なぜ「事業年度末」に「不動産投資」が注目されるのか?【税理士が解説】
不動産投資において、資産管理法人を活用するケースは少なくありません。法人の事業年度末(決算月)は、あらかじめ定款に定めることにより、設立から1年以内の範囲で任意に設定することができますが、3月を事業年度末に設定している法人も多いでしょう。そこで今回は、資産管理法人の事業年度末における不動産投資に焦点を当て、事業年度末投資のメリット・リスク・注意点、そして成功するための戦略について、税理士法人メディア・エスの田中康雄税理士が解説します。
不動産投資における「事業年度末」の意義
事業年度末に取得した新たな投資不動産(事業年度末投資)から受け取る賃料は、決算書ベースで考えると事業年度末までのわずか数ヵ月分の収入しか期待できません。
一方で、新たに不動産を取得する場合には付随的に経費が生じるため、事業年度末投資の部分だけを切り取ると、初年度の決算は赤字になってしまうケースも珍しくありません。しかし、その翌年度以降の決算では、減価償却費や固定資産税以外に経常的に発生する費用は少なく、安定した収入が期待できます。
そのため、事業年度末に不動産投資を行うことは、短期的な収益よりも、長期的な収入の安定化や税制面でのメリットを享受するための有効な手段となり得ます。これにより、投資家は初年度の赤字を上手に活用し、翌年度以降に向けた安定した収益を見込むことができるでしょう。
事業年度末に投資を行う具体的なメリット
1.損益通算による節税効果
不動産を取得する際にはさまざまな出費が伴います。そのなかでも、事業年度内に所有権の移転が完了していれば、登録免許税をはじめ登記に要したすべての費用をその事業年度の経費にすることができます。
このほか、不動産取得税についても早々に納税通知書が手元に届けば、その事業年度の経費に含めることが可能です。しかし、残念ながら事業年度末投資では通知書が事業年度内に届くことは考えにくく、そうした場合には翌年度以降の経費になります。ただ、不動産取得税はその全額を一括で経費計上することができるため、将来的な節税効果が期待できるでしょう。
また、不動産投資の対象が中古物件の場合には、取得してすぐに気になる部分があると簡単な補修くらいはしておきたいものです。あくまでも物件の機能維持や原状回復のための軽微な修理であることが前提ですが、事業年度末までに作業が完了していれば、修繕費としてその事業年度の経費に含めることができます。
こうしてその物件の購入初年度に出費がかさんでくると、収入よりも費用が上回ってしまうことも想定されます。ただ、すでにほかの物件を所有していれば、それらの物件の不動産収支と相殺することができるため、事業年度末投資で生じた赤字も、場合によっては節税対策にもなります。
2.減価償却費の有効活用
不動産投資の対象が中古物件の場合、その建物に対しては法定耐用年数よりも短い耐用年数を使って建物の取得価額を費用化(減価償却)することが認められています。不動産投資を行った初年度の減価償却費は月割り計算となるため、事業年度末投資では経費に含めることができる減価償却費はほんのわずかとなります。
しかし、翌年度以降は短い耐用年数で12ヵ月間フルに減価償却費が計上されるため、すぐに節税効果を実感することができるでしょう。
3.消費税還付の可能性
不動産のなかでも建物の取引は消費税の課税対象とされており、これに含まれる消費税を取得したタイミングで申告すれば、還付を受けられる可能性があります。
しかし、消費税の申告では、居住用の建物に含まれる消費税については還付手続きができないルールとなっていることに注意が必要です。アパート経営の場合には、不動産投資による消費税の還付の恩恵を受けることができません。
一方、不動産投資の対象がテナントビルなどの事業用の物件であれば、その建物に含まれる消費税については還付を受けられる余地があるため、課税事業者の届出など事前に万全の準備をしておく必要があるでしょう。
事業年度末投資におけるリスクと注意点
事業年度末投資は物件をじっくりと選定できる期間が短くなりがちで、その結果、物件の状態を見誤ってしまうことも少なくはなく、購入後にいきなり大規模な改修工事といった事態にもなりかねません。
改修という名目であっても、新たな資産の追加と認められればその工事は一時的な経費として計上することはできません。また、その工事代金が取得した金額の50%を超えてしまうと、物件全体に対して中古資産の耐用年数による減価償却が適用できなくなります。
そうなれば、せっかくの中古物件に対する税務上のメリットが失われてしまう恐れもあるため、不動産投資にあたっては物件を見定めるためだけではなく、資金調達のためにも計画的に進めていく必要があるといえるでしょう。
また、次年度に新たな借入を起こすことを検討している場合は、事業年度末の表面上の赤字が融資審査に影響を及ぼす可能性があることには注意しましょう。金融機関は審査の際に決算書などの帳票の表面上の利益を見ているケースもあります。
特に、減価償却費などの会計上の処理による赤字ではなく、実際にキャッシュアウトした費用による赤字の場合、金融機関は融資を慎重に判断する傾向があり、場合によっては融資を見送られ、物件購入の計画が先延ばしになったり、頓挫したりする可能性もあることを理解しておく必要があるでしょう。
中古アパート経営における事業年度末投資の戦略
中古アパートを対象とした事業年度末投資を行った場合、当初は収入よりも支出が上回り、手元資金の持ち出しが発生することも多く不安になるかもしれません。しかし、初年度でもほかの所有物件との損益通算などによって節税効果が期待できるとともに、翌年度以降は安定的な収益を確保し、大規模修繕のための備えにもなります。
このように事業年度末投資では、目先の利益よりもむしろ将来のための安定した収入に目を向け、長期的な目線で計画していきましょう。
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