります。費用の相場としては売買価格1,000万円程度のワンルームマンションなどですと5万~10万円程度が目安です。

ただし実際には、登記の際に国に納める必要がある「登録免許税」も司法書士に支払う必要があります。登録免許税の金額は、売買する不動産の「固定資産税評価額」のうちおおむね1.5%~2.0%程度です。たとえば、評価額3,000万円の土地のみを移転登記する場合、登録免許税額は約45万円になりますので、司法書士への見積額はおそらく50万円を超えるでしょう。対象の不動産が高額な場合、比例してこの税額もより高くなっていきます。

「司法書士なし」で取引すると考えられる“最悪の事態”

実例は多くないと思いますが、仮に価格が数百万程度の不動産の場合、また隣地同士や親類同士の不動産取引の場合、司法書士が関与せずに当事者のみで不動産売買の取引をするケースもあるかもしれません。

しかし、こうしたケースで考えられるのは、もし売主側が提出した登記書類に不足があった場合、買主側が「売買代金を払ったにもかかわらず不動産登記名義が入らない」という最悪の事態です。

身内同士の贈与などならともかく、仮に少額でも売買として対価を支払う場合、買主としては司法書士に依頼したほうが安心・安全でしょう。

また、実際の不動産取引は数千万~数億円規模のものも多いため、単純に現金を支払うだけのケースはごくわずかです。数千万円のものを現金一括で購入できる人はそう多くないでしょうから、実際には買主が銀行などの金融機関から融資を受けることが大半です。

金融機関はこの際、買主に融資をする代わりに、その不動産に「抵当権」の設定を求めます。この抵当権の設定に、司法書士が必要なのです。前述の見積額が「高額だ」と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、この抵当権の設定登記費用および登録免許税の費用も見積に含まれています。

なお、金融機関によって、指定した司法書士を使うよう強く求めるところもありますし、買主側が自由に決めていいところもあります。ひと昔前は、各金融機関で司法書士を指定するケースが多かったですが、昨今は依頼者が自由に司法書士を選べる金融機関が増えてきたようです。いずれにしても、売主・買主、さらに第三者である金融機関も関わる場合、不動産売買・登記の専門家である司法書士の関与は必須でしょう。

以上の理由から、不動産取引において、司法書士はどうしても欠かせない存在となっているのです。

まとめ…司法書士は大金が動く不動産取引の「門番」

ここまでみてきたように、司法書士は不動産取引の現場において、各当事者の「保険」のような役割を果たしているといえます。

売主側の必要な書類は揃っているか、また残債ローンなどの抵当権が残っている場合、確実にその抵当権が消えるのかどうか。買主側が売買代金を支払っても、確実に登記名義が入るかどうか。金融機関が多額の融資を行い、万が一のための抵当権が確実に登記されるのかどうか。

これらの利害を判断し、不動産売買の決済においてGOサインを出すのが、司法書士の役割です。司法書士としても、自分の判断で数億のお金が動くこともありますから、何年やっても緊張する責任重大な仕事です。

まれにですが、売主に成りすまして不動産売買代金を詐取する、いわゆる「地面師」による不動産詐欺事件も発生しています。6年前の数十億円規模の「地面師」事件は大きく報道されましたが、少額の不動産取引での詐欺は、ニュースになっていないだけで起きていても不思議ではありません。

司法書士の立会いなしで取引をすれば、このような詐欺にあうリスクも高まります。普段から不動産投資を行い、不動産購入を積極的にされている方でしたら、気軽に相談できる司法書士を身近に確保しておくのもいいのではないでしょうか。

監修:近藤 崇氏(司法書士法人近藤事務所 司法書士)

監修:近藤 崇氏(司法書士法人近藤事務所 司法書士)

横浜市出身。横浜国立大学経営学部卒業。平成26年横浜市で司法書士事務所開設。平成30年に司法書士法人近藤事務所に法人化。


取扱い業務は相続全般、ベンチャー企業の商業登記法務など。相続分野では「孤独死」や「独居死」などで、空き家となってしまう不動産の取扱いが年々増加している事から「孤独死110番」を開設し、相談にあたっている。


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