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入居者「そんな話聞いてない!」…事故物件の「告知義務」、違反するとどうなる?【弁護士が解説】

賃貸物件オーナーの頭を悩ませる問題のひとつ、「瑕疵物件」。所有する物件がいわゆるワケあり事故物件になってしまった際には、新しい入居者に対する「告知義務」が発生するケースがあります。もし、告知すべき事項が漏れており、入居後に入居者から「聞いていなかった」といわれるなど、トラブルに発展した場合どうなるのでしょうか? 告知義務違反の判例とともに告知義務違反にならないための対策を清水将博弁護士が詳しく解説します。

入居後に知った前居住者の自殺…裁判所の判断は?

前居住者の自殺の事実について、賃貸借契約時に、賃借人に告知しなかったことが賃貸人の告知義務違反となることを認めた裁判例として、大阪高裁平成26年9月18日判決をご紹介します。

1.告知義務違反の判例事案の【概要】

賃貸人Yは、賃借人Xとのあいだで、その所有するマンションの一室(以下「本物件」といいます)について賃貸借契約を締結し本物件を引き渡しました。Xとその親族は、本物件に引っ越した当日に、近隣住民等の話から、本物件内で前居住者が自殺した事実を知るに至りました。Yから知らされていなかった前居住者の自殺の事実に驚いたXは、入居後、居住することが心理的に困難となり、わずか1ヵ月で本物件を退去しました。

Xは、Yが、当該自殺の事実を知っていたにもかかわらず、これを伏せ、Xに告知することなく本件物件の賃貸借契約を締結したことが不法行為にあたるとして、Yに対し、損害賠償請求訴訟を提起しました。

2.裁判所の判断

裁判所は、まず、Yが1年数ヵ月前に前居住者が自殺したことを知った事実を認めました。そのうえで、前居住者が自殺した事実に関する賃貸人の告知義務とその違反行為について、以下のように判断しました。

「一般に、建物の賃貸借契約において、当該建物内で1年数ヵ月前に居住者が自殺したとの事実があることは、当該建物を賃借してそこに居住することを実際上困難ならしめる可能性が高い」ことから、前居住者の自殺の事実をXとの賃貸借契約締結前に知っていたYは、信義則上、Xに対し、同事実を告知すべき義務があったのに、この義務に違反してXに対して告知しなかった行為は故意による不法行為を構成する。

さらに、Yの告知義務違反行為によって、賃貸保証料、礼金、賃料、引越料、住宅保険代、防虫・消毒費、仲介手数料、引越料、エアコン工事代金、心理的ショックにより生じた治療費、慰謝料、弁護士費用等がXの損害となったことを認めました。

告知義務違反になると…

上記裁判例のように賃貸人が告知義務に違反すると、賃貸人には、

1.損害賠償責任を負う可能性 
2.賃貸借契約を解除される可能性

が生じます。

1.「損害賠償責任」について

賃貸人が損害賠償責任を負う場合、その範囲が問題となりますが、上記のとおり、賃借人が当該物件の入退去に要した費用まで、広く認められる可能性があります。

また、事故物件であることが賃貸借契約締結前に判明した場合であっても、賃借人が契約締結に向けた準備のために要した費用について、当該準備の内容、程度次第によっては賃貸人に損害賠償責任が生じることも考えられます。

2.賃貸借契約の解除について

告知義務違反は、事故物件であることについて賃貸借契約の当事者が合意事項としていなかったことを意味しますので、契約不適合による解除原因(民法第559条、第562条第1項、第564条)にあたる可能性もあります。

このような事態になった場合、賃貸人としては、賃借人への賠償を行わなければならないだけでなく、紛争が解決するまで賃貸物件を第三者に貸し出すことが難しくなる可能性があります。

紛争が長期化すればするほど、賃貸人の経済的損失も大きくなる関係にありますので、損失回避のためにも、告知義務違反にならないように、どのような場合に、告知を行わなければならないのか、という点を事前に整理をしておくとよいでしょう。

入居時のガイドラインを作成する際の注意事項

上記のとおり、どのような場合に告知を行わなければならないのか、という点を事前に整理をしておくことが望ましいです。そして、この説明義務については、国土交通省が定めた「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン(※)」を参考にするとよいでしょう。

このガイドラインにおいては、おおむね、次の場合に告知を告げなくてもよいと定められています。

①自然死または日常生活のなかでの不慮の死

老衰、病死、階段からの転落等による不慮の死は、原則として告知を要しません。もっとも、この場合であっても、長期間放置されていたような事情がある場合は、契約締結の判断に重要な影響をおよぼす事項として、告知を要する場合があります。

②自殺・事件等の発生からおおむね3年が経過した場合

心理的な影響の希薄化、関心の低下等により、事件・事故の発生から3年程度経過すれば告知を要しません。ただし、当該自殺・事件等の社会的影響や、周知性が特に高いような場合は、3年経過後も告知を要する場合があります。当該自殺・事件等が日常的に使用する共用部分で生じた場合についても同様とされています。

③賃貸物件の隣戸、日常的に使用しない共用部分においての自殺・事件等

原則として、告知を要しません。ただし、②と同様に、社会的影響や、周知性が特に高いような場合は、告知しなければならない場合があります。

上記以外の場合は、賃借人が借り受けるかどうか判断する際に重要な影響をおよぼすと思われる場合には、告知することが必要になります。

具体的には、自殺・事件等の発生または発覚時期、場所、死因(不明の場合は不明である旨)、いわゆる特殊清掃が行われた場合はその旨を告げます。また、告知する際は、亡くなった方やご遺族の名誉や生活の平穏への配慮のため、氏名や死の態様等を告げる必要はありません。

まとめ

自らの不動産が事故物件にならないようにすることは不可能でもあり、避けて通れないところでもあります。

不幸にも事故物件となってしまった場合においても、告知義務違反により二次被害が生じないように、できる限り丁寧に、真摯に、説明義務を履行することは重要です。国土交通省が定めた「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を踏まえた説明義務を履行し、賃借人に納得して入居してもらえるように対応することが重要です。

監修:清水 将博氏(MSみなと総合法律事務所 代表弁護士)

監修:清水 将博氏(MSみなと総合法律事務所 代表弁護士)

専門は不動産法務、M&A法務、ベンチャー法務。


不動産に関する資金調達スキーム(不動産の証券化、信託スキーム、不動産特定共同事業法が適用されるスキーム等各種プロジェクト・ファイナンス、現物不動産の取引)において、さまざまなプレーヤーのカウンセルとして関与するなかで、不動産をめぐる各種訴訟等(テナントの退去に関する交渉、明渡訴訟、仲介会社や管理会社とのトラブル等)も数多く対応する。


一般社団法人不動産ビジネス専門家協会に所属し、セミナーへの登壇、執筆活動にも力を入れる。


「法務でビジネスを加速させる」をモットーに、バランス感覚を大切に、スピーディーにかつリーズナブルに案件の対応に取り組んでいる。


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