「民法改正」で「相続登記」が義務化されるが…昔、親から引き継いだアパートも対象なのか?【弁護士が解説】
急増する「所有者不明の土地」問題。これに対処するため、令和6(2024)年4月1日から「相続登記の義務化」が始まることになりました。これにより、相続登記の際に具体的な期限が定められることとなりますが、昔相続した不動産もこの対象となるのでしょうか。「相続登記の義務化」のポイントと注意点について山村法律事務所の山村暢彦弁護士が解説します。
民法改正で来年から「相続登記」が義務化へ
仮に親が亡くなって相続が発生すると、実家の所有権は、相続人である子どもや配偶者に移転するため、登記を新しい所有者名義に変更する必要が出てきます。これを「相続登記」といいます。
相続で取得した実家を売却するような場合には、名義を変更しなければならないので、相続登記を行うのが自然です。ただし、夫が亡くなってもそのまま配偶者である妻が住み続けるケースや、親が亡くなっても同居していた子どもが住み続けるケースでは、手続きも面倒でお金もかかるため、実際には「相続登記を行っていない」という状況も多々発生していました。
このような状況が続くと、登記が変更されないまま何世代分もの相続が発生してしまい、「さあ売却しよう」と思ったときには土地の共有者が何十人、ときには何百人になっていた……なんてケースも実際に存在します。
このような状態になると、戸籍をたどって相続関係図を作成するだけでも一苦労ですし、大人数の意見もまとまらず、そのまま放置されてしまうケースも少なくありませんでした。
「相続登記の義務化」とは?
こうした事態を受けて、令和6(2024)年4月1日からスタートするのが「相続登記の義務化」です。不動産の相続を知ってから3年以内に相続登記の申請をしなかった場合、10万円以下の過料(金銭の納付を命じる罰則)の罰則を受けることになりました (改正不動産登記法 第164条)。
この10万円以下の過料がどの程度の頻度で調査され、課されていくのかはまだわかりません。しかし、法律違反になってしまう以上、相続が発生したら、コストや手間がかかっても、しっかりと相続登記を進めていく必要が出てきました。
5年前に親から引き継いで放置していたアパートは「義務化の対象」か?
さて気になるのは、「改正前から相続登記を放置していた物件を抱えている」というケースです。こういった場合も罰則を受けるのでしょうか。
実は、改正法の施行日(令和6年4月1日)前に相続が発生していたケースについても、登記の申請義務は課されます。ただし、施行日から3年間の「猶予期間」が設けられています。
この3年間というのは長いように思えても、相当数の相続人がいたり、複雑な事情があったりと、対処期間としては「決して長くない」というのが筆者の感覚です。えてして、相続関係の訴訟やトラブルは、3~5年ほどの対応期間になることも少なくないからです。
ただし、たとえトラブルが残っていたとしても、戸籍上確認できる相続人の「共有名義」で登記を移転しておけば、この罰則を回避できます。
もっとも、「3年も時間があるからあとでいいや」と思って期限ギリギリに依頼すると、登記の前提となる戸籍等の収集にも時間がかかりますので、期限内に間に合わないという事態も十分ありえます。相続登記が義務化されるのは確定事項ですので、面倒くさがらずに、早め早めに手をつけていくべきでしょう。
相続登記の義務化だけでは解決できないケースも
今回の「相続登記の義務化」自体は、好ましい法改正といえるのではないでしょうか。いままで相続登記の放置によって生まれていた空き地や共有分割が困難な不動産が、少しでも減ることが期待できます。少なくとも、「ただ手続きが面倒で」「お金がかかるから」といった複雑な事情もなく放置されるケースが減ることで、それに伴うトラブルの減少に繋がるため、不動産投資家にとって有益な改正でしょう。
一方、「いったん相続人の共有名義にはできるが、そのあと遺産分割協議を完了できない」というケースは、この改正だけで解決することはできません。さまざまな不動産の相続案件をみていると、「認知症」が絡むと解決が難しくなると感じています。
とはいえ、今回(2023年)の民法改正も踏まえると、不動産の法整備が少しずつ進んできているといえます。
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