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くぎ穴、ネジ穴、画鋲穴…「賃貸アパートの壁」に関する「原状回復トラブル」への対処法【弁護士が解説】

賃借人が退去する際、必ず行われる「原状回復」。この際かかる費用について、アパートオーナーと賃借人の間でトラブルとなってしまうことも少なくありません。なかでも比較的高い頻度で散見されるのが「壁」に関するトラブルです。そこで今回は、具体例を交えて、壁の損耗によって原状回復トラブルに発展した場合の対処法を、不動産と相続を専門に取り扱う山村暢彦弁護士が解説します。

賃貸アパートの「壁」の原状回復…賃借人と賃貸人、どちらが負担する?

まずは基本の確認ですが、2020年の民法改正、原状回復ガイドラインの制定を踏まえ、

  • いわゆる自然劣化、経年劣化である「通常損耗」は、原則賃貸人(大家)が負担する
  • 通常の使用を超える損耗、賃借人の故意/過失によって生じた「特別損耗」は、賃借人が負担する

という上記ルールが明確になりました。そのうえで、「壁穴」の原状回復トラブルは、賃借人負担のものと賃貸人負担のものが混在していると思いますので、本記事では具体的にどのような定めになっているのか見てみましょう。

賃借人負担となるケース

原状回復ガイドラインでは、以下のように記載されています。

[賃借人の使い方次第で発生したりしなかったりするもの(明らかに通常の使用による結果とはいえないもの)]

〇壁等のくぎ穴、ネジ穴(重量物をかけるためにあけたもので、下地ボードの張替が必要な程度のもの)

考え方:重量物の掲示等のためのくぎ穴、ネジ穴は、画鋲等のものに比べて深く、範囲も広いため、通常の使用による損耗を超えると判断されることが多いと考えられる。なお、地震等に対する家具転倒防止の措置については、予め賃貸人の承諾、またはくぎやネジを使用しない方法等の検討が考えられる。

原則賃借人の負担になる場合の記載です。

そのほか、賃借人負担になるケースとして列記されているものとして、「タバコ等のヤニ・臭い」や「落書き等の故意による毀損」があります。「くぎ穴、ネジ穴」までいくと、タバコや落書きと同様に、賃借人が故意によって毀損したものと同視されてしまう、という整理のようです。

ガイドラインにてこのように整理されておりますので、ネジ穴をあけるタイプの棚などの設置は要注意です。あくまで基準ですので、どこかで分水嶺を作らねばならないということもあります。しかし実質的に考えても、ネジ穴やくぎによる造作設置を許してしまうと、建物自体の変更と捉えかねないレベルの工事も許容されかねないので、妥当な基準ではないかと思います。

「下地ボードの張替が必要な程度のもの」という基準もあり、小さなネジ穴程度だと許される余地もある書きぶりになってはいますが、「下地ボードの張替が必要か否か」は、賃貸人側で工務店等に発注をかけないとわからない事柄でもありますので、この点が不明確になって揉めるよりは、賃貸物件であれば、「くぎ穴、ネジ穴厳禁」と覚えておいたほうが、無用なトラブルを避けることにつながるでしょう。

賃貸人負担となるケース

他方、賃借人負担にならないケースの記載も見てみましょう。

[賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても発生すると考えられるもの]

〇壁等の画鋲、ピン等の穴(下地ボードの張替は不要な程度のもの)

考え方:ポスターやカレンダー等の掲示は通常の生活において行われる範疇のものであり、そのために使用した画鋲、ピン等の穴は通常の損耗と考えられる。

〇壁に貼ったポスターや絵画の跡

→考え方:壁にポスター等を貼ることによって生じるクロス等の変色は、主に日照などの自然現象によるもので、通常の生活による損耗の範囲であると考えられる。

〇エアコン(賃借人所有)の設置による壁のビス穴、跡

→考え方:エアコンについても、テレビ等と同様一般的な生活をしていくうえで必需品になってきており、その設置によって生じたビス穴等は通常の損耗と考えられる。

壁の穴関連で許容される記載をガイドラインから引用してきました。

カレンダー、ポスター、エアコン等は日常的に利用するものであり、下地ボードの張替までは不要なのであれば、許容されるという考え方です。

一般的な程度ならさておき、たとえば「壁一面に押しピンの穴が散乱しているような場合も、賃借人負担でなくともよいのか?」なんて疑問もわいてきそうです。これについては、壁のクロスについて、賃借人が負担しないものとして、次のように記載されています。

〇クロスの変色(日照などの自然現象によるもの)

→考え方:畳等の変色と同様、日照は通常の生活で避けられないものであると考えられる。

押しピンの穴については、「下地ボードの張替は不要な程度のもの」という限定もついていますし、上記のように、クロスの変色は経年劣化、賃貸人側の負担と整理されています。

ここまでのガイドラインの基準をみると、「下地ボードの張替が必要なもの=くぎ穴、ネジ穴」は賃借人が負担、「下地ボードの張替が不要なもの=画鋲、押しピン等」は経年劣化で賃貸人側負担とされており、考え方も統一的かと思います。

具体的なガイドラインの使い方

ガイドラインの制定前までは、裁判例等を参考にするほかなく、裁判例では、たばこやカビなど複合的なものも多く、実際のトラブルが生じても解決基準を知ることが難しい状況でした。

もっとも、現在は「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」が制定されましたので、よくある典型トラブルについては、上記のように基準が整理されました。

少し資料が読みづらいと感じる方もいるかもしれませんが、ネットで「原状回復 ガイドライン」などと検索すれば、国交省のサイトにつながり、ガイドラインの「損耗・既存の事例区分」という部分を参照すれば基準を容易に確認できます。

それでも、具体的なトラブルが生じてガイドラインだけではわかりづらいような場合には、別途専門家に相談して解決していくほかないかと思いますが、ガイドラインのおかげで非常に基準は明確化され、賃貸人と賃借人のトラブルも減少傾向になるのではないでしょうか。

監修:山村 暢彦氏(山村法律事務所 代表弁護士)

監修:山村 暢彦氏(山村法律事務所 代表弁護士)

専門は不動産法務、相続分野。実家の不動産トラブルをきっかけに弁護士を志し、現在も不動産法務に注力する。日々業務に励む中で「法律トラブルは、悪くなっても気づかない」という想いが強くなり、昨今では、FMラジオ出演、セミナー講師等にも力を入れ、不動産トラブルを減らすため、情報発信も積極的に行っている。


クライアントからは「相談しやすい」「いい意味で、弁護士らしくない」とのコメントが多い。不動産・相続のトラブルについて、自分ごとのように解決策を提案できることが何よりの喜び。


さらに不動産・相続法務に特化した業務に注力するため、2020年4月1日、不動産・相続専門事務所として山村法律事務所を開設。


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