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原状回復で455万円の出費も…「入居者の孤独死」によるピンチへ備える「アパートオーナーのための保険」【FPが解説】

アパートを経営しているとまれに発生するのが、「入居者の孤独死」によるトラブルです。もし、死亡から日数が経過していると、遺体の腐敗が進行し、部屋が凄惨な状況となることもあり得ます。原則、原状回復費用は入居者の負担で行うものの、遺族が見つからない、遺族が拒否した際などには、オーナー負担で原状回復せざるを得ないケースも……。本記事では、そんな入居者の死亡リスクに備えられる「保険」について、長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。

ある日を境にぱったりと姿が見えない…入居者の孤独死

アパートオーナーであれば「孤独死」という言葉に敏感になっていることと思います。一人暮らしの高齢入居者がある日を境に誰も見かけなくなり、気が付いたら部屋で死亡していて数ヵ月が経過していた……。そうした事案が発生してしまうと、ご本人やご遺族はもちろんですが、物件を所有するオーナーにとっても泣きたくなるような事態となってしまいます。

原状回復と遺品整理の費用、家賃の減額や長期間の空室による損失、事故物件としてネットで住所と部屋番号まで公開されて訳アリ物件扱い……これではアパート経営が成り立たなくなる危険があります。

「だからお年寄りに部屋を貸すのは嫌なんだ」と、高齢者への貸し渋りに繋がる最大の理由がこの孤独死のリスクです。

しかし今後のアパート経営において、高齢者を除外することは難しくなるかもしれません。非正規雇用の増加にともなう生涯未婚率の上昇、持ち家を否定し「一生賃貸暮らし」を選ぶ層の増加、熟年離婚率の上昇などから、ますます高齢の入居希望者は増えていくと思われます。

これをチャンスに変えていくためには「守り」の部分が重要です。孤独死事案はどうしても避けられないものとして捉え、原状回復や家賃減額などの損失を補填する仕組みを構築しておく必要があります。孤独死対策の柱のひとつが「保険」の活用です。

ここからは、入居者の孤独死の現状と、それに備えるための保険について解説していきます。

孤独死の実態

この日本で孤独死をした人は何人いるのでしょうか。

孤独死についての全国的な統計はありませんが、断片的なデータは存在しています。日本少額短期保険協会が発表した『第7回孤独死現状レポート(2022年11月)』によると、2015年4月から2022年3月までに孤独死した人数は6,727人となっています。ただしこれは「孤独死保険」に加入している被保険者だけの統計なので、実際にはもっと多くなります。

東京都「東京都監察医務院で取り扱った自宅住居で亡くなった単身世帯の者の統計(令和2年)」によると、2020年の一年間に東京都区部において孤独死したのは6,096人です。2003年から比べても増加傾向にあります。

第7回孤独死現状レポートを詳しく見ていきます。性別では男性の孤独死が女性の5倍の人数。年齢構成では、20歳から60歳までの現役世代が4割を占め、60歳以上は6割となっています。

「孤独死=高齢者」という先入観を持ちやすいのですが、実は4割が現役世代なのです。しかも20歳~39歳の若い世代が全体の12.2%を占めています。死因は病死が66.8%、自殺が9.8%。自殺は20代に最も多く、そのなかでも女性のほうが多い状況です。

これらのことからアパートオーナーが高齢者の入居を拒んでも、孤独死事案がなくなるわけではないということが理解できると思います。

配管が体液や脂で詰まり、虫が大量発生…孤独死の部屋の凄惨な状態

死因を問わず、孤独死が起きた部屋の状態は凄惨そのものです。遺体の腐乱状態は死後の日数や季節にもよります。孤独死発生から発見までの平均日数は18日です(第7回孤独死現状レポートによる)。

約半月も放置された遺体は腐敗が進み、体液が染み出してきます。耐えがたい激烈な悪臭を放つため近隣住民が警察に通報して発覚するケースが多いのです。

腐乱した遺体から染み出た体液は部屋の床にまで達し、さらには床下の根太やコンクリートスラブなど床構造までも汚していきます。体液だけではなく悪臭が壁紙や石膏ボード、断熱材などにも染み込みます。トイレや浴室で亡くなっていた場合は配管が体液や脂で詰まってしまいます。そこにはウジやハエが大量発生します。

またセルフネグレクトに陥っているケースでは、そもそも部屋が著しく汚れていて、ペットの多頭飼いが崩壊していた場合、部屋が糞尿だらけということもめずらしくありません。

そのような状態から原状回復するためには一体いくらの費用がかかるのでしょうか。

孤独死の後始末にかかる費用

孤独死をしたあとの部屋を片付けるためにかかる費用は主に3つです。

残置物処理費用

これは遺品整理費用とも呼ばれます。死亡した入居者の持ち物を整理・廃棄する費用です。本来は遺族が整理すべきですが、凄惨な現場であることと遺族に拒否されることも多く専門業者を使うことが一般的です。

第7回孤独死現状レポートによると、残置物処理費用は平均23万5,839円。最大損害額は178万1,595円となっています。

原状回復費用

フローリングと壁紙の交換、消毒、オゾン消臭だけで済む場合もありますが、床下や石膏ボードなどの建物構造にまで体液が達している場合や、ユニットバスの交換となる場合には非常に高額な費用がかかります。床暖房が設置されている場合、パネルの交換もあり得ます。染み込んだ体液は夏になると再び異臭を放つことになり、放置はできません。

平均額は38万1,111円、最大損害額は454万6,840円となっています。

家賃損失

国土交通省が2021年に制定した「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」によると、特殊清掃によって原状回復をした場合や自殺があった場合は3年のあいだ、その旨を告知する義務があるとしています(特殊清掃がなければ告知義務はありません)。

そのため、孤独死事案が発生した居室は入居者が決まりにくいのが現状です。家賃を大幅に減額すれば運よく入居者が現れるかもしれませんが、当面のあいだは収益が下がってしまいます。

平均損害額は30万7,876円です。

これら3つの費用の平均を合計すると平均92万4,826円と、約100万円です。これはアパート経営上の大きなリスクといえるでしょう。入居者の遺族に損害賠償を請求したくなりますが、それができるのは自殺や殺人があった場合のみです。自然死の場合は入居者の故意ではないため法律上、損害賠償請求は難しいのが現実です。

この損失を補償するためには、どのような保険を用意すべきでしょうか。

孤独死による損失を補償する保険とは?

孤独死による損失を補償できる保険について解説していきます。

火災保険

建物の損傷であれば、火災保険の「破損・汚損」で補償される可能性があります。本来これは突発的な事故により建物に破損や汚損があった場合に補償されるものですが、孤独死については各損害保険会社によって対応が異なります。

孤独死の建物の原状回復にどこまで適用されるのかは、契約している保険会社に問い合わせて確認する必要があります。それによっては、専用の保険や特約を検討するべきでしょう。

家主費用特約(火災保険)

一部の損害保険会社では火災保険の特約として「家主費用特約」が登場しています。これは「賃貸住宅での孤独死」による原状回復、遺品整理費用、および家賃の損失を補償するとされています。火災保険の破損・汚損の保障では対象とならない遺品整理も含まれることに注目です。対象となる事故は自殺、犯罪死、孤独死です。

「家賃収入特約」もセットして契約することなどの条件があります。

補償される金額は原状回復と遺品整理で1回の事故につき100万円までです。家賃の補償期間は保険会社によって異なりますが、3ヵ月~12ヵ月となっています。また、居室外の共用部分で死亡した場合(飛び降りなど)は対象外であるため、残置物処理には保険を使えないということになります。

この特約があるのは、限られた保険会社のみです。古い契約にはセットできないことにも注意が必要です。

孤独死保険

最も充実した保障内容となっているのが、少額短期保険、通称「孤独死保険」です。

孤独死保険は火災保険の特約よりもより保障の範囲が広くなっています。

家賃保証が付いていないものもありますが、最大12ヵ月保証されるというものや、原状回復費用では100万円~300万円程度の保険金を受け取れるものが一般的です。

20万円~50万円支払われることがある「臨時費用保険金」が保証されるタイプもあります。臨時費用保険金は、残置物処理費用や家賃の損失補填などに自由に使えます。大きな特徴として、犯罪死、自殺の場合は倍額の保険金が支払われる点が挙げられます。犯罪と自殺の場合は長期間にわたり空室となるケースがあり、倍額の保険金があると助かります。

なかには、居室外死亡の場合に保険金が別で3万円程度支払われるものもあります。飛び降りなど共用部分で死亡した場合、居室の残置物処理費用に充てることができます。

保険料は一棟所有の場合、部屋数に応じて変動するものや、戸数、家賃に応じて変動するものなど、さまざまです。

たとえば、ある保険会社の孤独死保険では、

  • 4~19戸 年4,680円×入居戸数
  • 20~49戸 年4,080円×入居戸数
  • 50戸以上 年3,360円×入居戸数

という具合に、賃貸戸数が多いほど保険料が安くなるものもあります。

無縁社会ともいわれる現代では、入居者の孤独死への備えも重要となってきます。健全なアパート経営を守るためにも、保険加入を視野に入れてみてはいかがでしょうか。

長岡 理知氏(長岡FP事務所 代表)

長岡 理知氏(長岡FP事務所 代表)

2005年プルデンシャル生命保険に入社。2009年より大手住宅メーカー専属FPとして家計相談業務をスタート。住宅購入時の相談は累計3500世帯を超える。2020年に保険会社を退職し、住宅専門の独立系FP事務所を設立。

住宅を購入する時の予算決めと家計分析、リスク対策を専門業務とする。建物の構造・仕様・施工品質による維持費の違いや寿命に着目し、安易な建物価格での比較に警鐘を鳴らしている。


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