入居者のタバコの不始末で火事発生!アパートオーナーの窮地を救う「火災保険」の大きな役割【FPが解説】
アパートオーナーにとって大きなリスクのひとつである「建物の火災」。経営するアパートで火災が発生してしまうと、建物の原状回復に時間と費用がかかり、家賃収入の減少、入居者の解約、原因によっては周辺住民への損害賠償など、大きな損失を被ることになります。本記事では、それらのリスク対策のために知っておくべきオーナーのための火災保険の役割について、具体的な事例とともに長岡FP事務所代表の長岡理知氏が詳しく解説します。
入居者の煙草の不始末でアパートが火事に…原状回復費用は誰が負担する?
入居者が賃貸契約をする前には管理会社などで入居審査を行います。そこでは収入や勤務先、過去に家賃の滞納がないかなどを調査し、人柄や態度などもコメントされ、書類がオーナーに渡されることと思います。本来であれば常識的な人物であると判断し、審査にOKを出しているはずですが、実際には入居者の生活態度や習慣まではわかりません。
たとえば「寝たばこ」という、簡単に火災に直結する悪癖があるかどうかは見抜けないのです。もし寝たばこによって居室で火災を起こしたら、オーナーとしては怒り心頭となるでしょう。寝たばこは論外としても、たばこの不始末で火災を起こした場合、部屋の原状回復費用は誰が負担するのでしょうか。
火災が発生した際にその賠償責任を誰が負うのかについては、事細かに民法に規定されています。
結論から言うと、アパートの居室において入居者の不注意が原因で火災が起きた場合、オーナーに対して入居者が原状回復費用を負担する責任があります。その根拠となるのは民法の条項です。
入居者は、
1.原状回復をしたうえで物件を大家に返還する義務を負う(民法第601条、第621条)
2.返還するまでは善良な管理者として物件を管理する義務がある(民法400条)
3.火災を起こした場合、上記ふたつの義務を履行できないため債務不履行に基づく損害賠償義務を負う(民法第415条)
上記のように民法にて規定されています。したがって、原状回復費用は入居者が支払うことになります。
当然ながら原状回復費用の額は火災の程度にもより異なります。部屋の一部を焦がしただけのケースから、部屋全体を燃やし消防隊によって放水が行われたケースまであり、数十万円から1,000万円を軽く超えるような修繕費が想定されます。
入居者が火災を起こした場合に負担すべき費用
果たして入居者はこの損害賠償を行うことができるのでしょうか。入居者が火災を起こした場合、負担すべき費用には3つあります。
- オーナーへの原状回復費用の負担
- 隣室、隣家への損害賠償の負担
- 原因は重大な過失か否か
①オーナーへの原状回復費用の負担
この費用は高額となるため、入居者が個人で支払うことは難しいと思われます。この場合は入居者が自身で加入している家財保険(借家人賠償責任特約)を使って補償することになります。
②隣室、隣家への損害賠償の負担
こちらは重大な過失がない限り隣室、隣家への賠償はしなくてもよいとする「失火責任法(失火ノ責任ニ関スル法律)」という法律があります。
一方で入居者のオーナーに対する失火責任法は適用されないという判例があり(最高裁・昭和30年3月25日判決)、①にあるオーナーに対する原状回復費用の負担は免れません。
③原因は重大な過失か否か
火災の原因が入居者にある場合、重大な過失か否かで①と②は異なってきます。重大な過失とは、危険があると明白であるにも関わらず対策を講じなかったという意味です。たとえば、「寝たばこ」「石油ストーブの周りに灯油をこぼしたまま使用した」などが該当します。
重大な過失がある場合は、火災保険の支払いを受けられない可能性があります。また、失火責任法の適用はされません。その場合は入居者本人、または連帯保証人が自費で賠償することになります。
しかしながら多くの場合、入居者が自費で損害賠償を行うことは難しいでしょう。入居者が火災保険(借家人賠償責任特約)に加入しているなら安心なのですが、なかには保険に加入することを嫌い、無保険のままのケースがあります。損害賠償を行うお金はない、火災保険も未加入、そうなると原状回復費用を負担するのはオーナーということになります。そのためオーナーは十分な火災保険に加入してく必要があるのです。
このように見ていくと、オーナー、入居者ともに火災保険でリスクに備えておく必要があることがわかります。
オーナーが加入しておくべき火災保険
アパートオーナーにとって火災保険は、「事故・災害時に大切な経営資源を失わない」という大きな役割を担ってくれます。火災時だけではなく、台風や洪水などで建物に損害を被ったときにも原状回復費用を負担してくれるのが火災保険です。
仮に火災保険がないという場合、オーナーは自費で修理をしなければなりません。もしくはアパートの修理を諦め解体することになれば、大損失を被ることになります。
火災保険の加入を融資の条件としている金融機関が多いほど、火災保険はアパート経営に必要不可欠なものになっているのです。
オーナーが加入する火災保険は、一般家庭と同じように「火災」「風災」「水災」「水濡れ」「破損」といった基本の保障を充実されるべきでしょう。加えて「地震保険」も重要です。
「新価保険特約」(保険会社によって名称が異なります)
また、保険金額(補償される金額の目安)は、「新価」で設定することをお勧めします。「新価保険特約」の新価とは再調達価額とも呼ばれ、火災事故で全焼した場合でも、もう一度同程度の建物を建設するための費用分を補償するというものです。
新価の反対が「時価」です。時価で保険金額を設定していると、火災発生時点での時価評価までしか保険金が支払われません。新築時からの年数によって減価償却された価値で保険金が支払われるため、アパートを再度建築することが難しくなります。
もし火災保険によってアパートの再建築やリノベが可能になれば、むしろ高収益物件に生まれ変わることもありえます。火災保険によってピンチをチャンスに変えることが可能になるのです。
そのうえで、次のような特約をつけるとより安心になります。
「施設賠償責任補償」(保険会社によって名称が異なります)
これは建物設備の不備により、通行人にけがをさせたり、通行している車に損害を与えたりした場合などに賠償費用を補償するものです。たとえばエアコンの室外機が落下し通行人が大けがをした場合が挙げられます。民法717条・土地工作物責任には設備も当てはまるため、オーナーか入居者が賠償責任を負います。
「家賃収入補償」(保険会社によって名称が異なります)
火災が発生すると復旧するまで家賃収入が途絶えることとなります。そのあいだの損失を補償する特約です。
入居者に加入してもらいたい火災保険の特約
賃貸契約をする際に入居者に加入を義務づけているケースもあります。義務としていない場合でも、できる限り加入してもらいたいものが次の保険です。
「借家人賠償責任特約」(保険会社によって名称が異なります)
入居者の過失で火災が発生した場合、オーナーへの賠償額を補償します。
「個人賠償責任特約」(保険会社によって名称が異なります)
入居者の不注意で浴槽を溢れさせ、階下の入居者に損害を与えた場合に補償されます。
「類焼損害特約」(保険会社によって名称が異なります)
入居者を原因として隣家を類焼した場合に、隣家に対して補償します。
これら3つの特約は火災保険(家財保険)の特約として加入できることが多いです。入居の際の強制加入とするのが安心ですが、もし強制でない場合も加入してもらえるよう情報提供を定期的にすることをお勧めします。
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