融資審査で致命傷となるケースも…不動産投資の「デッドクロス」とは?回避する4つのポイント
ローンの元金返済額が減価償却費を上回ってしまう状態に陥ることを、賃貸経営の世界ではデッドクロスと呼んでいます。この状態に陥ると、資金繰りが悪化する可能性が高く、非常に危険です。今回は、デッドクロスの発生原因や防ぐための方法、解決策について考察していきます。
デッドクロスの定義と危険性
デッドクロスとは、「ローンの元金返済額>減価償却費」となっている状態のことを意味しています。帳簿上の利益が税制に基づいて算出された数値であるのに対し、キャッシュフローは実際に得られた収入から支出を差し引いた結果として手元に残っている金額です。
ところが税制においては、実際にお金が出ていっているのにもかかわらず経費として計上できない費用と、逆に実際にはお金が出ていってないのに経費とみなされる費用があります。そのため、帳簿上の利益とキャッシュフローとのあいだに違いが生じてしまうのです。
手元から出ていっていないのに経費にできる減価償却費よりも、手元から出ていっているのに経費として認められないローンの元金返済額のほうが多くなると、実際に手元に残っているお金(収支)よりも帳簿上の利益のほうが大きくなってしまうでしょう。こうして税法上の利益が増えてしまうと、その分だけ課される税金も多くなるため、手元に残るお金が減ります。
デッドクロスの状態が続くと、資金繰りがどんどん悪化していきます。最悪の場合は、帳簿上は利益が出ているものの、実際には経営に行き詰まってしまうという「黒字倒産」の状況に追い込まれてしまう恐れがあります。
デッドクロスが発生する原因
デッドクロスが発生する要因としては、主に2つが挙げられます。1つはローンの返済中に償却期間が終了し、減価償却できなくなること。もう1つはローンの返済が進み、返済額に占める利息の割合が減少することです。
減価償却とは、アパートなどの固定資産の取得価格を所定の年数で割り、分割分を毎年計上していく会計処理です。歳月とともに価値が低下していくことを前提とし、その資産を取得した時点で購入費用の全額を計上するのではなく、耐用年数(使用可能であるみなされる年数)で分割して経費として処理を行います。
税制上、建物の耐用年数と償却率にはルールがあります。新築の建物の場合、木造や鉄骨造といった構造によって、それぞれ耐用年数が決まっています。この法律で定められている耐用年数を「法定耐用年数」といいます。ただし、法定耐用年数はあくまで減価償却費を計算するためのもので、建物が実際に使用できる期間を表すものではありません。まだまだ使える状態であっても、耐用年数が過ぎると減価償却できなくなるケースも珍しくありません。
中古アパートの場合は新築から一定の期間が経過しているため、残った耐用年数を調べる必要があります。残った耐用年数は、すでに法定耐用年数を過ぎている場合は「法定耐用年数の20%」。まだ過ぎていない場合は「法定耐用年数-経過年数+経過年数の20%」になります。
いずれにしても、中古アパートの耐用年数は新築よりも短いことは明らかです。耐用年数が短いと短期間で減価償却を進められるため、税制上においても利益を圧縮でき、大きな節税効果を得られますが、その分だけデッドクロスが早く発生しやすいことには注意しましょう。
また減価償却費の計算に「定率法」を用いた場合は、償却期間が過ぎていなくてもデッドクロスが発生するケースが出てきます。毎年一定額を計上していく「定額法」に対し、「定率法」は毎年一定割合ずつ計上していくという方法で、年数を経るにつれて償却額が減り、その結果として「ローンの元金返済額>減価償却費」の状態になることがあります。
一方、ローンの返済は元金返済額と利息分に分類でき、経費として計上できるのは後者のみです。元金返済額が経費にならないのは、経理処理において融資で得た資金が売上に計上されないことに起因しています。
ローンの返済方法には、「元利均等返済」と「元金均等返済」があります。
「元利均等返済」では毎月の返済額は一定ですが、完済が近づくにつれて利息相当額が減少していきます。したがって、返済が進むことに伴い、元金返済額が占める割合が大きくなるので、返済期間が減価償却期間よりも長い期間でローンを組むと、デッドクロスに陥りやすくなるというわけです。
「元金均等返済」は月々の返済額に占める元金相当額が一定で、利息分が変動していくという方式です。返済が進むのに伴い利息分が減少していくため、月々の返済額自体も少なくなっていきます。
デッドクロスを防ぐための4つの方法
デッドクロスを防ぐ方法としては、以下の方法が考えられます。
- 返済期間を長くする
- ローンの繰上げ返済を行う
- キャッシュフローの多い物件を購入する
- 「元金均等返済」を選択する
返済期間が長いと月々の元金返済金額を抑えられるので、デッドクロスが発生しにくくなります。その半面、完済までの期間が長いと支払う利息の総額が増えてしまうというデメリットもあるので、融資を受ける前にシミュレーションを行うのが賢明です。
リノベーションによって稼働率を高めた物件は、より安定的なキャッシュフローを期待できます。順調に手元資金が積み上がって「借入残高<キャッシュフローの総額」というバランスになってくれば、繰上げ返済によって借入残高を減らしたり、完済したりといった手を打ちやすくなります。
また、返済が進んでも元金返済額がずっと変わらない「元金均等返済」を選ぶのも防止策の1つとして挙げられます。
「残りの耐用年数が長い物件を選ぶ」「頭金を多めに投入する」もデッドクロス回避の手段ではあるが…
■残りの耐用年数が長い物件を選ぶ
築浅の物件やRC造・SRC造の中古物件は、相対的に残りの耐用年数が長いため、耐用年数が終わるまでにローンを完済できれば「減価償却期間>返済期間」というバランスで、デッドクロスを回避することが可能です。
しかし、残りの耐用年数が長くても物件価格が割高だと利回りが低くなり、収益面での魅力が減少します。また、償却期間が長い場合、年間の減価償却費が少なくなるため、その分節税効果も小さくなります。結果的に、中古アパート経営の利点が薄れることに注意が必要です。
■頭金を多めに投入する
最初に投入する頭金を多くすると、その分だけ借入額(元金)が減ってデッドクロスに陥るリスクを抑えられます。
ただし、中古アパート投資をはじめとする不動産投資は、レバレッジ効果が大きな魅力ですが、頭金を多く入れるとその効果が薄れてしまいます。また、急な資金需要に対応しづらくなる可能性があります。デッドクロス回避に注力して、もとのメリットが減ってしまっては本末転倒でしょう。
デッドクロスが発生する前に
防止策を講じる前にデッドクロスに陥った場合は、融資の借り換えや、融資元の金融機関と金利引き下げの交渉をするなどで返済額を抑え、キャッシュフローを改善するという方法もあります。ただし、昨今の金利情勢を鑑みると、金利を引き下げることは容易ではなく、有効な対策とは言い難いでしょう。
資金を工面できるなら、残債の一部もしくは全額を繰上げ返済するのも有効でしょう。ただし、繰上げに充てたことで手元資金が枯渇してしまうと、修繕などの不意の出費にも対応できなくて賃貸経営が行き詰まってしまう恐れが出てきます。
デッドクロスが発生してから慌てるよりも、事前に予測して手を打っておくのが得策です。その発生は、ローンの返済額(元金・利息)と減価償却費をもとに試算することによって、あらかじめ察知できます。物件を購入する際には、デッドクロスのことも視野に入れて、入念なシミュレーションを行いましょう。
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