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父が経営していた「多額のローン」が残るアパートを相続…負債をめぐる兄弟間のトラブルを防ぐには?【弁護士が解説】

アパートの賃貸経営を行う場合、まずは金融機関から借り入れを行って物件を購入するのが一般的です。しかしこのような場合、借入れのある収益物件を残して所有者が亡くなると、起こり得るのが「負債をめぐる兄弟間の相続トラブル」です。果たして回避することはできるのでしょうか? 不動産と相続を専門に取り扱う、山村法律事務所の山村暢彦弁護士が解説します。

アパートローンの相続が厄介なワケ

家族に資産を残してあげたい――そんな気持ちで、往年アパート経営を始める方は非常に多いです。ただ、一方で見落としがちなのが、アパートを承継する場面、すなわち「相続時のトラブル」です。

アパート経営というのは、基本的に金融機関からの融資を得ることを前提に、レバレッジを利かせて、賃貸の利回りと金利の差額が利益になるというスキームです。そのため、アパート経営をしている以上、相続時にはプラスの資産だけではなく、マイナスの負債である金融機関のローンが残ることも十分にあり得ます。

しかし、この点が見過ごされているケースも散見されます。ローンが残ると、単に不動産をわけるだけでも厄介であるにもかかわらず、さらに厄介な状況が生まれてしまうのです。

相続時には、財産を洗い出し、相続人間で財産を分配する「遺産分割協議」を行います。この際、多額の不動産が含まれていても、ケーキのように不動産を切ってわけることはできません。そのようなケースでは、「代償金」というお金で調整してわけることが一般的です。

不動産をわけるだけでも、「不動産の評価がいくらか」、そして「代償金をいくら払わねばならないのか」という点で揉めて大変になることが多いです。基本的には、預貯金が多く相続財産に残っており、そのお金で調整できれば、このようなトラブルを防ぐことができます。

しかし、一般的に、不動産を有している方は、お金があっても融資の繰り上げ返済などに充当してしまうことが多く、不動産の資産と比較してキャッシュレスの状態に陥りやすいです。

ローンが絡む相続の大変さ

さて、不動産を遺産分割するのが難しいと、どのような問題が起こるのでしょうか。一番の問題は、いくら遺産分割に時間がかかっているとしても金融機関の返済は待ってくれない、ということです。

理屈上は、不動産などプラスの財産の帰属は、遺産分割協議にて確定しないと共有状態となり、誰の財産か曖昧な状況に陥ります。一方で、ローンなどの負の財産については、金融機関との関係上、相続人が相続分割合に応じて分割して債務を負担しなければなりません。

つまり、アパートの所有が定まらない、アパートの賃料を単独で取得できないのにもかかわらず、金融機関への返済は待ってくれないのです。さらに、不動産のローンは高額なことが多く、賃料収入から充当できないとなると、支払っていくことは非常に困難です。

そのため、ローンが絡む相続では、相続人間だけで分配を定めるだけでも大変にもかかわらず、金融機関からも早く解決してくれとプレッシャーをかけられ、余計に感情的な対立が生まれやすくなります。

負債をめぐる兄弟間のトラブル回避策

一言でいうと、このようなトラブルを防ぐには「遺言書作成が必須」といえます。遺言書を作成しておけば、遺留分等の分け方に不満が残った場合の係争は残りますが、基本的にはアパートの所有が誰かを確定することができます。

すなわち、所有権の帰属が決まり、賃料収入から融資の返済ができることになります。これは融資の返済の観点からだけではなく、アパート事業の運営の継続のためにも遺言書は必須なのです。

たとえば、遺産分割で係争中に、アパートから退去者が出たとします。通常は、クリーニングなど原状回復をかけて、新しい入居者を決めなければなりませんが、遺産分割でいがみあっていると全員の同意が取れないケースがあります。そうすると、新規の入居者募集ができず、余計にアパートの収益が減ってしまうという事態に陥ってしまいます。

つまり、アパート経営を行っている以上は、遺言書で確定的に不動産の所有権を定めておかないと、①金融機関のローン返済と、②入退去等のアパート経営という2点の観点から、トラブルが生じてしまうので、注意が必要です。

「相続対策」まで準備するのがアパート経営者の責任

相続対策までは考えていないというアパート経営者の方からよく聞くのは、「資産を残すのだから、あとは残っている人でうまくやってくれ!」という声です。ただ、この声には若干の無責任さがあるのではと思います。

仮に、会社経営をやっていた方から「会社を残すから後は好きにやってくれ」と聞くとどうでしょう。「ちゃんと引継ぎやってくれよ!」といわれてしまってもおかしくはありません。

アパート経営も同じなのです。どうしても「不動産投資」という言葉から、事業として考えていない方が多々いらっしゃるのですが、あくまで「不動産投資」というのは、「大家業」「不動産賃貸業」という事業なのです。

そのため、今回ご紹介したように、少なくとも金融機関のローン返済と入退去等の事業継続という観点から、必要な引継ぎ、すなわち遺言書の対策は必須ではないかと思うのです。

近年では、融資の際に団体生命信用保険を付して、所有者が死亡すると借金が残らないという保険を付しているケースもあります。しかし、この保険はすべての物件につけられるわけではなく、実際は相続対策ができていない物件がほとんどです。遺言書に加えて、この団体生命信用保険についても見直してみるとよいと思います。

監修:山村 暢彦氏(山村法律事務所 代表弁護士)

監修:山村 暢彦氏(山村法律事務所 代表弁護士)

専門は不動産法務、相続分野。実家の不動産トラブルをきっかけに弁護士を志し、現在も不動産法務に注力する。日々業務に励む中で「法律トラブルは、悪くなっても気づかない」という想いが強くなり、昨今では、FMラジオ出演、セミナー講師等にも力を入れ、不動産トラブルを減らすため、情報発信も積極的に行っている。


クライアントからは「相談しやすい」「いい意味で、弁護士らしくない」とのコメントが多い。不動産・相続のトラブルについて、自分ごとのように解決策を提案できることが何よりの喜び。


さらに不動産・相続法務に特化した業務に注力するため、2020年4月1日、不動産・相続専門事務所として山村法律事務所を開設。


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