突然の修繕ラッシュ…キャッシュフローがマイナスに。会計処理はどうする?【税理士が解説】
修繕費が嵩んでキャッシュフローがマイナスに……。不動産投資でよくある悩みの解決策とは? 本記事では、修繕費の会計処理から資金繰りの改善策まで、MK Real Estate 税理士事務所の、元国税調査官で自らも不動産投資を行っている川口誠税理士が実践的なアドバイスを伝授します。
キャッシュフローと修繕費の関係性
修繕費は家賃収入から手元に残るお金に直接影響してきます。管理会社からの家賃の振込みと相殺されることが多いと思いますが、修繕費の金額が大きい場合には、別途請求されることもあります。
以下は、筆者があるアパートで実際に行ったこの2~3年の修繕の履歴になります。
① 室内電気温水器修理(2部屋)
② 靴箱修繕
③ 火災報知器交換(全部屋)
④ 退去リフォーム工事
⑤ 浴室水栓交換
⑥ 室外電気温水器交換
⑦ エアコン交換
このなかで、最も大きかった修繕費の金額は、⑥の室外の電気温水器を交換した費用で40万円ほどになりました。修理でこと足りればよかったのですが、部品の在庫がなく、電気温水器そのものを交換することになり、痛い出費となりました。
それに次いで大きかったのが、④の退去時にかかったクロス張替え等のリフォーム工事の費用。総額30万円ほどでした。皆さんも聞いたことがあると思いますが、ファミリー世帯が長く住んでいる場合には、退去時のリフォームにそれなりの費用がかかることがあります。逆にいうと、更新が続いている入居者がいれば、リフォーム工事費用を準備しておかなければなりません。
不動産投資家個人は、青色申告決算書の必要経費または収支内訳書の経費に修繕費の勘定科目が印字されていますので、該当箇所に金額を記載して経費に計上します。不動産所有法人や資産管理会社等の法人は、販売費および一般管理費に修繕費として費用計上します。
キャッシュフローが修繕費によってマイナスにならないようにするには?
区分マンションなどは家賃収入から修繕積立金が自動的に差し引かれますが、アパートオーナーは自ら修繕資金を貯めていく必要があります。可能な限りお金を貯めて、いつ修繕が発生してもいいように準備しておきます。物件購入時に自己資金をすべて頭金として利用するのではなく、手元に残しておくと、購入から間もない資金不足の状態でも修繕に対応することができるでしょう。併せて、融資返済期間を長くするなどして家賃収入から手元にお金を残すようにして貯めていきます。
筆者は、小規模なアパートであれば大規模修繕の資金として200~300万円を最低限用意しています。それくらいの資金があると気持ち的にも安心です。国土交通省が発行している「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」※1では、アパートの築年数とともにどれくらいの修繕費用が必要になるかを試算していますので、参考にしてみてください。
また、一時のキャッシュアウトが生じないように、大規模修繕費用は融資を組むことによって支払いを遅らせることができます。10年程度融資期間の取れる、事業性の資金使途に対応したリフォームローン等を選択肢として検討しましょう。
修繕費を抑えるための予防策
先日、筆者が保有しているアパートで退去時のリフォームに際し、業者から「リフォームに合わせて電気を交換してもらえれば割安で請け負います」という提案がありました。特に電気が壊れているわけではなく、おしゃれになるということでしたので、無駄な出費であると判断し、断りました。
しかし当然ながら賃貸経営には投資という側面もあり、付加価値のある修繕まで行うことが投資の効果に結び付く場合もあります。
トイレ、お風呂、キッチン等の設備を必要最低限使えるように維持する修繕は、入居者が日常生活を送るためには必須となりますが、それ以外の部分の修繕については、費用対効果を総合的に判断し、検討しましょう。
また、 修繕費の中でも大きな費用は大規模修繕費用になります。築年数が経っている物件を購入する場合には、大規模修繕が終わったあとの物件を買うことも選択肢の一つです。
人間の体と同じように、物件も定期的にメンテナンスを行う必要があり、そんな物件は長持ちします。ただし、そのような物件は往々にして販売価格に修繕費が盛り込まれており、利回りが低くなっていることも配慮してください。長期で保有していくのであれば、買ったあとの物件を定期的にメンテナンスしていくことも大切です。定期的にメンテナンスを行うことによって、大きな修繕費の出費を抑えることにつながります。
また、修繕は物件ごとに生じるので、修繕が当面生じない新築物件を不動産投資のポートフォリオに組み込むことで修繕費用のリスクを分散させることが可能です。
修繕費と資本的支出の区分
すべてが修繕費として経費や費用に計上することができるわけでなく、資本的支出に該当する場合には減価償却資産として資産計上します。では、どういった場合に資本的支出に該当するのでしょうか。
法令には、資本的支出は「使用可期間を延長させる」、あるいは「資産の価額を増加させる」と規定されていますが、その判断は通達や裁決等によって行います。通達には、修繕費は「通常の維持管理のため」のもの、資本的支出は「価値を高め、耐久性を増すため」のものと記載されています。いずれも概念的ですが、基本的な考え方です。さらに、通達には修繕費や資本的支出の例が挙げられており、物理的になにかを設置したり、用途を変更したりすると資本的支出に該当してきます。
実務では、まず修繕費の金額が20万円未満であると修繕費として処理します。20万円以上である場合には、先ほどの基本的な考え方により、修繕費か資本的支出かを判断する必要が出てきます。それでも判断することができないときは、修繕費の金額が60万円未満であると修繕費として処理します。詳細は国税庁が作成しているフロー図がわかりやすいので利用してみるとよいでしょう。

出典:国税庁「修繕費と資本的支出の区分(フロー図)」※2
修繕費と資本的支出の区分では、これまで行われた裁決も参考になります。

その他の税務上の注意点としては、フロー図の先頭にも記載されていますが、修理改良等のための支出という前提条件があるため、エアコンや給湯器等そのものを取り換えると修繕費に該当しないということです。固定資産を廃棄して新たに固定資産を取得したものと考えます。ただし、金額が30万円未満であることが多く、青色申告者は少額減価償却資産として経費や費用として処理することができます。
また、1つの修繕工事で金額が大きい場合でも、見積書の明細を確認すると、工事がわかれていたり、少額減価償却資産が入っていたりすることがあるので、必ず明細を確認するようにしてください。
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