年収3,000万円・資産1億円超の40代富裕層サラリーマン大家…アパート売却後に税務調査で受けた「まさかの指摘」【税理士が解説】
不動産投資は節税効果も期待できる魅力的な投資ですが、ときには税務調査がやってくることも。特に、資産管理会社を設立する場合や、減価償却費の計算、経費の計上など、注意すべきポイントが数多く存在します。本記事では事例とともに、不動産投資における税務調査の実態と、よくある指摘事項とその対策について、元国税調査官で自らも不動産投資を行っているMK Real Estate税理士事務所の川口誠税理士が解説します。
高収入サラリーマンのもとへやってきた税務調査
外資系金融機関に勤める40代のAさんには、専業主婦の妻と小学生の子供2人がいます。年収は3,000万円を超え、金融資産は1億円以上。都内に中古アパートを数棟所有し、不動産所得の赤字を給与所得と損益通算することで所得税還付を受けていました。
資産管理会社を設立した理由
Aさんは、自身に所得が偏っているので妻にも所得を分散したほうがいいと考え、資産管理会社を設立しました。妻を役員とすることで報酬を支払い、所得を分散させることを目的としています。また、相続の際のメリットも考慮したうえで、個人で不動産を相続するよりも、不動産を保有する法人の株式を相続したほうが節税効果が高いと考えました。将来的には、子供を役員や株主にしてさらなる所得移転を図ることを計画しています。
土地は個人所有のままでも、法人が建物を所有していると、家賃収入は法人に帰属し、減価償却のメリットも受けられるので、まずAさんはアパートの建物を資産管理会社に売却することにしました。Aさんが調べたところ、建物は簿価で売却してもよいという情報があったので、簿価で資産管理会社に譲渡し申告しました。そして、それ以外のアパートも同様に資産管理会社に売却しました。
数年後に突然の連絡が…
税務署からAさんと資産管理会社に税務調査の連絡がきました。税務調査の結果、調査官からは時価との差額について、Aさんに所得税が課税され、資産管理会社のほうでも法人税が課税されると指摘されました。
税務調査で指摘された理由
Aさんが売却した簿価に問題がありました。簿価も時価として認められないわけではありませんが、減価償却費を計上したあとの未償却残高が低い場合には、時価を反映しているとは言い難い金額になることがあります。
個人から法人に不動産を売却する場合には、売買価格が時価の1/2より低いと、その差額に譲渡所得税が課税されます。売買価格が時価の1/2以上であっても、法人が個人の同族会社ですと、時価により譲渡したとみなされ、所得税が課税される可能性があります。同族会社だからこそできた、いわゆる同族会社の行為計算として否認されることがあります。
そして忘れがちですが、売主である個人だけでなく、買主である法人のほうにも影響してきます。法人は時価より低い金額で不動産を購入した場合には、税務上、時価との差額を「受贈益」として収益に計上する必要があります。法人税が課される可能性があるのです。
地方税法には、固定資産税の課税標準は固定資産の価格とされています。価格とは「適正な時価」と規定されているのです。税務署は、固定資産税評価額を基本として、必要に応じて不動産鑑定評価を行い、建物の時価を算定します。また、同族グループの管理を行うとともに、法務局から流れてくる不動産の登記情報に時価の情報を紐付け、申告が適正かどうかを確認しています。
第三者であれば、売主はできるだけ高く売りたい、買主はできるだけ安く買いたいという利害が反しますので、売買価額は適正額に落ち着くことになります。しかしながら不動産投資家自らが立ち上げた資産管理会社に不動産を売却する場合には、その利害関係が崩れるので、幅のある時価のなかで適正な時価を判断する必要があります。
不動産投資家が税務調査で指摘されやすいポイント
上記事例は不動産を売却する際の譲渡所得の問題でしたが、不動産投資家は不動産所得の申告も行っています。そのなかで税務調査において指摘されやすいポイントとしては、以下のような項目が挙げられます。
収入の計上漏れ
家賃収入のみならず、一時的に発生する礼金、更新料が収入に計上され、さらには返還を要さない敷金も収入として計上漏れがないかどうか注意する必要があります。駐車場代、自動販売機手数料、看板広告収入などの副収入も忘れずに計上しなくてはいけません。
減価償却費の誤り
不動産の購入時に発生する仲介手数料や固定資産税精算金を取得金額に含めず経費処理していることがよく指摘されます。また、土地と建物の金額を計上する際に、契約書に記載された金額を理由もなく無視して独自の計算をしたり、按分計算が正確でなかったりすると税務調査ではたびたび問題になります。
さらに、修繕が行われた場合には、建物価値増加や耐用年数延長に該当する工事であれば資本的支出、そうでない維持管理目的で行われているような工事であれば修繕費と、その区分を適切に判断する必要があります。
経費計上の不備
不動産投資家は事業主というよりも個人の延長上で行っている感覚が強いので、プライベートの費用を計上しないように注意しないといけません。事業とプライベートの両方に関わってくる家事関連費を適切に計上する必要があります。車両に関する費用や自宅兼事務所の家賃、光熱費など、事業部分とプライベート部分を明確に区分せず全額経費としている場合は問題となります。
また、親族への給与は専従者給与としての要件を満たしていない場合には認められませんので、要件をしっかり確認するようにしましょう。
青色申告特別控除の誤り、借入利子の扱い
青色申告の55万円や65万円の特別控除を受けるためには、事業的規模で不動産投資を行っている必要がありますが、事業的規模に達していないにも関わらず、控除を受けてしまっていることがあります。
不動産投資の事業的規模とは、形式的な判断基準として、
・アパートなどの賃貸については、10室以上であること
・戸建などの賃貸については、5棟以上であること
などがそれにあたりますが、この規模に達していない場合は原則として10万円の控除しか受けることができません。
また、土地に係る負債利子は損益通算の対象になりませんが、これを含めている誤りが多いです。
税務調査に備えて…不動産投資家が普段からやるべきこと
不動産投資家に限りませんが、帳簿書類の正確な作成と保管に尽きるといっても過言ではありません。
家賃収入や礼金、更新料などの収入や諸経費を正確に記録するとともに、領収書、請求書、契約書、通帳などの証憑書類を整理・保管し、いつでも提示することができる状態にしておくことが大切です。仮に領収書がない場合であっても、事業に係る支払いであれば、なんの支払いかわかるようにメモを残しておきましょう。
不動産投資に詳しい税理士と顧問契約を結び、適正な申告や税務調査の対応を相談することができる体制を整えておき、税理士と一緒に上記のような税務調査でチェックされやすいポイントを定期的に確認することも大切です。
上記事例は筆者の経験に基づき記載していますが、守秘義務の観点から実際の事案の内容とは異なっております。
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